徒然なる恋の話

七夜【大切なもの、守りたいもの】

7-28

頭に血が上った、手負いで血まみれの獣のように猛進してきた黒木を、邪魔な虫を払うかのように一瞬で岐津さんが床に倒して馬乗りになった。

腹這いになったまま、背中に腕を回され、髪を鷲掴まれて上体を上げさせられた黒木が苦しそうに呻く。

「はい、終了～。てめぇ･･･小賢しく逃げ回ってんじゃねぇよ。まぁ･･･二度と、日の目を見る事はねぇから、安心しておやすみ。」

何を言ったのか聞こえなかったけど、岐津さんの美しく見惚れる冷笑。

「っくそっ･･･！！てめぇ･･･！！あれは俺のだ･･･！！」

「あ･･･？何言ってんだ。過去の女をいまだに引きずってんのか？女々しいなお前。てかそれよりも、自分の心配しろよ、残念だけど、もう二度と会う事はねぇからな。」


｢あ"～～～！！くそ･･･！！椎娜･･･！！｣


･･････


｢あっおい･･･！！｣


ナツさんの声に岐津さんがこちらを見て、目を見開く。


私は、背中に岐津さんを乗せ、床に這いつくばる黒木の正面に立った。


｢･･･椎娜･･･てめぇよくも･･･躾のし直しが必要だな･･･逆らったらどうなるか、あんだけ教えてやったのに･･･｣


･･･１番必要なのは、過去の断捨離･･･


眼下では、抑えられて動けないくせに喚き続ける滑稽な『過去の負の遺産』。


｢女はなぁ･･･痛めつけて、従わせて、躾てやんだよ･･･ヤク漬けにして稼がせる･･･俺の道具だ･･･お前だって･･･言うこと聞いてりゃ、男は見逃してやったのに･･･｣


･･････私は、こんな男に心と記憶、それに連動して身体すらもいまだに縛られていたのか･･････


何年も･･･何年も･･･

何年も･･･！！！！


｢あ･･･。｣


岐津さんが小さく声を漏らした。