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第二章
リアル肝試し②
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舞と優斗はロビーの左のドアを出た。そこは畳が一面に敷き詰められた和室だった。
洋室に和室、いろいろな部屋があって羨ましい。舞は物珍しげに部屋を見回す。
「あのさー、優斗クン、ミコトサマなんて幽霊、本当にいると思う?」
「いるわけねえじゃん。ただの都市伝説だろ?まあ、この町は田舎だから田舎伝説ってことになるけどな」
「だよねぇ。海もモノ好きだよね。まあ、幽霊の検証が長引けば、辰真クンと長く一緒にいられるから、もっと探そうなんて言い出したんだろうけど」
「へえ、海って辰真が好きなのかよ?」
「うん、もうちょ~お気に入りってカンジだよ」
「なるほどな。でもよ、それなら辰真と二人で行けばいいのに、なんで如月も連れてったんだろうな」
「さあ。牽制してるんじゃないの?如月さんと辰真クン、ちょっといい感じだったから。如月さんの前で辰真にくっついてアタシのものよ、ってアピールしてるとか」
海は綾奈をライバル視して、嫌っている節がある。
舞は綾奈のことはべつに嫌いじゃないし、じつはちょっと彼女と辰真のことはお似合いだと思っている。
だけど、海が辰真を好きなのでそんなことは口が裂けても言えない。
クラスで女王様的な地位を築いている海に敵認定されたら、学園生活が終わる。
女の世界は大変なのだ。
「へえ、女ってスゲー。いろいろ考えてんだな」
「そ。女って狡猾なんだよー」
呑気に会話をしながら、舞と優斗は部屋の中を見回った。
部屋は薄汚れていて、ところどころ染みがある。あまりの埃っぽさに喉がイガイガしてきた。
幽霊屋敷の探索は心が躍るしけっこう楽しいけど、こう汚いと早く帰りたくなる。
「なんか、変わった様子あるか?」
「ううん、ぜんぜーん。優斗クンはなにか見つけた?」
「別になんもねえな」
本当になにもない。舞はつまらなさげに部屋を物色する。
机や箪笥を開けて見るが、特に目を引くものはない。
古ぼけた小汚いノートや本、筆記用具が入っているだけだ。
「何が書いてあんだろうな」
舞が開いた引き出しに入っていたノートの一つを手に取り、優斗がページを開いた。
中身は日記のようだ。
その日の天気の様子、何をしたか、どんなものを食べたかなど、とりとめのないことばかり書いてある退屈な日記だ。
後ろから覗いていたが、面白い事は描いてなさそうだと舞は覗くのをやめた。
優斗はぼんやりと内容を斜め読みしながら、次々とページを捲っている。
何が面白いんだろう。舞は内心鼻白む。
「何だよ、くっついてんのか」
「どうしかした?優斗クン」
「見てみろよ舞!この日記、最後の方のページが開かねえんだよ!」
いかにもすごい物を見つけたといったていで優斗が舞に報告する。
めんどくさ。
内心そう思いつつも、舞はノリよく返事をする。
「なにそれ~、なんでなんで?」
「わかんねーよ。何かがくっついてるみたいなんだよな」
「へえ、どれどれ」
舞は優斗から日記を奪うと、くっついたページとページの隙間にネイルアートが施された長い爪を差し込み、むりやり開こうとした。
バリバリと嫌な音を立てて開いたページは、字の部分が破れているのと、べっとりと赤い塗料が付着していて殆ど読めない。
どうせお菓子のカスを落としたとか、飲み物を零してそのままページを閉じたとか、
下らない理由だろう。
そう思っていたのに、意外と気味の悪い理由でくっついていたので少し驚いた。
「うわっ、なにこれ。赤インクかな」
「それ、血じゃんか」
