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第五章
恋敵に募る思い
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マーリナスの安否もわからず沈痛な面持ちで引きずられるようにして歩んでいると、一角に見覚えのある姿が見えた。
影のおりる牢のなかでベッドに腰掛け、枷を嵌められた両手を組んで静かに項垂れる人物。全身から悲痛な雰囲気が滲み、かつての明朗さは微塵も感じられない。だけど、あれは間違いなく。
「ロナルド?」
ぽつりと漏れた声に彼が反応した。こぼれそうなほど目を丸くして、顔を跳ね上げる。
「アレク……?」
「なんであいつがここに!? おい、おまえ! なにしたんだよ!」
ケルトも気づき、目を見張って叫んだが、「早く行け!」と騎士に体を押され、あっという間に前を通り過ぎてしまった。
ぐいぐいと手綱を引っ張られながら、二人とも信じられないという顔をして何度も後方を振り返る。
ロナルドの性格は二人ともよく知っている。短い期間だったとしてもアレクは仕事を、ケルトは生活を共にしてきたのだ。
ケルトとしては呪いにかかっていることを隠してアレクに近づいたロナルドの卑しい下心は許せるものではない。アレクの信用を逆手に取ったのだから。
でも、と。
そう思う一方で理解できてしまうところもある。嫌だが、理解できてしまう。
それは同じくアレクを想うからなのか。
一緒にいたいんだ。なにを捨てても。なにをしても。マーリナスとの信頼を裏切り、アレクを騙し。己に嫌悪を抱いたとしても一緒にいたい。
ロナルドのなかにある恋慕が、どれほどの熱をもっているのかケルトには計り知れない。けれどロナルドは盛りのついた獣みたいにアレクを襲うことはなかった。
ケルトでさえ、その欲望を制御するのは難しい。隙があればキスしたいと思うし、かつてのように情熱のままに体を重ね合わせたいと思う。けれどそのことでアレクは距離を置いてしまったから。
これでも毎日自制しているんだ。
あいつのしたことは許せないけれど、あいつがアレクに与えた幸せを、ケルトは唾を吐きながらもきちんと見てきた。
家を与え、仕事を与え、外の世界に出ることを許した。結果的にそれはケルトが想像した通り悪い方向へ向いてしまったけれど、仕事を始めたアレクが生き生きと輝いていたのも知ってる。
あいつがアレクの望みを叶えるために、どれほどの犠牲を生み、葛藤をしてきたことか。
ケルトが家事を頑張れるのはアレクのためだからだ。それ以外のことはどうでもいい。
アレクがマーリナスに好意を寄せてることも、わかっているけど。わかっているからこそ近づけたくない。幼いといわけれれば、そうかもしれないけど。
あいつだって呪いにかかっていたんだから、同じように思うはずだ。
それなのに下心があったとはいえ、マーリナスとの接点を増やすために警備隊に引き入れた。
始めはアレクを家から引きはがし、一緒にいるための口実かと思ったが違った。あいつはちゃんと時間を作ってアレクにマーリナスの看病をさせていたんだから。
自分には到底真似できないと思う。そんなことをしたら、気が狂ってしまう。
マーリナスが床に伏せっていることで毎日不安だったろうに、それでもアレクの笑いが絶えなかったのはきっと。
あいつがそうやって望みを叶え、支えていたからなんだろう。
認めたくはないけど、正直言って頭が上がらないと思う。
自分の気持ちを押し殺し、好いた相手の望みだけを優先して。
そうまでしてあいつが求めるものは――アレクの笑顔だ。
笑顔を見るためだけに、そばにいる。
だから、こんな場所に捕らえられるようなことをするはずがないのに。
初めて憤りとは違う感情がケルトの胸にこみ上げた。
恋敵として、なにをやっているんだという苛立ちと、いつも憎たらしいあいつの顔が消沈していたことが、妙な不安を生み出し、どうにも落ち着かなかった。
影のおりる牢のなかでベッドに腰掛け、枷を嵌められた両手を組んで静かに項垂れる人物。全身から悲痛な雰囲気が滲み、かつての明朗さは微塵も感じられない。だけど、あれは間違いなく。
「ロナルド?」
ぽつりと漏れた声に彼が反応した。こぼれそうなほど目を丸くして、顔を跳ね上げる。
「アレク……?」
「なんであいつがここに!? おい、おまえ! なにしたんだよ!」
ケルトも気づき、目を見張って叫んだが、「早く行け!」と騎士に体を押され、あっという間に前を通り過ぎてしまった。
ぐいぐいと手綱を引っ張られながら、二人とも信じられないという顔をして何度も後方を振り返る。
ロナルドの性格は二人ともよく知っている。短い期間だったとしてもアレクは仕事を、ケルトは生活を共にしてきたのだ。
ケルトとしては呪いにかかっていることを隠してアレクに近づいたロナルドの卑しい下心は許せるものではない。アレクの信用を逆手に取ったのだから。
でも、と。
そう思う一方で理解できてしまうところもある。嫌だが、理解できてしまう。
それは同じくアレクを想うからなのか。
一緒にいたいんだ。なにを捨てても。なにをしても。マーリナスとの信頼を裏切り、アレクを騙し。己に嫌悪を抱いたとしても一緒にいたい。
ロナルドのなかにある恋慕が、どれほどの熱をもっているのかケルトには計り知れない。けれどロナルドは盛りのついた獣みたいにアレクを襲うことはなかった。
ケルトでさえ、その欲望を制御するのは難しい。隙があればキスしたいと思うし、かつてのように情熱のままに体を重ね合わせたいと思う。けれどそのことでアレクは距離を置いてしまったから。
これでも毎日自制しているんだ。
あいつのしたことは許せないけれど、あいつがアレクに与えた幸せを、ケルトは唾を吐きながらもきちんと見てきた。
家を与え、仕事を与え、外の世界に出ることを許した。結果的にそれはケルトが想像した通り悪い方向へ向いてしまったけれど、仕事を始めたアレクが生き生きと輝いていたのも知ってる。
あいつがアレクの望みを叶えるために、どれほどの犠牲を生み、葛藤をしてきたことか。
ケルトが家事を頑張れるのはアレクのためだからだ。それ以外のことはどうでもいい。
アレクがマーリナスに好意を寄せてることも、わかっているけど。わかっているからこそ近づけたくない。幼いといわけれれば、そうかもしれないけど。
あいつだって呪いにかかっていたんだから、同じように思うはずだ。
それなのに下心があったとはいえ、マーリナスとの接点を増やすために警備隊に引き入れた。
始めはアレクを家から引きはがし、一緒にいるための口実かと思ったが違った。あいつはちゃんと時間を作ってアレクにマーリナスの看病をさせていたんだから。
自分には到底真似できないと思う。そんなことをしたら、気が狂ってしまう。
マーリナスが床に伏せっていることで毎日不安だったろうに、それでもアレクの笑いが絶えなかったのはきっと。
あいつがそうやって望みを叶え、支えていたからなんだろう。
認めたくはないけど、正直言って頭が上がらないと思う。
自分の気持ちを押し殺し、好いた相手の望みだけを優先して。
そうまでしてあいつが求めるものは――アレクの笑顔だ。
笑顔を見るためだけに、そばにいる。
だから、こんな場所に捕らえられるようなことをするはずがないのに。
初めて憤りとは違う感情がケルトの胸にこみ上げた。
恋敵として、なにをやっているんだという苛立ちと、いつも憎たらしいあいつの顔が消沈していたことが、妙な不安を生み出し、どうにも落ち着かなかった。
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