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第四章

命がけの策士

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「なにごとだ!」

 オクルールが入り口に向かって叫ぶと、青ざめたメイドが慌てた様子で部屋に駆け込んできた。

「警備隊です! 数は三百ほど。とても抑えきれません。大臣は裏手からお逃げ下さい!」

「なんだと!」

 その場にいた全員が血相を変える。ゲイリーは真っ先にアレクの縄を解き、手を引いて立ち上がった。

「逃げるぜ、ハニー」

「えっ、ロナルドが!」

「置いていけ」

「やだ……待って!」

 テーブルに並んだゴドリュースに向かってエレノアとオクルールが飛びつく。そのとき、慌てたオクルールの足が横たわるロナルドの腹に当たった。

 コンッと靴先が硬いなにかに触れる。そしてころころと転がった透明な球を目にした。朱い絨毯の上でぼんやりと青白い光を点滅させるそれ。

「なんだ……これは」

「ははっ、やりやがったな!」

 それがなにか瞬時に悟ったゲイリーは腹を抱えて笑いだした。ゴドリュースをトランクに押し込めながらエレノアは叫ぶ。

魔道具記録装置です! きっといままでの会話が全部録音されてるわっ!」

 ロナルドは横たわりながら力ない笑みを浮かべる。バレたか、と。

「下手したら通信機能までついてるかもな。これだけの数の警備隊が乗り込んできたんだ。確証がなければこないだろうぜ」

 ゲイリーはニヤリと笑ってロナルドを見る。

 その予想は大当たりだ。

 アレクが馬車を確認したいと言いだしたとき、機に乗じて潜入の可能性を見いだしたロナルドは、ひっそりとそのときを待っていた。あのときニックが現れたのは幸いだったのである。

 そして記録装置をずっと懐に隠し持ち、この部屋にきたときに作動させた。通信機能も付加してあるそれは、作動と同時に対となる魔道具に繋がる仕組みとなっている。

 そしてその対となる魔道具を持つのは……

 官邸内の騒音を聞きながらロナルドは口元を緩める。

 オクルールは怒りのあまり眼を血走らせてにらみつけた。

 警備隊ふぜいがこのオクルールに楯突くとは。おとなしく権力の下に埋もれておればいいものを。

 総督の許可は取っていないはずだ。それなのに官邸に押し入るとは、この男といいよほど怖いもの知らずな指揮官がいるとみえる。

 しかしこうも派手に動かれては官邸に警備隊が押し入ったことは周知の事実。加えてゴドリュースに関する会話の録音までもある。

 国王とて楽観視はしないだろう。いくら言い訳を並べてみたところで、警戒されるのは明白。右大臣の座に登る道は……潰えた。

 いままで歯牙にもかけていなかった警備隊に、出世の道を潰された怒りでオクルールは激昂した。

「ゲイリー。悪いが約束は反故ほごする」

 オクルールは傍にいた執事の腰元から勢いよく剣を引き抜いた。シャンデリアの輝きを反射し天に掲げられたやいば

 アレクは目を丸くする。

「ロナルドっ!」

 アレクはゲイリーの手を振り払い、地を蹴ってロナルドに覆いかぶさる。

 オクルールは怒りの滲んだ大きな眼を見開いて、構わずに真っ直ぐやいばを振り下ろした。硬く目を閉ざし、身構えたアレクの頭上で。

 キン……ッ! 

 硬質な音が短く響いた。

 静寂が差しこみ、凛とした空気がその場に吹く。

 ロナルドは薄目を開けて笑う。目は霞むし、あたまはくらくらする。それでも、そこにいるとわかるから。

「遅い、ですよ……隊長」

「無茶をする」

 呆れたような声が頭上から降った。
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