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終.最後の戦い編
第115話(1192年7月) 関ヶ原の戦い⑤
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関ヶ原中央・出雲軍
「楊柳! 騎馬隊副長のお前がなぜここにいる? 義仲と越中にいるはずじゃ」
「巴姉御の女の勘でさぁ。スサノオ様が危ないってね。義仲兄貴も間もなく来ます。しかし、やつらをエグるのは骨が折れそうだ」
突入した出雲騎馬隊が苦戦している姿を見て楊柳が言った。
「あの野郎の首を取れば変わるかもしれませんぜ。勝負しろ! 豚の大将!」
楊柳が和田義盛に斬りかかる――だが、義盛の一撃のほうが速く、楊柳の身体は馬から落ちた。
「ガハハハ! 人相手に、わしが負けるわけがなかろう――ヌオッ!」
次の瞬間、勝ち誇る義盛の太刀が弾き飛んだ。飛び込んできた巴御前が薙刀を義盛に向ける。
「よくも楊柳を!」
しびれる手を見て、義盛が言う。
「なんという剛力。わしの嫁にならんか! 二人の子なら最強の武者になるに違いない!」
「何を馬鹿なことを!」
木曽義仲が巴御前と義盛の間に入る。
「残念だな。義盛、巴はわしの想い女だ!」
「フン、ならば、おぬしを殺せばいいだけのこと。皆かかれ!」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
京・霧の神社
九条兼実は兵を従えて恐る恐る、神社の中に入っていくと、偵察に出した兵たちが茫然と立ち尽くして舞台上の巫女を見ていた。
「――これは、舞いに見とれているというのか?」
状況を確認しようとした兼実だったが、舞台の蓮華の舞いを見た瞬間から、視線を動かすことはできなかった。
「なんという美しく、また物悲しい。源平争乱の悲劇を現わしているのか……。これほど、心揺さぶられるのは、静御前の舞い以来だ」
蓮華の動きが変化した。舞台の中央から右に移り、左を向いて踊る。
僧兵から感嘆の声が上がる。兼実の声は震えていた。
「おお……、見える、何も無い空間に静御前がいるようだ。二人で舞っておる!」
蓮華がもはや観客となった僧兵に呼びかける。
「さあ、みんな手をつないで、いっしょに歌いましょう」
僧兵たちが武器を手放し、手をつなぐ。
兼実も、輿から降りてきて侍大将や僧兵の手を握った。
舞台を中心に幾重にも人の輪が出来上がる。
「これは……、平和と平等の輪。蓮華殿、良いものを見せてもらった」
法然はそう言うと、一人で人の輪を後にした。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
再び、関ヶ原中央・出雲軍
義仲、巴御前をはじめ、奮闘する出雲騎馬隊だったが、数の差で押され、一人、また一人と討たれていった。貴一も疲労がたまり、動きが鈍くなっている。
貴一は懐から静御前にもらった赤い小壺を3つ取り出した。
――1つ程度じゃ、この危機はしのげない。持ってくれよ、俺の体!
「それは使うな」
貴一の腕が掴まれた。
「弁慶! 俺に反対して退いたはずじゃ……」
「それは弁慶隊隊長の判断だ。隊は水月に預けてきた。今はただの弁慶だ。わしだけの命ならおぬしにくれてやる! 義仲! 巴! わしらは一騎当千。一人千人は倒して当たり前、そうだろ!」
「おう!」「もちろんですわ!」
積まれていく死体の山を見て、和田義盛が顔を真っ赤にしていた。
「おのれ! 太刀を寄越せ。こうなればわしが行く!」
義盛が出ようとすると、長太刀で前を塞がれた。
「実平! 邪魔をするな!」
周りの出雲軍を掃討した土肥実平が合流していた。
「よく見ろ。もうあやつらしかおらん。スサノオと同じように間を置き、弓で倒せばいい」
「――ああ、そうだった」
実平の言葉で冷静になった義盛は御家人たちに遠巻きに囲むよう命じた。
貴一は弁慶たちを見る。気力で戦ってはいたが、もう体力が残ってないのは一目瞭然だった。
貴一は再び、赤い小壺を取り出す。今度は6つだった。
弁慶が叫ぶ!
