秘密~箱庭で濡れる~改訂版

焔 はる

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八章

夜の蝶は秘密を抱いて苗床となる②⑤~side by ユウキ~

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ブーゲンビリアのオーナーであるマダムに拾われたのは運が良かったのか悪かったのか、自らをいらない存在だと思っていた僕には、それは運命の悪戯、もしくは、神がいるのだとしたら、その神からの悪意あるプレゼントのようだった。





中3の頃に両親が離婚し、双子の弟は父親に、僕は母親に引き取られた。


男好きの母親は、以前からずっと父親がいない時には自宅に男を連れ込み、小学生の僕と双子の弟であるショウがいても構わずに行為に耽り、目の前で繰り広げられる汗と体液にまみれ行われる獣のような行為に僕たちはいつも怯えていた。



母親の相手は日によって違ったものの、毎週末必ず『出張』だと言って家を空ける父親がいない時は同じ男が泊まった。


その男は、母親が風呂に入っている時や、買い物に行くと言って家を空ける時間を見計らい、僕とショウの身体を弄んだ。



いつも母親と男が交わしている行為がなんのために行われるのか、なぜこいつらはこんなにもこの行為に夢中になるのか、幼い僕とショウにはわからなかったが、一見優しそうなサラリーマン風の男は、僕のペニスを咥えながら自らのモノをショウに握らせ、排泄のための場所でしかない僕たちのその場所を何回も何回も指で、舌で弄り「いつかコレをイレてあげるからね」と赤黒く勃起した自分のソレを扱きながら下衆な笑いを浮かべていた。





けれど、そんな最悪な日が訪れることはなかった。



・・・少なくとも、この時はまだ・・・






中学生になった頃、男が僕とショウにしていた行為を知った母親はその男とは縁を切ったが、なんのつもりなのか、夫婦関係が円満ではなかった父親ともそのタイミングで縁を切ってしまい、勝手に精神を病んだ母親は僕とショウを引き取るつもりだった父親から僕だけを連れて逃げ出し、他県の水商売の男の元に転がり込んだのだ。



物心ついてからずっと、母親は『女』という生き物だった。



母親も、母親に群がる男たちも・・・どいつもこいつも・・・ただの汚らわしい生き物でしかなかった。



いつも一緒に怯えていた片割れがいなくなり、学校にも行けず、酒と煙草、それになんだかわからない葉っぱや白い粉にまみれた部屋で昼夜問わず母親と男は身体を重ね、ついにその瞬間がきてしまった。



年齢を重ねた僕が後からになって知ったのは、あの2人はずっと薬漬けになってセックスに溺れていたということ。



女性の力とは思えない程強い力で母親は僕を抑えつけ、泣こうが喚こうが誰も助けてくれる人間なんていない中、僕は男のモノを口に突っ込まれ、身体を散々蹂躙され、ペニスに直接白い粉を塗られて自分の身体が自分のものではなくなり、身体中の血が激流のように駆け巡って何度射精しても治まらず、母親が息子に跨ってペニスを自らのヴァギナに入れて腰を振り、尻の穴は切れて血が出て内臓を抉り出されそうな痛みに耐えながらいつ気を失ったのかわからないほど疲れ切って意識を失い、目を覚ました時には窓が開いたマンションのベランダから、薬によってぶっ飛んだ2人が身を投げていた。







・・・・・・あァ・・・これで解放される・・・・・・



それは、冷たい夜風を浴び、澱んだ空気が循環して入れ替わり、僕を縛るモノは何もなくなったという悦びだった。






動かすだけで痛みが脳天まで響く汚れた身体をシャワーで洗い流し、サイズの合わない大人の男物のTシャツを着て、身体が成長した自分には少し小さいジーンズを履き、母親と男が薬を買う為にクローゼットに隠していたお金をバッグに詰めて夜道を歩き、行き先も決めないまま少し離れた駅から終電に飛び乗った。