いや、血じゃないでしょ。
そう思いつつ、舞は女子らしく怖がって見せる。
「ホントに?うわっー、気持ちわるっ。ミコトサマって変な病気にでもかかってたのかな」
血と破損で殆ど字が読めないなか、一部だけ辛うじて読める箇所が残っていた。
優斗が目を凝らして、その文字を読みあげる。
「こ、ろさ、れ、る?殺されるって、書いてあんのか?」
殺される。本当にそう書いてあったらさすがに怖い。
だけど舞には、殺されると書いてあるようには読めなかった。
最初の方のページの整然とした字と違い、ぐちゃぐちゃの字で書き殴られた文字列。
はっきり言って、何て書いてあるのか、文字なのかさえわからない。
だけど、とりあえず優斗に同調する。
「ウソッ。なにそれ、ちょー怖いじゃん」
幽霊屋敷探索の醍醐味は、ありもしない怪異に怖がり、楽しむことだ。
その気分を害するのは悪いと思った。だからそうした。
その舞の配慮に気付くことなく、優斗が得意げな顔で講釈を述べる。
「ほんと、なんか気持ちワリィよな。ミコトサマ、一家心中したって話だもんな。親に殺さるかもって感じとってたに違いないぜ」
優斗があまりにも得意顔なのがムカついて、つい意地悪をしたくなった。
「そうかもね。でも、それ、本当に殺されるって書いてあんの?」
舞が指摘すると、優斗はもう一度日記を見た。
目を眇めて日記を数秒ほど眺めたあと、優斗は舞の顔を見てへらりと笑った。
「やっぱオレの勘違いかも。なんて書いてあるかよくわかんねぇや」
「でしょ。アタシ、日本語にすら見えないもん。ねえ、この部屋には他に変わったところはないし、別の部屋行かない?」
「そうだな、行こうぜ」
優斗が日記を床に捨て、別の部屋に続く襖を開いた。舞はその後ろに続く。
隣室も畳張りの純和風な部屋だった。
部屋の中央には結構大きい掘り炬燵がある。炬燵布団は掛けられていない。炬燵の底には、格子状の床蓋が被せられていた。
「う~ん、大きなコタツがあるだけで、ここも変わったカンジはないね」
舞はゆっくりと部屋を歩き回った。
なにか変わったものはないかとうろついていると、優斗にいきなり強く腕を掴まれて、ひっぱられた。
「ちょっ、なんなの、優斗クン。痛いじゃん」
口を尖らせる舞を、優斗が鋭い目で見る。
「しっ、静かに、何か聞こえねぇか?」
「えっ」
優斗が口を閉ざして目だけで辺りを確認する。
優斗の瞳は掘り炬燵を捕えると、ぴたりと動きを止めた。
いつもは飄々と笑ったファニーフェイスが引き攣る。
「ちょっとぉ、アタシのこと驚かそうったって、そう簡単にひっかかってあげないし」
舞は優斗が自分をからかおうと冗談を言っているのか、雰囲気を醸し出して幽霊探索を盛り上げようとしているのだと思った。
掘り炬燵を見る優斗があまりにも真剣なことも、意外にも演技上手だなというぐらいにしか思っていなかった。
だが、すぐにそうじゃないと知って蒼くなる。
舞も奇妙な音を聞いてしまったのだ。
ヒタヒタ、ヒタヒタ
裸足であるくような不気味な足音。
地獄の底から聞こえてくるような低い唸り声、隙間風のような甲高くか細い悲鳴。
怖気が走る不気味な音や声が幽かにだが聞こる。
音は掘り炬燵の方からだ。
「なに、この声。気のせいだよね。それとも風の音とか?」
早口で呟くように舞は優斗に尋ねた。だが、彼は答えない。
彼の横顔は明らかに怯えていた。
「この掘り炬燵の下、なんか、いるんじゃねえのか?確かめた方がいいよな」
震える声で優斗に言われて、舞は顔を顰めた。
確かめたくなんてなかった。
だけど、優斗がかなり掘り炬燵の下を気にしているのが伝染して、怖いのに確かめたくなった。
確かめずに帰れば、余計に後で怖い。
