徒然なる恋の話

焔 はる

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十三夜【溺れるものは真夜中に溶け合う】

13-1~side by 椎娜~

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「じゃあ行ってくるね。」


「うん、行ってらっしゃい。」


桜太の家にお世話になり、毎朝のこの見送りにも慣れ、それでもスーツ姿で出勤する” 彼氏おうた”に、バレないようにときめいている私。


「・・・椎娜、忘れもの。」


ときめきを隠し、笑顔でお見送り、それなのにドアノブに手をかけた桜太は真剣に不満げだ。


忘れもの・・・?


なんだろう、スマホ・・・?


財布・・・?


それとも大事な資料の類だろうか・・・


「桜太、忘れもの、って」


何を、というのは最後まで言葉にならずに、桜太の影が私を覆い、視界は大きな身体に塞がれて真っ暗、桜太の香りに包まれた。


「・・・行ってきますの、ぎゅっ・・・」


はぁ・・・・・・


こんなに大きな男の人なのに・・・


「・・・可愛くて困る、桜太・・・。」


「そ?椎娜の前でなら、可愛くたっていい」


ちょっとよくわからない日本語。


桜太の腕の中でモゾモゾと動いて、顔を出せば、間近に迫る、美顔。


付き合い初めてからも、このふいうちの美顔は心臓を大きく跳ねさせる。


「っ・・・やめて」


「まだ何もしてないよっ」


「ちがう・・・心臓に悪い・・・」


「・・・じゃあ、目、閉じて・・・?」


こめかみにキス・・・額に口づけ・・・

鼻と鼻が僅かに触れ合って、私を至近距離で見つめているであろう、大好きなブルーの瞳の引力を感じる・・・


頬から耳に移る指先が、擽ったいのに・・・いやらしくて・・・そう思ってしまう私は・・・もっといやらしい・・・


促されるまま少しだけ顔を上げて、それを待ちわびて期待するように、与えられるそれがこの上ない喜びのように、ドクン・・・と1つ心臓は大きく鳴った。

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