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第二章
リアル肝試し⑦
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美也の家から歩くこと約十分、二人は家に着いた。
綾奈が玄関の扉を開けると、ケイが玄関マットの上にちょこんと座って迎えてくれた。
金の双眸がじっと綾奈を見詰める。
昨夜、幽霊屋敷を見ていた時と同じ瞳だ。何を考えているのか読めない、暗い海の底のような瞳孔が恐ろしく感じられた。
「どうしたの、ケイ」
綾奈はケイに向かってそっと手を伸ばした。けいのしなやかな背が弓形になり、全身の毛が逆立つ。いつもの倍に見える身体で、ケイは低い警戒の声を発する。
「フゥ~ッ!」
シャッと威嚇音を出すとケイが強く床を蹴った。
ケイが飛びかかってくるよう思えて、綾奈は咄嗟に身を縮めたが、ケイは自分の横に着地しただけだった。ケイが着地した瞬間、強い風が背後を駈け抜けて遠ざかった気がした。
何が起きたのだろうか。恐る恐る綾奈が瞳を開けると、ケイはいつもの愛らしい顔で首を傾げてこちらを見上げていた。
ケイは嬉しそうにニャアと鳴くと、綾奈の足に身体を擦りつた。
「ただいま、ケイ。乱暴なお迎えだね。びっくりしちゃった」
綾奈はケイを抱き上げると湿った鼻の頭をつついた。
それにしても、さっきの行動は何だったのだろう。昨夜からケイの様子が可笑しい気がする。
猫がじっと一点を見詰めて動かない時、そこには霊がいるんだって。
ふいに、美也から聞いた言葉を思い出した。
背中に悪寒が走り、綾奈は玄関の外を振り返った。
そこには当然、自分と玲以外は誰もいない。
それでも何かがいる気がして、落ち着かなかった。
「どうした、綾奈」
「ううん、なんでもないの」
挙動不審な妹を心配そうに玲が見ている。これ以上、兄を心配させたくなかった。
「お腹減ったね。今日の晩ごはんは何かな」
夕飯なんてべつになんだってよかったけど、綾奈は努めて明るく振舞った。
玲がほっとしたような顔をする。
「今日はカレーだよ、匂いがしているだろう」
「ほんとだね。おいしそうな匂い」
笑いながらも、綾奈の胸中では幽霊屋敷で見た怨念の籠ったミコトサマの顔と、壊れてしまった道祖神が渦巻いていた。
胸の中で、押し潰されそうなほどの不安がとめどなく溢れだしていた。
綾奈が玄関の扉を開けると、ケイが玄関マットの上にちょこんと座って迎えてくれた。
金の双眸がじっと綾奈を見詰める。
昨夜、幽霊屋敷を見ていた時と同じ瞳だ。何を考えているのか読めない、暗い海の底のような瞳孔が恐ろしく感じられた。
「どうしたの、ケイ」
綾奈はケイに向かってそっと手を伸ばした。けいのしなやかな背が弓形になり、全身の毛が逆立つ。いつもの倍に見える身体で、ケイは低い警戒の声を発する。
「フゥ~ッ!」
シャッと威嚇音を出すとケイが強く床を蹴った。
ケイが飛びかかってくるよう思えて、綾奈は咄嗟に身を縮めたが、ケイは自分の横に着地しただけだった。ケイが着地した瞬間、強い風が背後を駈け抜けて遠ざかった気がした。
何が起きたのだろうか。恐る恐る綾奈が瞳を開けると、ケイはいつもの愛らしい顔で首を傾げてこちらを見上げていた。
ケイは嬉しそうにニャアと鳴くと、綾奈の足に身体を擦りつた。
「ただいま、ケイ。乱暴なお迎えだね。びっくりしちゃった」
綾奈はケイを抱き上げると湿った鼻の頭をつついた。
それにしても、さっきの行動は何だったのだろう。昨夜からケイの様子が可笑しい気がする。
猫がじっと一点を見詰めて動かない時、そこには霊がいるんだって。
ふいに、美也から聞いた言葉を思い出した。
背中に悪寒が走り、綾奈は玄関の外を振り返った。
そこには当然、自分と玲以外は誰もいない。
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「どうした、綾奈」
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「ほんとだね。おいしそうな匂い」
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