何でもなかったと知って安心したい。
そんな気になったのだ。
「確かめようよ、なんか、おもしろそうだし」
「だよな、ヤベーよ、リアル肝試しじゃん」
お互い心にもないことを言って、楽しくもないのに笑顔を浮かべた。
怖くても確かめるしかない状況に二人で陥る。
舞と優斗は畳に膝をついて屈み、掘り炬燵の縁に手を付いておっかなびっくり炬燵の中を覗いた。
炬燵の中には当然だが何もない。
ただ、格子の床蓋とその隙間から覗く闇が見えているだけだ。
そもそも何かが隠れていたら、それが蜘蛛やゴキブリ、ネズミなどの小さい生物でない限り、どんなに上手く隠れても見えるだろう。
ミコトサマ、人間の女の幽霊が見つからないように隠れることなどできないのだ。
舞と優斗が何もいないことに安心していると、床蓋がガタガタと音を立てて激しく揺れはじめた。
引き攣った顔をする二人の目の前で、床蓋の隙間から無数の白い手が這いだしてきた。
「ひいっ」
びっくりして二人して掘り炬燵から飛び退る。
そのまま腰を抜かして尻餅を着いている二人の目の前で掘り炬燵の床蓋が音を立ててはずた。
闇の中からヌッと白い何かが伸びだしてくる。
恐怖に見開いた二つの双眸に、白い着物が映った。
着物の裾からは枝のようにか細い足が伸びている。
袖からも足と同じような細さの腕がひょろりと垂れ下がっていた。
顔は見えない。首が後ろに折れているからだ。
不自然に後ろに曲がっていた首がゴキゴキと音を立てて、ゆっくり、ゆっくりと舞と優斗の方を向いた。
長い黒髪を振り乱し、狂気に満ちた白い目が二人の姿を捕える。
その瞬間白い目に不気味な喜悦を滲んで、三日月みたいに細められる。
海の言っていたミコトサマに違いないと悟ると、恐怖が最高潮に達した。
「キャアァァァァッ!」
「うわぁぁぁっっ!」
二人は悲鳴を上げると、転がるように部屋を飛び出した。
白い着物の女が手を伸ばして来るような気がして、掴まるまいと二人は無我夢中で逃げた。
洋室に和室、いろいろな部屋があって羨ましい。舞は物珍しげに部屋を見回す。
「あのさー、優斗クン、ミコトサマなんて幽霊、本当にいると思う?」
「いるわけねえじゃん。ただの都市伝説だろ?まあ、この町は田舎だから田舎伝説ってことになるけどな」
「だよねぇ。海もモノ好きだよね。まあ、幽霊の検証が長引けば、辰真クンと長く一緒にいられるから、もっと探そうなんて言い出したんだろうけど」
「へえ、海って辰真が好きなのかよ?」
「うん、もうちょ~お気に入りってカンジだよ」
「なるほどな。でもよ、それなら辰真と二人で行けばいいのに、なんで如月も連れてったんだろうな」
「さあ。牽制してるんじゃないの?如月さんと辰真クン、ちょっといい感じだったから。如月さんの前で辰真にくっついてアタシのものよ、ってアピールしてるとか」
海は綾奈をライバル視して、嫌っている節がある。
舞は綾奈のことはべつに嫌いじゃないし、じつはちょっと彼女と辰真のことはお似合いだと思っている。
だけど、海が辰真を好きなのでそんなことは口が裂けても言えない。
クラスで女王様的な地位を築いている海に敵認定されたら、学園生活が終わる。
女の世界は大変なのだ。
「へえ、女ってスゲー。いろいろ考えてんだな」
「そ。女って狡猾なんだよー」
呑気に会話をしながら、舞と優斗は部屋の中を見回った。
部屋は薄汚れていて、ところどころ染みがある。あまりの埃っぽさに喉がイガイガしてきた。
幽霊屋敷の探索は心が躍るしけっこう楽しいけど、こう汚いと早く帰りたくなる。
「なんか、変わった様子あるか?」
「ううん、ぜんぜーん。優斗クンはなにか見つけた?」
「別になんもねえな」
本当になにもない。舞はつまらなさげに部屋を物色する。
