秘密~箱庭で濡れる~改訂版

焔 はる

文字の大きさ
上 下
63 / 70
八章

夜の蝶は秘密を抱いて苗床となる④⑥

しおりを挟む
どれだけ続いているんだろう、初めて来た地下通路はとても果てしなく思えた。


コンクリート打ちっぱなしの無機質な灰色がどこまでも続き、このままあいつが美比呂様をどこかへ連れ去ってしまったらと最悪の事態が頭をよぎり、さすがに焦りが生まれる。





・・・・・・




・・・・・・・・・いた!




まだ遥か前方にだが、相当なスピードで飛ばす車が見えてきて、俺はさらに加速する。


絶対に逃がさない。


絶対に美比呂様を連れ戻す。









ーーーーーーーーーーーーーーー








「くそ・・・ッもう追いついてきたのか・・・!」



ルームミラーにはさっきまで映っていなかった黒い点が遥か後方に見え始め、それは段々と大きくなって近づいてきていた。


慕っていた晃介様にも見捨てられ、俺はノラとして男を受け入れる身体にされる為に隔離された部屋で何度も男のノラに身体を弄ばれた。


・・・こんな屈辱的なことはない。


それもこれも、この女さえ現れなければ・・・この女さえ晃介様に気に入られなければ、こんなことにならずに俺は今も変わらず晃介様のお傍にいられたはずなのに・・・



後部座席に転がした美比呂は、両手足を縛ってタオルを噛ませられたまま、泣きわめくでもなく薄気味悪いほどに静かにしている。



・・・気味の悪い女だ・・・



どうやっていたぶってやろうか・・・



腹の子も死ねばいい・・・あぁいっそ、腹の子共々あの世に送ってやろうか・・・



・・・・・・それとも・・・・・・



俺がこの女と死んだら、晃介様は少しは俺のことを考え、この先もずっと俺は晃介様の中に残ることができるかもしれないな・・・







ーーーーーーーーーーーーーーー







「咲藤は逃げられません。地下通路は1本道、その先にはゲートがあります。ゲートは通行を許可した車両しか出る事はできません。それに・・・」



支配人が運転する車で、俺とマダム、そしてヒナはユウキからの連絡受け地下通路をひた走っていた。



咲藤が美比呂をどうするつもりなのか、先に咲藤を追ったユウキは無事なのか内心の焦りを隠し無意識に握り締めていた拳にヒナが触れた。



俺が甘かったのだ。



咲藤がここまで執念深く、美比呂に感情の矛先を向けるとは思っていなかった。



こうなってからでは全て遅いが、自分の浅慮さを悔やむしかなかった。



「・・・きっとユウキが。」



ヒナの手が強く握りすぎて爪が食い込んでいた俺の手を包み込んでいた。



プツ



『ユウキです、追いつきました。もっと接近します』



車内に響いたユウキからの連絡に、支配人が無茶はするなと告げ、



「ユウキ、美比呂様を無事にお救いするのが最優先よ。それに、咲藤はどのみち逃げられないわ。あの人がいるもの。」



マダムが零した<あの人>が誰なのか、ゲートがあると言っていたから管理人のようなものだろうか・・・と俺はただ2人の無事を強く願うしかなかった。







ーーーーーーーーーーーーーーー









「うわッ!!」



あと10mほどまで迫った時、俺を止めようとした咲藤は窓から自分が身に着けていたシャツを投げ捨て、それは思った以上の速さで俺に向かい飛んできた。



や、っべ・・・!!



思った時には遅く、それを正面に受けた俺は視界を遮られてハンドル操作を誤り、このまま死ぬんだと悟った。



耳障りで派手な音が地下通路に響き渡り、壁にぶつかって弾き飛ばされたバイクから投げ出された俺は、路面を滑るバイクが咲藤が運転する車に衝突し、横転はしなかったものの、壁にぶつかってスピンして止まるのを見ながら自分もまた路上に叩きつけられて何回転もして全身の痛みに声も上げられずに辛うじて生きてはいる、と感じた。





・・・だめだ、インカムは壊れてる・・・





しくじったな・・・




美比呂様は・・・




・・・・・・美比呂様は無事だろうか・・・・・・





片目を覆う液体を拭うとそれは赤い体液で、血を拭おうとした右手は熱く拍動を刻んで見たことがない方向に歪み動かそうとすると激痛が走った。




いてぇ・・・折れてんなこれ・・・





「ユウキ・・・!!!!!」





「・・・・・・・・・ひ、な、・・・・・・さ・・・ん・・・・・・」





「ユウキ!!ユウキ・・・!!」





「ユウキ・・・!!」





ヒナさんに支えられて抱き締められながら、背後に立つ晃介様が痛々しそうに、悔しそうに俺を見下ろしていた。





「・・・ユウキ、よくやったわ。」




しゃがみこんだマダムの手が俺の頭に触れた。




「・・・後は任せなさい。」




「・・・マ・・・ダ、ム・・・・・・」












俺の視界はそのままゆっくりとブラックアウトし、周囲の声も聴こえなくなった。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

処理中です...