幸せになりたい神様を拾いました

Capsule５：失くした記憶と縁結び

5-14

「佐智！」

思わず追いかけて、階段を駆け下りると、沈んでいく意識の冷たさと澱みが強く、濃く纏わりつくように重たくなっていく。


「さ･･･」


追いついた暗く冷たい闇の中で佐智は、ペタリと足を崩して座り込み、肩を揺らして泣いていた。

その膝の上には、動かなくなった傷だらけの黒猫が横たわっていた。


『どうしてどうしてどうして･･･どうして殺したの･･･この子が何かしたの･･･？私と関わったから･･･？？』


耳を覆いたくなるほどの、胸を引き裂くような慟哭が響く。

小さな身体から滲み染み出ていく鮮血に、佐智の手もセーラー服も真っ赤に染まる。

腕に抱く小さな亡骸は、佐智にとって唯一の友であり、心の内を許せる存在だった。

父親と住む家で、会話もなく寂しく生きる日々の中で、佐智が可愛がっていた
黒猫は、佐智の同級生が「黒猫だから」という理由だけ傷つけ、殴り、蹴り飛ばして叩きつけ命を奪った。

学校から帰って来た佐智が家の外で血まみれで倒れている友を見つけた時には、小さな身体は既に冷たくなっていた。


『･･･許さない･･･許さない･･･あいつらみんな死ねばいい･･･この子と同じように痛み苦しみながら死ねばいい･･･！！！殺してやりたい･･･苦しめて苦しめて殺してやりたい･･･！！』



･･････


･････････そうか･････････


俺が佐智と出会った時から佐智の周りには、小さく温かな光が纏わりつくようにウロウロしていた。

害があるわけでもなく、佐智に懐いて愛情を示すように寄り添い、すり寄って甘えるような素振りを見せる事もあった。

小さな光はエネルギーも弱く、佐智は気づいていなかったが、そうか･･･あれは、この黒猫か･･･


佐智の傍にいた者の正体がわかれば、ずっとこの黒猫だった・・・・・者が佐智の傍にいた事にも納得がいく。


産まれて間もない頃に母猫とはぐれ、死にかけていたところを佐智に拾われて生き延びる事ができた黒猫には、佐智だけが家族だった。

佐智にとってもそれは同じことで、１人と１匹は出会ってから数年、ずっと互いの存在が支えだった。

心無い人間に命を奪われた自分の為に佐智が悲しみ泣く姿に、死んでしまってからもずっと佐智の傍に寄り添い続けてきたのだ。