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十七夜【タイトル未定】
17-14
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「日中でもさすがにさみぃな、椎娜ちゃん大丈夫?」
「はい、だいじょぶです」
「いや、全然大丈夫そうじゃないじゃん」
岐津さんは、後部座席から「これだと・・・あ~さすがにこれはなぁ・・・いや、でも・・・」と何やら荷物を漁り、
「これ着れる?メンズ物だけどないよりマシだと思うからさ。俺のだけど我慢してくれたらありがたい。」
と、大きめのダウンジャケットを貸してくれた。
「さすがに風邪ひかせて帰すわけにいかねぇからさ」
「ありがとうございます、お借りします。・・・・・・あ、やっぱりおっきいですね(笑)」
「いや・・・いいよ、ありだわ。」
「岐津さん」
「(笑)いや可愛いなって思ってさ。ほんとだよ。」
・・・そういうことじゃなくてですね、岐津さん・・・ほんと、なのがですよ・・・
「じゃあ、行こっか」
「はい」
岐津さんの手にはありきたりな黄色に白、紫の菊の花ばかりではなく、これでもか、というほど豪華に、けれど品よくまとめられた大切な人への手向けの花・・・
花束、水桶にひしゃく、あとは・・・
「なんでなんだかな・・・羊羹とか饅頭が好きだったんだよ。」
お供え物の和菓子とペットボトルのお茶、それらをお墓に供え、嬉しそうに、懐かしそうに岐津さんは花立にお花を活けた。
「・・・岐津さん・・・このお墓・・・」
開けた高台にある墓地からは、遮る物もなく青空と山々、遠くには海が見渡せた。
『あいつは、本気で愛した人を亡くした事がある』
先日柊誠さんから聞かされた、岐津さんが大切な人を亡くした話・・・。
お線香に火を点け、しゃがんで手を合わせる岐津さんの後ろで私も手を合わせた。
「誰かと一緒に来たのは今日が初めてだよ。」
「毎月・・・来てるんですか?」
「うん・・・20年前からだな・・・。あの時俺は28だから・・・こいつは25歳。腹には子供もいた・・・。」
「え・・・っ・・・」
「・・・でもな・・・わかってすぐの事で、結婚しようって話をしてすぐで・・・墓石には母親であるこいつの名前しか刻まれない・・・。交通事故だよ・・・妊娠4か月・・・検診の帰り道だった・・・。」
岐津さんはポケットから緑のミニカーとまん丸のひよこのマスコットを取り出し、お墓に供えた。
「・・・・・・甥っ子はいてもさ、自分の子供だったらっていうのとは違うし・・・何が好きかなんて性別もわかんねぇんだから・・・わかんねぇよな・・・」
「っ・・・」
・・・今まで、20年の間・・・岐津さんは毎月どんな思いで2人に会いに来てたのだろう・・・
愛した人、その人との間に授かった命と3人の未来を突然失った悲しみ・・・痛み・・・それに怒り・・・
「もし、生まれてきてたら男だったのかな女だったのかなって考えたり・・・俺はちゃんと父親になれてたかな・・・とか・・・あいつは俺と子供を見てどんな風に笑ってたかなって想像したりさ・・・・・・でも、どんなに想像しても、・・・わかんねぇんだよ・・・あいつらといる未来は俺にはなかったからな・・・」
「っ・・・ッ・・・・・・」
どんな言葉もかけられない・・・
私は、声を出さないように溢れ続ける涙に唇を噛みしめた。
20年という時間が流れようが、岐津さんにとってはつい最近の事で、大切な人を2人も亡くし、描けた未来が一瞬で崩れ去った傷はそう簡単に癒えるものではない・・・
「・・・・・・ごめんな、守ってやれなくて・・・・・・」
小さな黄色のひよこが、岐津さんの指の先でゆらゆらと揺れている・・・