机や箪笥を開けて見るが、特に目を引くものはない。
古ぼけた小汚いノートや本、筆記用具が入っているだけだ。
「何が書いてあんだろうな」
舞が開いた引き出しに入っていたノートの一つを手に取り、優斗がページを開いた。
中身は日記のようだ。
その日の天気の様子、何をしたか、どんなものを食べたかなど、とりとめのないことばかり書いてある退屈な日記だ。
後ろから覗いていたが、面白い事は描いてなさそうだと舞は覗くのをやめた。
優斗はぼんやりと内容を斜め読みしながら、次々とページを捲っている。
何が面白いんだろう。舞は内心鼻白む。
「何だよ、くっついてんのか」
「どうしかした?優斗クン」
「見てみろよ舞!この日記、最後の方のページが開かねえんだよ!」
いかにもすごい物を見つけたといったていで優斗が舞に報告する。
めんどくさ。
内心そう思いつつも、舞はノリよく返事をする。
「なにそれ~、なんでなんで?」
「わかんねーよ。何かがくっついてるみたいなんだよな」
「へえ、どれどれ」
舞は優斗から日記を奪うと、くっついたページとページの隙間にネイルアートが施された長い爪を差し込み、むりやり開こうとした。
バリバリと嫌な音を立てて開いたページは、字の部分が破れているのと、べっとりと赤い塗料が付着していて殆ど読めない。
どうせお菓子のカスを落としたとか、飲み物を零してそのままページを閉じたとか、
下らない理由だろう。
そう思っていたのに、意外と気味の悪い理由でくっついていたので少し驚いた。
「うわっ、なにこれ。赤インクかな」
「それ、血じゃんか」
いや、血じゃないでしょ。
そう思いつつ、舞は女子らしく怖がって見せる。
「ホントに?うわっー、気持ちわるっ。ミコトサマって変な病気にでもかかってたのかな」
血と破損で殆ど字が読めないなか、一部だけ辛うじて読める箇所が残っていた。
優斗が目を凝らして、その文字を読みあげる。
「こ、ろさ、れ、る?殺されるって、書いてあんのか?」
殺される。本当にそう書いてあったらさすがに怖い。
だけど舞には、殺されると書いてあるようには読めなかった。
最初の方のページの整然とした字と違い、ぐちゃぐちゃの字で書き殴られた文字列。
はっきり言って、何て書いてあるのか、文字なのかさえわからない。
だけど、とりあえず優斗に同調する。
「ウソッ。なにそれ、ちょー怖いじゃん」
幽霊屋敷探索の醍醐味は、ありもしない怪異に怖がり、楽しむことだ。
その気分を害するのは悪いと思った。だからそうした。
その舞の配慮に気付くことなく、優斗が得意げな顔で講釈を述べる。
「ほんと、なんか気持ちワリィよな。ミコトサマ、一家心中したって話だもんな。親に殺さるかもって感じとってたに違いないぜ」
優斗があまりにも得意顔なのがムカついて、つい意地悪をしたくなった。
「そうかもね。でも、それ、本当に殺されるって書いてあんの?」
舞が指摘すると、優斗はもう一度日記を見た。
目を眇めて日記を数秒ほど眺めたあと、優斗は舞の顔を見てへらりと笑った。
「やっぱオレの勘違いかも。なんて書いてあるかよくわかんねぇや」
「でしょ。アタシ、日本語にすら見えないもん。ねえ、この部屋には他に変わったところはないし、別の部屋行かない?」
「そうだな、行こうぜ」
優斗が日記を床に捨て、別の部屋に続く襖を開いた。舞はその後ろに続く。
隣室も畳張りの純和風な部屋だった。
部屋の中央には結構大きい掘り炬燵がある。炬燵布団は掛けられていない。炬燵の底には、格子状の床蓋が被せられていた。
「う~ん、大きなコタツがあるだけで、ここも変わったカンジはないね」
舞はゆっくりと部屋を歩き回った。
