徒然なる恋の話

焔 はる

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七夜【大切なもの、守りたいもの】

7-27~side by 椎娜~

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岐津さんたちの姿が見えた瞬間、ざわつくフロアに一瞬黒木が気を取られ、私から気が逸れた。

ポケットの中の腕時計を、ゴツイ文字盤が指の外側に来るように金属のベルトを手の中でキツく握って、肩の力が抜ける位思い切り振り上げた。


「ッがァ・・・!!」


バキャッ・・・!っという鈍い音と共に、呻き声が上がった。


あた、った・・・!!


緩んだ腕から解放され、息を吹き返した足をとにかく前へ進める。


岐津さん目掛けて走り、その勢いのまま受け留めてくれた岐津さんに抱き留められる。

私の全身を確認して、自分でも見ていなかった右手に目を留め、血まみれだ、と私が気づいた時には怪我を心配されてしまった。

多少痛みはあるけど、直接手で殴った訳ではないし、腕時計の硬い文字盤が黒木の顔面にヒットしたので、私の手は恐らく無傷なはずだ。

「怪我はないです、これを思いっきり・・・」

「・・・っ・・・いってぇ・・・」

血まみれのメンズ物のゴツイ腕時計を見て、ナツさんが思い切り顔を顰めている。

そんなナツさんに私を預けて、岐津さんの口元がニヤりと笑う。

黒木は私への怒りで気が狂ったように叫び、私はナツさんの服の裾を思わず握り締めた。

ちらっと私を見て、背後に庇うように1歩前に出たナツさんが、

「・・・あんた、なかなかやるじゃん。元春さん、結構頭にキてるから面白いもん見れるよ。」

と、嬉しそうに笑う。

鼻と口から血を流して叫ぶから、血が辺りに飛び散り、遠巻きに見ている人たちからは微かに悲鳴が上がる。

「ただ・・・ちっとマズイな。人が多すぎる。」

そんなナツさんの心配をよそに、黒木は怒りに任せて突進してきて、パンツのポケットに手を入れている岐津さんに殴りかかった。

「どけ!!椎娜を渡しやがれ・・・!!」

「・・・・・・頭わりぃな・・・はい、そうですか、なんて・・・言うわけねぇだろうが・・・」


・・・

それは一瞬だった。

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