冷たく渇いた風が活けたばかりの花を揺らし、もう本格的な冬がそこまで来ていると知らせているようだった・・・。
「はい、だいじょぶです」
「いや、全然大丈夫そうじゃないじゃん」
岐津さんは、後部座席から「これだと・・・あ~さすがにこれはなぁ・・・いや、でも・・・」と何やら荷物を漁り、
「これ着れる?メンズ物だけどないよりマシだと思うからさ。俺のだけど我慢してくれたらありがたい。」
と、大きめのダウンジャケットを貸してくれた。
「さすがに風邪ひかせて帰すわけにいかねぇからさ」
「ありがとうございます、お借りします。・・・・・・あ、やっぱりおっきいですね(笑)」
「いや・・・いいよ、ありだわ。」
「岐津さん」
「(笑)いや可愛いなって思ってさ。ほんとだよ。」
・・・そういうことじゃなくてですね、岐津さん・・・ほんと、なのがですよ・・・
「じゃあ、行こっか」
「はい」
岐津さんの手にはありきたりな黄色に白、紫の菊の花ばかりではなく、これでもか、というほど豪華に、けれど品よくまとめられた大切な人への手向けの花・・・
花束、水桶にひしゃく、あとは・・・
「なんでなんだかな・・・羊羹とか饅頭が好きだったんだよ。」
お供え物の和菓子とペットボトルのお茶、それらをお墓に供え、嬉しそうに、懐かしそうに岐津さんは花立にお花を活けた。
「・・・岐津さん・・・このお墓・・・」
開けた高台にある墓地からは、遮る物もなく青空と山々、遠くには海が見渡せた。
『あいつは、本気で愛した人を亡くした事がある』
先日柊誠さんから聞かされた、岐津さんが大切な人を亡くした話・・・。
お線香に火を点け、しゃがんで手を合わせる岐津さんの後ろで私も手を合わせた。
「誰かと一緒に来たのは今日が初めてだよ。」
「毎月・・・来てるんですか?」
「うん・・・20年前からだな・・・。あの時俺は28だから・・・こいつは25歳。腹には子供もいた・・・。」
「え・・・っ・・・」
「・・・でもな・・・わかってすぐの事で、結婚しようって話をしてすぐで・・・墓石には母親であるこいつの名前しか刻まれない・・・。交通事故だよ・・・妊娠4か月・・・検診の帰り道だった・・・。」
岐津さんはポケットから緑のミニカーとまん丸のひよこのマスコットを取り出し、お墓に供えた。
「・・・・・・甥っ子はいてもさ、自分の子供だったらっていうのとは違うし・・・何が好きかなんて性別もわかんねぇんだから・・・わかんねぇよな・・・」
「っ・・・」
・・・今まで、20年の間・・・岐津さんは毎月どんな思いで2人に会いに来てたのだろう・・・
愛した人、その人との間に授かった命と3人の未来を突然失った悲しみ・・・痛み・・・それに怒り・・・
「もし、生まれてきてたら男だったのかな女だったのかなって考えたり・・・俺はちゃんと父親になれてたかな・・・とか・・・あいつは俺と子供を見てどんな風に笑ってたかなって想像したりさ・・・・・・でも、どんなに想像しても、・・・わかんねぇんだよ・・・あいつらといる未来は俺にはなかったからな・・・」
「っ・・・ッ・・・・・・」
どんな言葉もかけられない・・・
私は、声を出さないように溢れ続ける涙に唇を噛みしめた。
20年という時間が流れようが、岐津さんにとってはつい最近の事で、大切な人を2人も亡くし、描けた未来が一瞬で崩れ去った傷はそう簡単に癒えるものではない・・・
「・・・・・・ごめんな、守ってやれなくて・・・・・・」
小さな黄色のひよこが、岐津さんの指の先でゆらゆらと揺れている・・・
冷たく渇いた風が活けたばかりの花を揺らし、もう本格的な冬がそこまで来ていると知らせているようだった・・・。
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