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第二章
リアル肝試し①
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綾奈たちは右のドアを開き、廊下に出た。
床のいたる所に染みや痛みが点在している。人が住まなくなってから久しいのだろう。
廊下に出てすぐ左手の方に、暖簾の掛かったドアが見えている。
紺色の分厚い布に白字で湯と書かれている。風呂場のようだ。
ミコトサマはお金持ちの一家だったという話だが、ホテルや旅館の大浴場のような風呂場があるなんて驚きだ。
屋敷の広さから見て、ミコトサマの一家はかなりの大家族だったのか。
まっすぐ廊下を進んでいく。
左手側はしばらく壁が続いた。風呂場がかなり大きいことが窺える。
風呂場のドア以外には洗濯室とトイレの扉があった。
右手側は最初に通ったロビーへのドアがあるだけだ。しばらくして壁に突き当たった。
壁には小さな窓があり、薄暗い廊下をオレンジの陽光が照らしている。
まだ、陽が沈み切っていないのは幸いだった。
陽が完全に姿を消せば、電気が止まった屋敷の中は真っ暗闇に包まれてしまうだろう。
綾奈は窓の外に羨望に満ちた瞳を向けた。早くこの気味悪い屋敷から出て外の空気を吸いたい。
綾奈の願いを嘲笑うように、窓にはやはり鉄格子が嵌められている。
屋敷から出ることは状況的にも物理的にも困難のようだ。
「やっぱり幽霊屋敷なんてただの噂なんだな。ミコトサマらしき幽霊なんて見ないし、それどころか、ラップ音とか変な声一つしないぜ」
「なにを言ってるのよ、辰真ったら。そんなのあたりまえでしょう。私は幽霊屋敷にミコトサマを見に来たんじゃないわ。怖がりだった綾奈が、どのくらい成長したのかを見に来たのよ」
「もう海ったら、しつこいよ。そんなこと、どうでもいいでしょ」
「あら、ブラコンの綾奈がちょっとでも兄離れできるように手伝ってあげているのよ」
ブラコンという言葉に綾奈はグサッときた。図星だった。
兄に頼り過ぎる自分から脱却するためにここへ来たのだと思い出し、もう少し頑張ろうと気力が沸いてくる。
挫けていた意思を奮い立たせ、綾奈は背筋を伸ばした。
「廊下はここで行き止まりね」
「そうだな。おっ、階段があるぜ。登るか?」
左側にひっそりと見える薄暗い階段を辰真が指差す。三人は階段の下に並んで立った。
階下から見上げると先は真っ暗だった。
幼い頃、海の新築の家でやったかくれんぼの情景を思い出して、綾奈は早くも心が折れそうになった。
本能的に感じていたのかもしれない。
この先に行ってはいけない、早く帰った方がいいと。
でも、自分の勘など到底信じるに値せず、心の針はプライドに傾いてしまった。
胸に募る恐怖心を抑え込み、海と辰真に続いて綾奈も闇への階段を登った。
床のいたる所に染みや痛みが点在している。人が住まなくなってから久しいのだろう。
廊下に出てすぐ左手の方に、暖簾の掛かったドアが見えている。
紺色の分厚い布に白字で湯と書かれている。風呂場のようだ。
ミコトサマはお金持ちの一家だったという話だが、ホテルや旅館の大浴場のような風呂場があるなんて驚きだ。
屋敷の広さから見て、ミコトサマの一家はかなりの大家族だったのか。
まっすぐ廊下を進んでいく。
左手側はしばらく壁が続いた。風呂場がかなり大きいことが窺える。
風呂場のドア以外には洗濯室とトイレの扉があった。
右手側は最初に通ったロビーへのドアがあるだけだ。しばらくして壁に突き当たった。
壁には小さな窓があり、薄暗い廊下をオレンジの陽光が照らしている。
まだ、陽が沈み切っていないのは幸いだった。
陽が完全に姿を消せば、電気が止まった屋敷の中は真っ暗闇に包まれてしまうだろう。
綾奈は窓の外に羨望に満ちた瞳を向けた。早くこの気味悪い屋敷から出て外の空気を吸いたい。
綾奈の願いを嘲笑うように、窓にはやはり鉄格子が嵌められている。
屋敷から出ることは状況的にも物理的にも困難のようだ。
「やっぱり幽霊屋敷なんてただの噂なんだな。ミコトサマらしき幽霊なんて見ないし、それどころか、ラップ音とか変な声一つしないぜ」
「なにを言ってるのよ、辰真ったら。そんなのあたりまえでしょう。私は幽霊屋敷にミコトサマを見に来たんじゃないわ。怖がりだった綾奈が、どのくらい成長したのかを見に来たのよ」
「もう海ったら、しつこいよ。そんなこと、どうでもいいでしょ」
「あら、ブラコンの綾奈がちょっとでも兄離れできるように手伝ってあげているのよ」
ブラコンという言葉に綾奈はグサッときた。図星だった。
兄に頼り過ぎる自分から脱却するためにここへ来たのだと思い出し、もう少し頑張ろうと気力が沸いてくる。
挫けていた意思を奮い立たせ、綾奈は背筋を伸ばした。
「廊下はここで行き止まりね」
「そうだな。おっ、階段があるぜ。登るか?」
左側にひっそりと見える薄暗い階段を辰真が指差す。三人は階段の下に並んで立った。
階下から見上げると先は真っ暗だった。
幼い頃、海の新築の家でやったかくれんぼの情景を思い出して、綾奈は早くも心が折れそうになった。
本能的に感じていたのかもしれない。
この先に行ってはいけない、早く帰った方がいいと。
でも、自分の勘など到底信じるに値せず、心の針はプライドに傾いてしまった。
胸に募る恐怖心を抑え込み、海と辰真に続いて綾奈も闇への階段を登った。
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