幸せになりたい神様を拾いました

Capsule５：失くした記憶と縁結び

5-13

「ぅ･･･ぁ･･･」

「佐智･･･戻れ･･･そちらではない･･･俺の元に帰ってこい･･･」


佐智は魔物が掛けたもう１つの呪いにより、過去の辛い記憶と、魔物が作った偽りの幸福の世界とを何度も繰り返させられていた。

俺が結んだ佐智との縁の糸はまだ切れていない。


･･････俺なら、佐智を迎えに行ける。


「･･･記憶を失っても、生きてさえいれば再び･･･」


俺は佐智の左手に自分の右手を重ね、左胸の縁の糸が繋がる場所に左手を当てる。


意識を集中し、とっ散らかって騒がしく混沌を極める佐智の意識の中へと俺は降りていった。



今度は失敗するわけにいかぬ。

佐智は必ず連れ戻す。



ーーーーーーーーーーーーーーーー




過去の記憶は、縁の糸を通じて知っている映像がほとんどで、それだけ佐智には辛く耐え難い体験だったのだとわかる。

『見える』という事で家族からも疎外され、学校でも異質な存在としていじめられ、自分を受け入れ、心を開ける者も、安らげる場所もなく、ずっと自分の中に閉じこめていた子供時代は、１人立ちして父親の元を離れるまで続いた。


子供というのは、理性で善悪を計らない分大人よりも残酷に言葉で他者を傷つける。

勿論、子供だけではないが、経験が少なく純粋な分残酷さも大人より、という話だ。

大人になったからといって他者を思いやれる者ばかりではないし、皆必死で生きている。

わからない、知らない、己と違うから傷つけてよいわけではないのは、子供であろうが大人であろうが違わぬ事だ。

･･･中学生･･･高校生･･･その頃には、自ら人間の輪を外れ、ひとりでいる事を選んでいたのか･･･

同じ年の子供たちの中には混ざらず、学校行事にも参加せず、関わる事を切り捨ててきたのだな･･･


･･･ん･･･？


これは･･･猫･･･か･･･？


螺旋階段を下りるようにグルグルと下り続ける俺の周囲に映る映像。


佐智の意識の世界、その中のどこかの記憶に佐智は入り込み、その時代の記憶、体験を繰り返す。


俺の足元をすり抜けていったのは、１匹の黒猫だった。

その後を、セーラー服姿の佐智が追いかけて行く。