アメジストの呪いに恋い焦がれ~きみに恋した本当の理由~

一色姫凛

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第二章

追跡

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 昼も夜も関係のない地下街にも喧騒の静まる時間というのは訪れる。

 それは時折、この地下街の所々で起きる現象だ。

 口裏を合わせた素振りなどないにも関わらず、ひとりまたひとりとその場から人が姿を消してゆき、気づくと辺りには誰もいなくなり闇に溶けるような静寂がその場に訪れる。

 この巨大な地下街から一斉に人がいなくなったような錯覚を覚えるそんな瞬間。

 そんな異常な空気が辺りを包みこんでいることに、追跡班は不意に気がついた。

「……なんだ?」

「しっ……」

 集中して意識を研ぎ澄ましてみても周囲に人の気配は感じられない。

 だけど間違いなく

 物陰にひそみアレクのいる家屋を目をこらして見つめると、数人の人影が闇に紛れて家屋を取り囲み動いているのが確認できた。

「きたな」

 人影はしばらく家屋のまわりを動き回ると、その後中に吸い込まれるように姿を消した。そして間もなくして短い悲鳴が聞こえたかと思えば、再び場は静寂に包まれた。

 そして家屋から人影がふたつ、闇に紛れて姿を現した。それぞれ影の肩には大きな麻袋が背負われており、もぞもぞと動いているのが遠目にも見てとれる。

 あの中におとり役の少年がいるのは間違いないだろう。

 ここまでは予定通りだ。

「しかし……なぜ袋が二つあるんだ?」

 追跡班は互いに顔を見合わせて首をかしげたが、いまはまず追跡するのが先だと即座に頭を切り替え、追跡を開始したのだった。

 そうとは知らない影たち――モーリッシュの命令でアレクを捕らえたならず者たちは暴れる大袋をがしりと肩に抱え、ひょうひょうとした表情でモーリッシュのいる屋敷へと足を向けていた。

「頼まれたのはこっちのガキだけだ。あいつまで捕らえる必要があったのかよ?」

「あいつはあの建物のそばに隠れていやがった。身なりもここに住むモンの格好じゃねえ。きなくせえんだよ。少し前にバロンさんが捕まっただろ。通報されたらたまんねえからな」

 あの半壊した家屋は実のところ、地上へ続く四か所の階段からまっすぐ通りを行くと目についた場所に現れるようにわざと残してあるもので、全部で四つあるその建物は通称「餌場」と呼ばれる。

 その周囲には常に監視の目がつき放浪者がそこに寝床を決めると、ものの数分でそれぞれの雇い主へ「ネズミがかかった」と連絡が入る仕組みだ。

 「ネズミ」の優先確保順位は権力の大きさによるものが多いが、「一度手に入れたネズミは同じ主のもの」という暗黙のルールがある。

 同じネズミが餌場に二度入るなど滅多にあることではないのだが、まったくないわけでもない。そのため作られた暗黙のルールだ。

 今回はそのルールが適用され、モーリッシュが「ネズミ」をもらい受けることになったのだ。

 ふたりの男たちは大通りを避けてひたすら暗い道を歩み進める。

 ごちゃごちゃと建物や通路が入り組んだ地下街は、慣れないものならすぐに方向感覚がなくなり道に迷ってしまう。

 だが追跡班は追尾の魔法をたどり、なんとか男たちの後を追うことに成功していた。

 だが――

「まずい」

「どうした」

「この辺りから感度が悪くなっています。おそらく探知妨害の魔法がかけられている。このまま追尾の魔法を使っていると相手にバレる可能性があります」

「仕方ない。では追尾の魔法を解け。目視で追うぞ」

「はい」

 おそらくモーリッシュのアジトが近いのだろう。上層と下層の不可侵は暗黙のルールであるが、それとて必ずということではない。この警戒心、さすがに世界中を飛び回り尻尾をつかませない大悪党なだけある。

 そんなことを考えながら目視で追跡を開始した彼らだったが、入り組んだ地形と目先さえわからない闇の中で、あっという間にアレクを連れ去った男たちを見失ってしまったのである。

「どうしますか」

「おまえは上に行って状況を報告してこい。俺はこの辺りを探してみる。アレクがさらわれてからだいぶ進んできたはずだ。アジトはそう遠くない」

「わかりました」

 そういった流れで追跡班は二手に分かれることになった。

 実際モーリッシュのアジトが近いと踏んだ男の予想は当たっていたが、見つけ出すのは困難を極めるだろう。

 なにせこの地下街でモーリッシュがアジトを構えるその場所は、にあったからだ。
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