都会を離れて行く電車が止まった無人駅。


こんな自分を目撃する人間は少ない方がいい。


あんな地獄から逃れられるなら・・・


・・・あんな地獄から逃れたって、僕を探してもくれていない父親も、きっと父親と幸せにしているのであろう双子の片割れにも連絡を取る術もなく、かといって、僕が味わった苦しみをきっと彼らはわかってくれない。




・・・もう、疲れた。




それならいっそ、消えてしまいたかった。




そう考えられる自由が訪れたことが僕はただただ嬉しかった。





無人駅から伸びる1本道をひたすら歩き、分かれ道はなんとなく選択、どのくらい歩いたかわからないけれど、最後に摂った食事がいつだったか・・・生に執着しなくなっていた僕は自分の空腹もわからなくて、死に場所を求めて暗い夜の森も彷徨っているうちに体力が尽きて、森の中にしては不自然に拓けた場所で気を失って倒れてしまった。





倒れたことは、あぁ、これは死に向かえるのかもしれないと思うと嬉しくて、心は穏やかだった。





・・・それなのに、死後の世界はなんて現実に似た、いや僕がこれまでいた世界が地獄なら、見たこともない綺麗な部屋はなんて天国的なんだと思っていたら、目を開けた僕を覗き込んだのが、ブーゲンビリアのマダム、その人だった。





ブーゲンビリアの敷地内で倒れていた僕を発見したマダムは、ノラたちが住んでいる別館へと僕を運び、目を覚ますまでの間に医者に診せ(勿論特殊な業界の医者だけど)、手当てをして看病をしてくれていたらしい。




行くところがないならココでノラの見習いをしたらいい。




死ぬきっかけも失い、行く場所もなく、警察に行けば面倒なことになるのは目に見えている時、マダムは僕
にそう声をかけた。




寝食が保証されて置いてもらう代わりに、僕は下働きのようなことをしていた。




客を直接相手にすることもあるノラたち、そして、普通の社会ではタブーとされる行為を許されているこの場所を求めて多くの常連客が訪れるこの場所で行わるのは、母親と男がシていたことと同じなのに、ソコには侵されないルールがきちんとあり、ノラでもない僕に手を出す人間はいなかった。




それは先輩のノラたちも同じで、ある時突然やってきた僕の素性を聞くことはなく、下働きの仕事を丁寧に教え、時には姉のような存在であったり、兄のような存在であったり、けれどそこにもまた、不必要には踏み込まない暗黙のルールがある中、心地よい距離感で他人と過ごせる環境を次第に僕は気に入っていった。



ノラの見習いとして先輩たちから『仕事』を教えてもらいながら、仕事外の時間には客をもてなす術を先輩たちから実地で学び、学もない一般的な常識も知識もないノラでは、客として訪れる社会的に地位のある方々の話に合わせることは出来ないからと、中学すらまともに行っていなかった僕は勉強も叩き込まれた。



仕事に勉強に追われくたくたになっても、毎日が満たされ充実していて、『生きている』と思えた。




ただ1つ、見習いとして先輩ノラと一緒に客につくようになっても、僕は女性が相手では嫌悪感を抑えられず、吐くようになっていた。



僕の上に跨り、息子相手でも『女』であった母親。


それ故に『女』という生き物を僕の心も身体も受け入れず、男にされた痛みを覚えているのに、男相手には身体は反応し、憧れと共に初めて恋心を知ったのは男性の先輩ノラに対してだった。



客を相手にするのに支障が出るのを避ける為にノラ同士の恋愛はタブーというのがあったから、恋愛に発展しそうな時点でそのノラたちはブーゲンビリアを去るのがここのルール。



僕は先輩ノラへの感情を隠し続け、指導の際に肌を合わせることで叶わない恋心を満たしていた。











・・・という僕の過去を回想しながら、全てなんて話すわけはなく、僕は搔い摘んで、『薬漬けでセックスに溺れた母親が恋人と心中して、以前から性的虐待を受けていたので逃げ出したところをマダムに拾われた』と咲藤様には説明した。




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