秘密~箱庭で濡れる~改訂版

焔 はる

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八章

夜の蝶は秘密を抱いて苗床となる④⑥

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どれだけ続いているんだろう、初めて来た地下通路はとても果てしなく思えた。


コンクリート打ちっぱなしの無機質な灰色がどこまでも続き、このままあいつが美比呂様をどこかへ連れ去ってしまったらと最悪の事態が頭をよぎり、さすがに焦りが生まれる。





・・・・・・




・・・・・・・・・いた!




まだ遥か前方にだが、相当なスピードで飛ばす車が見えてきて、俺はさらに加速する。


絶対に逃がさない。


絶対に美比呂様を連れ戻す。









ーーーーーーーーーーーーーーー








「くそ・・・ッもう追いついてきたのか・・・!」



ルームミラーにはさっきまで映っていなかった黒い点が遥か後方に見え始め、それは段々と大きくなって近づいてきていた。


慕っていた晃介様にも見捨てられ、俺はノラとして男を受け入れる身体にされる為に隔離された部屋で何度も男のノラに身体を弄ばれた。


・・・こんな屈辱的なことはない。


それもこれも、この女さえ現れなければ・・・この女さえ晃介様に気に入られなければ、こんなことにならずに俺は今も変わらず晃介様のお傍にいられたはずなのに・・・



後部座席に転がした美比呂は、両手足を縛ってタオルを噛ませられたまま、泣きわめくでもなく薄気味悪いほどに静かにしている。



・・・気味の悪い女だ・・・



どうやっていたぶってやろうか・・・



腹の子も死ねばいい・・・あぁいっそ、腹の子共々あの世に送ってやろうか・・・



・・・・・・それとも・・・・・・



俺がこの女と死んだら、晃介様は少しは俺のことを考え、この先もずっと俺は晃介様の中に残ることができるかもしれないな・・・







ーーーーーーーーーーーーーーー







「咲藤は逃げられません。地下通路は1本道、その先にはゲートがあります。ゲートは通行を許可した車両しか出る事はできません。それに・・・」



支配人が運転する車で、俺とマダム、そしてヒナはユウキからの連絡受け地下通路をひた走っていた。



咲藤が美比呂をどうするつもりなのか、先に咲藤を追ったユウキは無事なのか内心の焦りを隠し無意識に握り締めていた拳にヒナが触れた。



俺が甘かったのだ。



咲藤がここまで執念深く、美比呂に感情の矛先を向けるとは思っていなかった。



こうなってからでは全て遅いが、自分の浅慮さを悔やむしかなかった。



「・・・きっとユウキが。」



ヒナの手が強く握りすぎて爪が食い込んでいた俺の手を包み込んでいた。



プツ



『ユウキです、追いつきました。もっと接近します』



車内に響いたユウキからの連絡に、支配人が無茶はするなと告げ、



「ユウキ、美比呂様を無事にお救いするのが最優先よ。それに、咲藤はどのみち逃げられないわ。あの人がいるもの。」



マダムが零した<あの人>が誰なのか、ゲートがあると言っていたから管理人のようなものだろうか・・・と俺はただ2人の無事を強く願うしかなかった。







ーーーーーーーーーーーーーーー









「うわッ!!」



あと10mほどまで迫った時、俺を止めようとした咲藤は窓から自分が身に着けていたシャツを投げ捨て、それは思った以上の速さで俺に向かい飛んできた。



や、っべ・・・!!



思った時には遅く、それを正面に受けた俺は視界を遮られてハンドル操作を誤り、このまま死ぬんだと悟った。



耳障りで派手な音が地下通路に響き渡り、壁にぶつかって弾き飛ばされたバイクから投げ出された俺は、路面を滑るバイクが咲藤が運転する車に衝突し、横転はしなかったものの、壁にぶつかってスピンして止まるのを見ながら自分もまた路上に叩きつけられて何回転もして全身の痛みに声も上げられずに辛うじて生きてはいる、と感じた。





・・・だめだ、インカムは壊れてる・・・





しくじったな・・・




美比呂様は・・・




・・・・・・美比呂様は無事だろうか・・・・・・





片目を覆う液体を拭うとそれは赤い体液で、血を拭おうとした右手は熱く拍動を刻んで見たことがない方向に歪み動かそうとすると激痛が走った。




いてぇ・・・折れてんなこれ・・・





「ユウキ・・・!!!!!」





「・・・・・・・・・ひ、な、・・・・・・さ・・・ん・・・・・・」





「ユウキ!!ユウキ・・・!!」





「ユウキ・・・!!」





ヒナさんに支えられて抱き締められながら、背後に立つ晃介様が痛々しそうに、悔しそうに俺を見下ろしていた。





「・・・ユウキ、よくやったわ。」




しゃがみこんだマダムの手が俺の頭に触れた。




「・・・後は任せなさい。」




「・・・マ・・・ダ、ム・・・・・・」












俺の視界はそのままゆっくりとブラックアウトし、周囲の声も聴こえなくなった。







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