徒然なる恋の話

九夜【真昼のぬくもり】

9-18

ナツさんからお弁当を受け取った事。

岐津さんのお兄さんの柊誠さんとナツさんに連れられ、どこかに向かう途中で、今から柊誠さんの奥さんも合流する事。

私は桜太に状況のみLINEを送った。



「･･･手はどう？かなり不自由にさせて本当に申し訳ない。」


黒のワンボックスはこの間と同じ車。

後部座席を向かい合う形に変えてあって、私は今柊誠さんと対面している。

右手をパーカーに通せなくて、肩に掛けているのを見ながら柊誠さんは再び私に謝る。


「･･･いえ、もう謝らないで下さい･･･。この怪我は、私が自分でした事ですから。」


柊誠さんは首を振り、


「元春とナツ、それに、うちの連中からも聞いた。一般人の君を直接巻き込む形になってしまった事、しかも、怪我までさせた事、これはうちの・・・失態だ。」


「･･･」


「過去に黒木と君に繋がりがあった事は知ってる。黒木の目的が最終的には君だった事も。」


「･･･黒木は･･･」


「もう、君にも、君の大切な人にも黒木が何かすることは一生ないよ。」


私の問いを最後まで聞かずに、首を振り、私を見て告げる柊誠さんの瞳が「それ以上は知らなくていい」と言っていた。


「･･･この手は、昔、自分を大切にしなかった私が、過去くろきと決別して前に進む為に必要だったんです･･･。だから、これは･･･私なりのケジメ、なんです。」


「･･･ふっ･･･ケジメ、か･･･。そう言われちゃうとな･･･」


困ったな、と柊誠さんは前髪を掻き上げた。


あ･･･左、の目･･･


「･･･ん？あぁ、ごめん、驚いたよね･･･」


左目に掛かる前髪。

その下には、ハッキリと分かる傷跡があった。