ミコトサマ

都貴

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第二章

リアル肝試し⑤

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彼女と優斗は、ロビーの左側のドアから出て和室に到達した。
一つ目の部屋は何の問題もなく、面白そうなものもなかったそうだ。だが、その部屋と襖で繋がっていた隣りの和室で、恐ろしい目に遭ったという。

純和風の部屋の中央に大きな掘り炬燵があり、舞と優斗は掘り炬燵の下から奇妙な叫び声や足音がするのを聞いたという。

二人が不思議に思って炬燵の下を覗き込むと、格子状の木製の底が急に揺れだし、そこから白くて細い手が現れたらしい。
次いで、中から真っ白の着物姿の女のが現れて、追い掛けられたそうだ。


舞と優斗も屋敷の中は危険だと感じて、森の中へ逃げ込んみ、そこで美也達と落ちあって、まだ戻らない綾奈達を隠れながら待っていたというわけだ。

「ホント、私もう怖くってさ~、こんな心霊体験したの、初めて!」

 恐怖が冷め、舞は興奮気味に屋敷での出来事を語った。

笑顔を浮かべる舞を見て、彼女の心臓には野太い毛がたくさん生えていると綾奈は確信した。
自分だったら、彼女みたいに楽しそうに話せない。
まだ怖くて膝が震えているくらいだ。

しかし、明るい舞のおかげでだいぶと恐怖が払拭されてきた。
とにかく、あんな体験は二度としたくない。

「ねえ、早く帰ろうよ。ぼやぼやしていると真っ暗になっちゃうよ」

「そうね。綾奈の言う通りだわ。さっさと帰りましょう。もう、汚れちゃったから早くお風呂に入って綺麗にしたいわよ」

 七人は早足で帰路を歩いた。空からぽつぽつと雫が降り注ぐ。
とうとう雨が降り出してしまった。

「もう、雨が降るなんて最低ね。服がドロドロになってしまうじゃないの!」
「海はいいよね、ここから近いし。アタシは海の家を通り越して駅まで行かないといけないから大変だよ。もっと雨が激しくなったらどうしよ?」

 舞が文句を言う。優斗も手のひらを空に向けて、困ったように眉尻を下げた。

「あ~あ、これじゃオレ達、ずぶ濡れになっちまうな。なあ、辰真」
「本格的に雨が降りだす前に急いだ方がよさそうだな」

 白藤市に住む辰真と優斗と舞は、雨空を見上げて歩きながら話しあっていた。
なかでも一番文句を言っていた舞の肩を海が優しく叩く。

「ねえ舞、よかったらワタシの家に寄って行ったら?お茶でも飲んで行ってよ。傘でも貸すし、よければ車で駅まで送っていくわよ」
「えっ、マジでいいの?海」
「当然よ、舞。辰真も優斗も寄っていったらどう?」
「やったぜ、行く行く。お嬢様育ちの海の家、見てみたかったんだよな。辰真も行くだろ?」
「いや、おれはいい。走って帰るから平気だぜ」

 つれない辰真の言葉に海はつまらなそうな表情を浮かべる。
綾奈と美也は四人のやり取りを一歩後ろから見ていた。

「海、積極的だね。よくやるよ」

 美也が目を細めて吐き捨てるように言った。

「まあね。でも、いいんじゃないかな。積極的なのっていいことだし」
「相手が迷惑でなければ、ね」

 毒舌を吐く美也に綾奈は苦笑した。みんなの会話を聞きながら一人、綾奈は不安に押し潰されそうだった。

森を抜ける瞬間、誰かの声が聴こえた気がしたからだ。
風の囁きのようなか細い女の声が『とけた、自由だ』と意味深な言葉を呟いた。

単なる気の所為だとは思うのだが、屋敷での体験考えると、安易に気の所為で片付けるのは危険な気がした。

叫び声や呻き声ではない、不明瞭だが声は確かにちゃんと言葉になっていた。
何がとけたのか、何が自由なのか。
意味を深く考えるとじわりと恐怖が胸の中に広がった。

結局、綾奈は考えるのを放棄してしまった。

「じゃあ、ワタシの家はこっちだから。じゃあね、辰真。綾奈も気をつけなさい。幽霊に襲われるかもしれないから」
「ちょっと、やめてよ海。それ冗談になってないよ」
「せいぜい気を付けるのね。行きましょう、舞、優斗」

 舞と優斗を連れ、海は彼女の家が建つる大きな道の方に逸れていった。

「わたしは、こっちだから。じゃあね」

 沙希は誰に言うでもなくそう呟くと、海が歩いていったのとは違う道に逸れていく。
彼女の横顔には濃い影が射していて、憔悴しきった顔をした。

沙希は最初から屋敷に行くことに酷く怯えていた。
その上あんな体験をしたのだから、疲れ切った顔をしていても無理はないのだが、それにしたってあまりに顔色が悪い。
青白いのを通り越して、真っ青だ。一人で帰らせても大丈夫だろうか。

ふと、綾奈は心配になった。
顔色が悪いだけじゃなく、足取りもフラついてかなり危なっかしい。

「ねえ沙希、家までついて行こうか?」

背後から声を掛けてみたが、沙希は答えずに明りの少ない細い道へと姿を消した。

その背中に強い拒否を感じて、綾奈は彼女を見送るのをやめて歩きだした。

数メートルおきにある古い街灯が、ぼんやりとアスファルトの道を照らしている。
小雨だった雨はだんだん大粒になっている。雨のせいだろうか、少し前までは蒸し暑いと思っていた気温がぐんと下がり、秋の夜の到来を思わせた。

「すごい雨だな。如月も都築もここからまだ遠いんだろ、大丈夫か?」
「うん。でも大丈夫だよ。ね、美也」
「そうだね。雨ぐらい平気」
「でも、けっこう降ってるぜ。雨宿りしてった方がいいんじゃないか?」
「う~ん、そうだね」

 綾奈は空を見上げた。雨はやみそうになく、激しさを増す一方だ。


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