なにか変わったものはないかとうろついていると、優斗にいきなり強く腕を掴まれて、ひっぱられた。
「ちょっ、なんなの、優斗クン。痛いじゃん」
口を尖らせる舞を、優斗が鋭い目で見る。
「しっ、静かに、何か聞こえねぇか?」
「えっ」
優斗が口を閉ざして目だけで辺りを確認する。
優斗の瞳は掘り炬燵を捕えると、ぴたりと動きを止めた。
いつもは飄々と笑ったファニーフェイスが引き攣る。
「ちょっとぉ、アタシのこと驚かそうったって、そう簡単にひっかかってあげないし」
舞は優斗が自分をからかおうと冗談を言っているのか、雰囲気を醸し出して幽霊探索を盛り上げようとしているのだと思った。
掘り炬燵を見る優斗があまりにも真剣なことも、意外にも演技上手だなというぐらいにしか思っていなかった。
だが、すぐにそうじゃないと知って蒼くなる。
舞も奇妙な音を聞いてしまったのだ。
ヒタヒタ、ヒタヒタ
裸足であるくような不気味な足音。
地獄の底から聞こえてくるような低い唸り声、隙間風のような甲高くか細い悲鳴。
怖気が走る不気味な音や声が幽かにだが聞こる。
音は掘り炬燵の方からだ。
「なに、この声。気のせいだよね。それとも風の音とか?」
早口で呟くように舞は優斗に尋ねた。だが、彼は答えない。
彼の横顔は明らかに怯えていた。
「この掘り炬燵の下、なんか、いるんじゃねえのか?確かめた方がいいよな」
震える声で優斗に言われて、舞は顔を顰めた。
確かめたくなんてなかった。
だけど、優斗がかなり掘り炬燵の下を気にしているのが伝染して、怖いのに確かめたくなった。
確かめずに帰れば、余計に後で怖い。
何でもなかったと知って安心したい。
そんな気になったのだ。
「確かめようよ、なんか、おもしろそうだし」
「だよな、ヤベーよ、リアル肝試しじゃん」
お互い心にもないことを言って、楽しくもないのに笑顔を浮かべた。
怖くても確かめるしかない状況に二人で陥る。
舞と優斗は畳に膝をついて屈み、掘り炬燵の縁に手を付いておっかなびっくり炬燵の中を覗いた。
炬燵の中には当然だが何もない。
ただ、格子の床蓋とその隙間から覗く闇が見えているだけだ。
そもそも何かが隠れていたら、それが蜘蛛やゴキブリ、ネズミなどの小さい生物でない限り、どんなに上手く隠れても見えるだろう。
ミコトサマ、人間の女の幽霊が見つからないように隠れることなどできないのだ。
舞と優斗が何もいないことに安心していると、床蓋がガタガタと音を立てて激しく揺れはじめた。
引き攣った顔をする二人の目の前で、床蓋の隙間から無数の白い手が這いだしてきた。
「ひいっ」
びっくりして二人して掘り炬燵から飛び退る。
そのまま腰を抜かして尻餅を着いている二人の目の前で掘り炬燵の床蓋が音を立ててはずた。
闇の中からヌッと白い何かが伸びだしてくる。
恐怖に見開いた二つの双眸に、白い着物が映った。
着物の裾からは枝のようにか細い足が伸びている。
袖からも足と同じような細さの腕がひょろりと垂れ下がっていた。
顔は見えない。首が後ろに折れているからだ。
不自然に後ろに曲がっていた首がゴキゴキと音を立てて、ゆっくり、ゆっくりと舞と優斗の方を向いた。
長い黒髪を振り乱し、狂気に満ちた白い目が二人の姿を捕える。
その瞬間白い目に不気味な喜悦を滲んで、三日月みたいに細められる。
海の言っていたミコトサマに違いないと悟ると、恐怖が最高潮に達した。
「キャアァァァァッ!」
「うわぁぁぁっっ!」
二人は悲鳴を上げると、転がるように部屋を飛び出した。
白い着物の女が手を伸ばして来るような気がして、掴まるまいと二人は無我夢中で逃げた。
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