徒然なる恋の話

焔 はる

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七夜【大切なもの、守りたいもの】

7-40

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吐いて、吐いて、鼻水も出て、涙も出て、何もかも汚い。


「・・・さわらないで・・・桜太が汚れる・・・」


抱きしめようと伸ばされた手を拒絶する。

拒絶に桜太の表情が強張るのがわかったけど、私のせいで桜太も穢れる気がして触れて欲しくなかった。


「・・・だめ、身体に障るよ・・・」

上着を掛けてくれようとするのを左手で制して、

「・・・だめ、今はさわられたくない・・・桜太だけはだめ・・・」


本当の拒絶じゃない・・・

でも、今は桜太にだけは触られたくなかった・・・

そんな意味を込めて無理矢理笑う。

1番信じられる人の、疑うことのない愛情を向けてくれる人の全てを私の汚さが上塗りしてしまうようで、1番抱きしめて欲しいのに、1番さわられたくなかった・・・。


「・・・俺だけは・・・・じゃなくて、俺じゃないと・・・・・・だめ、でしょ・・・?」


「・・・・・・ちがうよ、桜太だから、だめなんだよ・・・」


私を介して黒木の汚さが伝染ったらどうするの・・・どうしてわからないの・・・

どうしてわかってくれないの・・・?

伝染る、なんてわけないのに、目に見えない穢れが伝染る気がした。

桜太を穢したくないから、桜太だけはだめなのに・・・


「・・・椎娜」

「やだ、っ・・・呼ばれたくない・・・」

「なんで?」

「・・・いやだ・・・」

「俺も呼んじゃダメなの?」

「・・・」

「・・・俺は、黒木じゃないよ」

「っ・・・わか、ってる・・・!!でも、やなの・・・!!今は呼ばれたくない・・・!!」


めちゃめちゃだ。

めちゃくちゃすぎる。

名前も呼ばれたくない、さわられたくない・・・

黒木じゃない、黒木じゃなくて、今目の前にいるのは桜太だ。

わかってる・・・わかってるのに・・・

「『椎娜』」

桜太の声に黒木の声が重なって、心と身体が名前を呼ばれることを拒絶する。


啜りきれない鼻水は垂れてくるし、涙で濡れて顔もぐちゃぐちゃ、全部めちゃくちゃ、酷い有様だ。


「こっち、向いて。」

「・・・」

「・・・しぃちゃん」

「・・・ごめん・・・ごめん・・・」

繰り返す謝罪に、何への謝罪かもわからない「ごめん」に、


「はぁ・・・」


桜太が溜息を吐く。


・・・心臓が大きく鳴って、キュッと痛んだ・・・。



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