DEAD ENDにはさせない

ふかゆきすのう

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『やさしい』『いい人』『真面目』

 そんな評価はたくさんもらった。容姿のことも代名詞のように『イケメン』と言われてきた。それは嫌じゃなかったが、もっと内容なかみを評価して欲しかった。まず演技の――あの作品で演じたあの役のどこが――その印象を残したかった。賞をもらったことはあったが、自己評価が最悪の作品だったから実感が持てなかったし、本当に自分がその賞をもらっていいのかと腑に落ちなかった。そのことを雑誌の対談でしゃべったこともある。返ってくるのは「そんなことないよ」とか「よかったよ」とか、慰めの言葉ばかりだった。素直に喜ぶ奴のほうが愛されるのかもしれないが、そこで満足してしまうことが正しいのか。もしそこで胡坐を掻くようなことがあれば、それ以上にはなれない気がした。


 この仕事は難しい。正解がわからないからだ。自分の表現の仕方と相手が求めているものが違って、衝突してしまうこともある。そんな時はこの業界に入ってからまだキャリアが短い――俳優経験数年――のこちらが折れることが多かった。一度意見をなかなか譲らないオレに監督が怒りを露にして役を外されそうになったこともある。どうしてもその役を外されたくなかったオレは、その時共演者で現場にいた面倒見のいい事務所の先輩俳優に説得されて謝りに行き、幸い事なきを得た。後の作品で向上心の高さを褒められることも多くなったが、その一方で扱いにくさや、時には我が儘だと記事に書かれることもあり、それを知る度嫌な気分にさせられた。

 だからと言ってとくに好感度が下がることもなかったオレは、局を問わずにいろんなバラエティ番組にもオファーされ、名前と顔がすぐに一致する芸能人――俳優の一人――としてその位置を確立していった。


 そこでもまた、向上心というのか嫉妬というのか、そんな気持ちが絶えなかった。芸能界は才能がある人間の集まる場所だ。だから当然番組の出演者たちは何かしら持っている。見栄えが良い、トークがうまい、専門家並みにある分野に詳しいとか、プロ顔負けの凄い特技を持っているなど様々だが、自分にはないものを持っている者や自分より優れている者には嫉妬した。バラエティ慣れしている奴は皆、話を振られた時の返しが上手かった。自分もトークがうまくなりたい。あんな風に人を笑わせられたらなあ、などと考え、番組収録後に同じチームで親切にしてもらった芸人を飲みに誘ったこともある。その芸人とは飲み仲間になり、時々ラインもするようになった。一応向こうが歳は上だったが、気さくで話しやすく同世代の友達感覚で話せた。SNSでオレが出演するドラマや映画の番宣もしてくれるイイせんぱいでもあった。




 デビューしてから三作目の、後にそれが代表作と言われるようになったドラマで共演した俳優とは同世代ということもあってか、打ち上げ後も繋がっていた。その一人“冨田蒼矢”とは仕事の悩みを相談することもあり、自分よりも二歳年上の彼を兄のように慕ってもいた。彼には自分の弱さを曝け出せていたと思う。彼はそれをいつも受け止めてくれて、そんな彼がオレは大好きだった。そこが唯一の自分の本当の顔が見せられる場所だったはずだ。なのに彼が答えるオレの評価はいつも「歩は飢えた狼のようにハングリー精神の塊だ」と言っていた。何故そんな逞しい男みたいに表現するのかわからない。呼び出すときは泣き言を聞いてほしい時ばかりで、あんなにオレは彼の前で泣いて弱音ばかり吐いていたのに……


 もう一つよく言われることがある。それは彼に限ったことではないのだが、

「いつも笑顔で

 爽やかな人」



 いつも――


 “そうくん”。オレ、いつも


 そんなに上手に偽笑わらえてた?

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