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第六章

国王陛下の焦り

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 しかし今回の遠征でケルトは長らく探していた人物、アレクを見つけることができた。もともと正規の隊員ではないし、自由にさせろとの声も頂いている。居場所を見つけたのなら、それでよし。

 そのように報告すると国王は目を丸くした。

 青灰色の瞳に緊張が孕み、かすれた声がもれる。
 
「……見つけたじゃと?」

 愕然としたその様子にギルは眉を寄せる。

「ケルトが……そう申したのか?」

「はい」

「それは……それはどのような者じゃ。そのほうは会ったのか」

 玉座から立ち上がり、求めるように震える手を伸ばす。
 動揺しているのは明らかだ。
 ギルは訝しみながら口をひらく。

「顔を見られたくないのか常にローブを被っておりましたが、一度だけ。ケルトと同じ年頃をした銀髪の美しい少年でした」

「銀髪の?」

「はい」

「名は……? 名は聞いたか!!」

 今にもつかみかからんとする勢いで問われ、ギルは困惑する。

 彼を知っているのだろうか?
 
「アレクと申しておりました」

「なん……じゃ、と……!」

 言ったとたん、国王はガクッとその場に崩れ落ちた。

「いかがなされたのですか!」

 傍にいた従者が慌てて国王に駆け寄る。同様に傍近くまで寄ったギルに、真っ青になった国王はしばらく床に視線を落としたまま小刻みに体を震わせ、絞るように声をもらした。

「行かなくてはならぬ……」

「国王陛下?」

「連れ戻さなくては」

「連れ戻す、とは。ケルトを、でしょうか」

 ギルは己の判断を疑った。自由にさせろと言われていたから好きにさせたのだが、間違いだったのだろうか。一度連れ帰るべきだったのか?

 動揺するギルの腕を振り払い、国王はカッと眼を開くと勢いよく立ち上がった。

「警備隊長ギル・シチュアートよ。そのほうに新たな任務を命ずる! いますぐスタローン王国に戻り、ケルトとアレクを即刻この国に連れて参れ! 怪我ひとつ負わせてはならぬ。必ず無事に連れて参るのじゃ!! 肝に命じよ、何よりも優先すべきはアレクの命である! よいな、ギルよ!」

 発した言葉には焦りと覇気が滲む。
 疑念は山ほどあったが、問う隙さえ与えないほどの号令に息を飲む。
 
「はっ! 必ずや!!」

 理由など知らなくてもよい。これは心の叫び。王が心から望む命令だ。
 それだけハッキリと伝わればいい。
 自分はその御心に応えるために存在するのだから。

 ギルは任を解いたばかりの隊員を招集し、再び馬に跨がった。

「待たれよ、ギル殿!」

 背後にかかった声は、国王傍付きの従者であった。脇に箱を抱えて遠くから叫びながら走ってくる。ギルは焦る心を抑えて馬を止めた。

「どうされた」
「国王陛下からです。全員これを身につけて行くようにと。決して外してはならぬとのことです」

 差しだされた箱を開くと、同じようなネックレスが山のように入っている。
 
「これは?」
「マジックシールドが込められた魔道具です」
「了解した」

 マジックシールド?
 隊員の中に使えない者などいないというのに、なぜわざわざ。
 少々不思議に思ったものの、身につけよという王命ならば従うのみ。各自、魔道具を身につけたのを確認して従者は頷く。

「ご武運を」
「行ってくる」

 今度こそギルは駆けだした。
 馬に鞭を打ちながら国王の様子を思い浮かべる。
 優先すべきはアレクの命だとはっきり告げた国王。

 彼はいったい何者なのだろうか。
 ケルトの探し人であり、国王もまた知る人物。単なる孤児ではないのは分かっていたが、彼については不可解な点が多い。

 なぜ迎えに行かなければならないのか、なぜあの少年の命を守らなくてはならないのか。疑問は尽きない。

 けれど分かっていることがひとつだけある。事態は急を要するということ。一刻も早く迎えに行かなくては!

 それからギル達は寝る間も惜しんで馬を走らせた。理由は分からないが、スタローン王国に近づけば近づくほどギルの胸はざわついた。スタローン王国に紛争の兆候などない、頼りになるマーリナス殿も傍にいる。

 そう分かっているのに、嫌な予感がする。

 漠然とその思いは強まり、予定より3日ほど時間を短縮させてスタローン王国に入国を果たす。予感が的中したことを悟ったのはその時だった。
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