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八章
夜の蝶は秘密を抱いて苗床となる②⑥
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『薬漬けでセックスに溺れた母親が恋人と心中して、以前から性的虐待を受けていたので逃げ出したところをマダムに拾われた』
そんな搔い摘んだ説明を咲藤様がどう捉えたのか、バスルームの外に座って鍵が開けられるのを待つ僕の話を黙って聞いていた咲藤様がゆっくりと出てきたのは、言葉が途切れ、しばらくしてからだった。
扉に背を預けて座っていた僕は、ゆっくりとだが突然開いた扉に受け身を取れずバスルームに転がり、それを無言のまま冷たく見下ろす咲藤様は、何も言わず僕の横を通り過ぎた。
同情が欲しいわけでもないから別にいい。
僕は自分だけが不幸でいるような感情を抱かれるのが正直気に入らなかっただけだ。
なぜ俺だけ、なぜ自分だけ、そんな咲藤様が別の意味で哀れで、見ていて気分が悪かった。
「・・・お前の過去がどうであれ俺には関係のないことだ。」
「はい。」
「・・・・・・だが・・・」
「?」
「・・・」
「咲藤様・・・」
僕は立ち上がり、ベッドの脇に立つ咲藤様の手に自分の手をそっと重ねる。
「・・・いいんです。ココは、そういう場所ですから。」
ニッコリと微笑めば、全てを受容するノラという存在に客は堕ちる。
わずかに揺れた咲藤様の瞳。
背を滑って腰を抱いた咲藤様が、さっきまでとは打って変わって突き放すような言葉とは裏腹に優しく僕を腕の中に閉じ込めた。
顎を持ち上げられて触れる唇がそっと離れ、咲藤様が噛んで血が固まった傷をペロペロと舐めている。
「・・・痛いか?」
「いえ、大丈夫です。」
胸にすり寄って見上げ恋人のように振る舞えば、自分より不幸な人間がいたと思って安心したのか、優位に立った表情で僕を慈しむように見下ろす咲藤様。
・・・こういう、承認欲求を他者で満たそうとする人間が嫌いだ。
笑顔のまま僕は腹の中で咲藤様を亡きモノにした。
嘘にまみれた甘い空気を壊したのは部屋に鳴り響いたベルで、僕の姿が見えないのを心配した晃介様と美比呂様、そして先輩ノラのヒナさんがこの部屋を訪れたようだった。
緊張した面持ちの咲藤様がドアを開けると、不機嫌な表情を隠す事もせず、美比呂様の腰を抱いた晃介様が咲藤様、そして後ろに控える僕へと視線を移し、全身を眺めて眉をひそめてから咲藤様に目を止めた。
「・・・咲藤、説明しろ。」
「申し訳ありません」
諦めたように頭を下げて謝罪を口にした咲藤様を冷たく見下ろし、背の高い咲藤様が頭を下げたことで、僕を心配そうに見つめる美比呂様と視線が交わった。
・・・・・・なんで・・・この人には嫌な感じがしないんだろう・・・・・・
お腹に子供がいるのにこんなところに来て、お相手の晃介様に身体を明け渡して時間を問わず好きにされるような人なのに・・・
「それは何に対しての謝罪だ」
美比呂様へと意識が飛んでいた僕を引き戻したのは晃介様の低く鋭い追及の声だった。
「・・・それは・・・」
僕に対して強気で横暴に乱暴に振る舞っていた咲藤様が言葉を探し見つからずに言葉を詰まらせる。
「あのッ・・・」
その場にいる全員の視線が僕に注がれ息を飲む。
「・・・僕が、お願いしたんです・・・」
咲藤様の腕に腕を絡め、意を決して晃介様に言葉を述べる。
「ユウキが?」
「はい。晃介様と美比呂様の部屋付きとさせていただくのは光栄なことです。ですが、ご挨拶もせずに担当を外れるのはご無礼だと思ってお部屋に伺い、最後に可愛がって頂けないかと・・・お願い致しました。勝手なことを致しまして申し訳ございません。」
深く頭を下げ、腰を曲げたことにより乱暴に扱われた穴が痛み、意思に反してビクッと反応してしまったのを辛うじて誤魔化す。
「・・・・・・そうなのか?咲藤。」
きっと晃介様は納得はしていない。
咲藤様が僕に何をしたかもわかっているはずだ。
「・・・・・・は、い。」
小さく返事をする咲藤様が僕の身体を抱いたことで抱き寄せられて、視界の端では美比呂様がヒナさんに何か耳打ちをして、それに頷いたヒナさんがサッと姿を消したのは各フロアにあるリネン庫だった。
「・・・わかった。ユウキに免じて今回の件は不問とする。だが、これ以降はない。心しておけ。」
「・・・はい。申し訳ありませんでした。」
