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八夜【決別は未来への決意】
8-3
しおりを挟むその手に触れて、指先をつまんだ桜太がゆっくりと引き寄せる。
「椎娜・・・椎娜が話してくれる大事な話は、目を見て聴きたい。運転中とか・・・いい加減な返事したくないよ。さっき・・・話し遮ってごめん・・・ちゃんと聴くから、話してくれる・・・?」
指先を戯れさせて、絡め合うのにそこにあるのは慈しむような優しさ。
めんどくさがったり同情や単なる興味じゃなくて、理解しようとして聞いてくれる。
「・・・・・・実の親じゃないって聞いたのが、小学生の時・・・低学年くらいかな・・・お父さんとお母さんについての作文か何かを書く宿題があって、その時だったと思う。話を聞いてもよくわからなくて、本当のお父さんお母さんてなんだろうって思った。実の両親の記憶もなくて、物心ついた時には私の一番近くにいたのは育ててくれた2人で、その2人が本当の両親じゃなくて・・・そんなのよくわからないよね、小学生なんかじゃ・・・考えたこともない事だったもん・・・」
力を入れずに桜太のするままに任せていた私の指を握る力が僅かに強くなった。
「実の両親じゃなくても、本当の両親は、今の両親・・・。」
「椎娜・・・」
身体を乗り出した桜太の顔が近くなり、手が顔に触れ、指先が目元を滑る。
その動きで、自分が泣いていることを知った。
「・・・悲しいんじゃない・・・辛いって思ってもいなくて・・・」
「うん・・・」
「・・・・・・でも、ずっと、泣きたかったんだと、思う・・・・・・」
瞬きをして、嗚咽もなく流れる涙。
胸の奥から破裂するように込み上げるものが、涙に変わり、次から次へと頬を伝う。
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