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八章
夜の蝶は秘密を抱いて苗床となる④⑤
しおりを挟む「ヒナ、ユウキ、美比呂を見なかったか?」
咲藤様への怒りがあった時もいつも冷静な晃介様が息を切らして部屋へ飛び込んできて、ベッドメイキングをしたり、掃除をしていた俺とヒナさんに焦った様子で問いかけた。
「まだお戻りになっておりません、最後にお姿を見たのは?」
シーツをベッドへ放り、ヒナさんは晃介様の言葉を元にインカムで支配人に事態を報告する。
朝食を摂った帰り、手洗いに行きたいと廊下で離れた少しの時間に美比呂様は姿を消した。
「・・・俺、探してきます」
「ちょっと、ユウキ・・・!」
ヒナさんの制止を聞かず、俺はいてもたってもいられずに部屋を飛び出した。
美比呂様・・・
美比呂様・・・!!
美比呂様がと言った手洗いに行き、声をかけてから中に入る。
個室は全て空いていて、誰かが使用した形跡はない・・・
「・・・?これ・・・」
一番奥の個室に落ちていたのは、美比呂様が髪を留めていたバレッタだった。
「なんで・・・」
外れたら自分で拾える、そして直すだろう、それをしなかったのは考えにくい・・・考えられるのは・・・
「・・・できなかったから・・・」
バレッタを拾い、俺はブーゲンビリアの管理室に向かった。
「すいま、せん・・・!はぁ、はぁ・・・っ」
「おぅ、ユウキ、どうした?」
「あ、の・・・っ・・・は、ァ・・・」
「・・・おい、大丈夫か?(笑)」
スーツで煙草をふかす、ガラガラとした気のいいおっさんに俺は施設内のカメラを見せてくれと頼んだ。
客室内や大浴場、プライバシーが関わるところには設置していないが、廊下やロビー、出入り口など共用部にはカメラが設置されている。
それも以前にノラが客に監禁されて以来のこと。
「何かあったのか?」
「・・・女性のお客様が1人、行方がわからないんです。」
「・・・わかった、お前はリアルタイムの方を見ていろ。俺は録画の方に目を通す。」
手分けして映像をチェックし、カメラのあちこちには明らかにいつもと違う動きを客に察知されないよう美比呂様を探すノラたちの姿が増えていった。
・・・どこだ・・・
・・・・・・どこだ・・・っ
焦れば焦る程早く時間が経過していくようで、マウスを操作する手には汗が滲む。
「おい、ユウキこれ」
おっさんに呼ばれ覗き込んだモニターには、
「これ、男女の2人だがなんか・・・雰囲気がおかしくないか?」
「・・・美比呂様・・・!」
「ユウキ!!」
「ありがとう!おっさん!支配人やヒナさんたちにも連絡を!」
俺は映像に映っていたのを美比呂様だと確信し、その男・・・咲藤に抱かれて出た通用口へ急いだ。
従業員専用の地下の通用口は、何かあった時の為の隔離部屋があり、この通路はとてつもない距離の先に外へと繋がるゲートがあって、森の外へと出る事が出来る。
「美比呂様・・・!」
なんで咲藤が・・・
あの晩以降咲藤は、男性のノラからノラの仕事の手ほどきを昼夜問わず施されて・・・
本人の意思など関係なく、快楽漬けにされているはずだ・・・
「・・・あ、ヒナさん、美比呂様を連れ去ったのは咲藤さま・・・いや、咲藤です。俺は地下通路から2人を追います!」
『ちょ、待ちなさいユウキ・・・!あの人に指導していたノラが殴られて気絶した状態で見つかったわ、あなた1人じゃ・・・!!』
「・・・いえ、俺行かなきゃ・・・俺が必ず助けます・・・」
『ユウキ!』
走り続けた途中には駐車場があり、そこから車が1台なくなっていた。
・・・まずい・・・
このまま逃げられたら・・・
・・・ヴォン・・・!!
1台が通る幅しかない通路、俺はバイクに飛び乗ってエンジンをかけた。
・・・そういえば、バイクの乗り方も車の運転も、ここに来て教えてもらったんだっけな・・・
アクセルを全開にしながら感傷に浸りそうになる思考を強い向かい風が吹き飛ばした。
『ユウキくん』
俺に笑いかけて名前を呼んでくれた美比呂様。
コンクリート打ちっぱなしの通路に強い排気音が響いた。
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