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8:emergency

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「あ~あ、蓮見さんとの旅行も終わってしまう。寂しい。日常に戻ってしまう。」


翌日12時前、定刻通りに仙台駅を出発した新幹線がゆっくりと動き出す。

仕事で来たのに、肝心な仕事の方はアッサリ終わり、濃厚だったのはその後の蓮見さんとの時間。

「旅行じゃないわ、出張よ。」

「わかってますよぉぅ・・・少しくらい夢を見ても。けどまぁ・・・ふふ・・・」

「何よ、キモチ悪い」

「ゆうべの蓮見さん可愛かったなぁって思い出したら・・・ふふふ・・・」

「変な言い方しないで。私とあなたは何も」

「何もなくないです、手をつないで1つのベッドで眠った仲じゃないですか、ボクたち。はい、蓮見さん、紅茶。」

「・・・・・・それ以上でもそれ以下でもない、そう、それ以上はないんだからね。ありがと。」

窓の外を眺めて、渡した紅茶を開ける蓮見さん。

いやぁ~蓮見さんも丸くなったものだ、うんうん。

ディスタンス短縮という大きすぎる収穫を得て俺は大満足のまま帰路に着いた。



ーーーーーーーーー


会社に顔を出して出張と昨日の報告をして、事務処理や社内の打ち合わせを終えて、明日は休日。

平坂さんに一応確認したが、「どこも空いてなかったからって、ラブホ代は出ない」と言われてしまった。

まぁ致し方ない、諦めていたのでそれはいい。

何より、あんなに可愛い蓮見さんを見ることができたのだから、ラブホ代以上の価値がある。

それにしても・・・報告した時の平坂さんの様子・・・なんか気になるんだよな。

「蓮見さん、平坂さんには気を付けてくださいね」

「はぁ?何急に。」

蓮見さんちで一緒にご飯を食べる。

一緒にスーパーで食材を買って蓮見さんちに荷物を置き、俺はフロア違いの男子寮、自分の部屋に戻って着替え、再度蓮見さん宅にお邪魔する。

俺は今日の平坂さんの様子が引っかかっていて、食後にお茶を飲みながら、蓮見さんに告げる。

「だって、入社した時から思ってましたけど平坂さんて蓮見さんの事好きですよね。」

「・・・・・・違うと思うわよ」

「え~俺はそうだと思うなぁ。」

「私は違うと思う。」

「だって、いつも俺のことけん制するみたいに見てるし、あれは『蓮見にちょっかいかけんじゃねぇぞ、小僧』って目ですよ。」

「げふッ・・・ごほっ、なっ・・・」

「間違いない、俺の男の直感が告げている。」

うんうん、と俺は経験値が告げる、ライバルの存在を蓮見さんに突き付けた。

「ほんと、何言ってるのよ・・・それはないわ。」

「なんでですか?あの熱の籠った瞳は絶対そうですよ。」

「ふ~ん、熱の籠った瞳で、忽那くんを見てるのね?それなのに私なの?」

「・・・・・・?え、はい・・・え・・・?」

なんだろう、何かが引っかかるぞ・・・

否定とも違う蓮見さんの様子、俺は何かを見落としてるのか・・・?

蓮見さんはお茶をすすり、スマホで日課のゲームを立ち上げる。

「え・・・それって・・・え・・・?」

「わからないならいいんじゃない?別に答えを出すだけが正解じゃないわ。」

「・・・でも、それって・・・」

「・・・まぁ、平坂さんが好きなのが私ではないことは確かよ。」

「蓮見さん、なんでそんな目ぇ泳いでるんすか」

目が泳いでる、それなのに確信があるような、何か情報を握っているような言葉。

「・・・人のアイデンティティを他人が勝手に喋るものではないと思うの。」


もうこれ以上話すつもりはない、という無言の圧力。


「・・・・・・アイアンメイデン??」

「馬鹿でしょ。」

俺を見捨てる瞳で見下ろして、蓮見さんは浴室へ消えた。





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