「やめろ! 鬼一!」
「みんな、ありがとう。俺のために死なせはしない」
貴一が小壺を割ろうとしたとき、源氏軍の退き鐘が戦場に鳴り響いた――。
「楊柳! 騎馬隊副長のお前がなぜここにいる? 義仲と越中にいるはずじゃ」
「巴姉御の女の勘でさぁ。スサノオ様が危ないってね。義仲兄貴も間もなく来ます。しかし、やつらをエグるのは骨が折れそうだ」
突入した出雲騎馬隊が苦戦している姿を見て楊柳が言った。
「あの野郎の首を取れば変わるかもしれませんぜ。勝負しろ! 豚の大将!」
楊柳が和田義盛に斬りかかる――だが、義盛の一撃のほうが速く、楊柳の身体は馬から落ちた。
「ガハハハ! 人相手に、わしが負けるわけがなかろう――ヌオッ!」
次の瞬間、勝ち誇る義盛の太刀が弾き飛んだ。飛び込んできた巴御前が薙刀を義盛に向ける。
「よくも楊柳を!」
しびれる手を見て、義盛が言う。
「なんという剛力。わしの嫁にならんか! 二人の子なら最強の武者になるに違いない!」
「何を馬鹿なことを!」
木曽義仲が巴御前と義盛の間に入る。
「残念だな。義盛、巴はわしの想い女だ!」
「フン、ならば、おぬしを殺せばいいだけのこと。皆かかれ!」
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京・霧の神社
九条兼実は兵を従えて恐る恐る、神社の中に入っていくと、偵察に出した兵たちが茫然と立ち尽くして舞台上の巫女を見ていた。
「――これは、舞いに見とれているというのか?」
状況を確認しようとした兼実だったが、舞台の蓮華の舞いを見た瞬間から、視線を動かすことはできなかった。
「なんという美しく、また物悲しい。源平争乱の悲劇を現わしているのか……。これほど、心揺さぶられるのは、静御前の舞い以来だ」
蓮華の動きが変化した。舞台の中央から右に移り、左を向いて踊る。
僧兵から感嘆の声が上がる。兼実の声は震えていた。
「おお……、見える、何も無い空間に静御前がいるようだ。二人で舞っておる!」
蓮華がもはや観客となった僧兵に呼びかける。
「さあ、みんな手をつないで、いっしょに歌いましょう」
僧兵たちが武器を手放し、手をつなぐ。
兼実も、輿から降りてきて侍大将や僧兵の手を握った。
舞台を中心に幾重にも人の輪が出来上がる。
「これは……、平和と平等の輪。蓮華殿、良いものを見せてもらった」
法然はそう言うと、一人で人の輪を後にした。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
再び、関ヶ原中央・出雲軍
義仲、巴御前をはじめ、奮闘する出雲騎馬隊だったが、数の差で押され、一人、また一人と討たれていった。貴一も疲労がたまり、動きが鈍くなっている。
貴一は懐から静御前にもらった赤い小壺を3つ取り出した。
――1つ程度じゃ、この危機はしのげない。持ってくれよ、俺の体!
「それは使うな」
貴一の腕が掴まれた。
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「それは弁慶隊隊長の判断だ。隊は水月に預けてきた。今はただの弁慶だ。わしだけの命ならおぬしにくれてやる! 義仲! 巴! わしらは一騎当千。一人千人は倒して当たり前、そうだろ!」
「おう!」「もちろんですわ!」
積まれていく死体の山を見て、和田義盛が顔を真っ赤にしていた。
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弁慶が叫ぶ!
「やめろ! 鬼一!」
「みんな、ありがとう。俺のために死なせはしない」
貴一が小壺を割ろうとしたとき、源氏軍の退き鐘が戦場に鳴り響いた――。
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