幸せになりたい神様を拾いました

Capsule５：失くした記憶と縁結び

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人間の心に生まれる闇。

己ではどうする事もできなくなった心の闇に魔が差した時、踏み止まれずその闇に心を食われた時、人は人を失い、救いではなく、魔に巣食われる。


佐智とどう接していいかわからなかった父親だが、息子によって元妻を殺されたとは佐智には告げられずに『通り魔』という事にしたようだ。


小学生の自分が家族の中で疎外されている姿を、冷えた目で見つめていた佐智だが、握った拳は色が変わるほど強く握られ、小さく震えている。


「･･･佐智」

「！！」

「･･････佐智、俺がわかるか？？」


吹き荒れていた風はパタリと止み、俺の背で着物を握り、暴風から避難していた佳月がそろりと顔を覗かせた。


「･･･なん、で･･･？」

「俺がわかるのだな？」

「･･･イザ、ナ･･･ギ･･･」

「ああ。」


現実では記憶を失くしていた佐智。

けれど記憶の中、それもこの深い場所では失われていなかったらしい。


「ここ･･･」

「お前の記憶の中だろう？」

「･･････見られたく･･･なかった･･･」


堪えようとして顔を歪めた佐智の頬を大粒の涙が濡らしていく。

佐智が見られたくなかったと言っても、縁の糸を結んだ佐智の記憶は、俺には見えていた。

あまりも辛く、佐智が記憶に蓋をした出来事、例えば佳月の事は可愛がっていた黒猫の姿というくらいのぼんやりした記憶としてしか見えなかったが、佐智が生きてきた時間、その大半を俺は知っている。


「･･･佐智･･･」

泣き崩れる佐智を抱きしめた。

「どうして来たの？私は･･･イザナギに来てほしくなかった･･･」

「･･･なぜだ･･･？」

「イザナギはいなくなっちゃう･･･イザナミが見つかったらいなくなっちゃう･･･！みんないなくなる･･･！！ずっと、ずっと私はひとりぼっちだもん！！だれも･･･私の事なんていらない･･･の･･･」


腕の中の佐智の身体がサラサラと崩れていく。


「！！ダメだ佐智！！行くな！！」


やっと捕まえたのに･･･

腕の中から煙のように佐智はいなくなった。