内心ほっとする僕と視線がぶつかった美比呂様が、ふ・・・と微笑んだ。
戻って来たヒナさんが僕の肩に大判のタオルをかけてくれて、晃介様、美比呂様、ヒナさん、僕の4人は晃介様と美比呂様の部屋へと向かった。
そんな搔い摘んだ説明を咲藤様がどう捉えたのか、バスルームの外に座って鍵が開けられるのを待つ僕の話を黙って聞いていた咲藤様がゆっくりと出てきたのは、言葉が途切れ、しばらくしてからだった。
扉に背を預けて座っていた僕は、ゆっくりとだが突然開いた扉に受け身を取れずバスルームに転がり、それを無言のまま冷たく見下ろす咲藤様は、何も言わず僕の横を通り過ぎた。
同情が欲しいわけでもないから別にいい。
僕は自分だけが不幸でいるような感情を抱かれるのが正直気に入らなかっただけだ。
なぜ俺だけ、なぜ自分だけ、そんな咲藤様が別の意味で哀れで、見ていて気分が悪かった。
「・・・お前の過去がどうであれ俺には関係のないことだ。」
「はい。」
「・・・・・・だが・・・」
「?」
「・・・」
「咲藤様・・・」
僕は立ち上がり、ベッドの脇に立つ咲藤様の手に自分の手をそっと重ねる。
「・・・いいんです。ココは、そういう場所ですから。」
ニッコリと微笑めば、全てを受容するノラという存在に客は堕ちる。
わずかに揺れた咲藤様の瞳。
背を滑って腰を抱いた咲藤様が、さっきまでとは打って変わって突き放すような言葉とは裏腹に優しく僕を腕の中に閉じ込めた。
顎を持ち上げられて触れる唇がそっと離れ、咲藤様が噛んで血が固まった傷をペロペロと舐めている。
「・・・痛いか?」
「いえ、大丈夫です。」
胸にすり寄って見上げ恋人のように振る舞えば、自分より不幸な人間がいたと思って安心したのか、優位に立った表情で僕を慈しむように見下ろす咲藤様。
・・・こういう、承認欲求を他者で満たそうとする人間が嫌いだ。
笑顔のまま僕は腹の中で咲藤様を亡きモノにした。
嘘にまみれた甘い空気を壊したのは部屋に鳴り響いたベルで、僕の姿が見えないのを心配した晃介様と美比呂様、そして先輩ノラのヒナさんがこの部屋を訪れたようだった。
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「・・・咲藤、説明しろ。」
「申し訳ありません」
諦めたように頭を下げて謝罪を口にした咲藤様を冷たく見下ろし、背の高い咲藤様が頭を下げたことで、僕を心配そうに見つめる美比呂様と視線が交わった。
・・・・・・なんで・・・この人には嫌な感じがしないんだろう・・・・・・
お腹に子供がいるのにこんなところに来て、お相手の晃介様に身体を明け渡して時間を問わず好きにされるような人なのに・・・
「それは何に対しての謝罪だ」
美比呂様へと意識が飛んでいた僕を引き戻したのは晃介様の低く鋭い追及の声だった。
「・・・それは・・・」
僕に対して強気で横暴に乱暴に振る舞っていた咲藤様が言葉を探し見つからずに言葉を詰まらせる。
「あのッ・・・」
その場にいる全員の視線が僕に注がれ息を飲む。
「・・・僕が、お願いしたんです・・・」
咲藤様の腕に腕を絡め、意を決して晃介様に言葉を述べる。
「ユウキが?」
「はい。晃介様と美比呂様の部屋付きとさせていただくのは光栄なことです。ですが、ご挨拶もせずに担当を外れるのはご無礼だと思ってお部屋に伺い、最後に可愛がって頂けないかと・・・お願い致しました。勝手なことを致しまして申し訳ございません。」
深く頭を下げ、腰を曲げたことにより乱暴に扱われた穴が痛み、意思に反してビクッと反応してしまったのを辛うじて誤魔化す。
「・・・・・・そうなのか?咲藤。」
きっと晃介様は納得はしていない。
咲藤様が僕に何をしたかもわかっているはずだ。
「・・・・・・は、い。」
小さく返事をする咲藤様が僕の身体を抱いたことで抱き寄せられて、視界の端では美比呂様がヒナさんに何か耳打ちをして、それに頷いたヒナさんがサッと姿を消したのは各フロアにあるリネン庫だった。
「・・・わかった。ユウキに免じて今回の件は不問とする。だが、これ以降はない。心しておけ。」
「・・・はい。申し訳ありませんでした。」
内心ほっとする僕と視線がぶつかった美比呂様が、ふ・・・と微笑んだ。
戻って来たヒナさんが僕の肩に大判のタオルをかけてくれて、晃介様、美比呂様、ヒナさん、僕の4人は晃介様と美比呂様の部屋へと向かった。
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