革命好きが源平時代に転生したら ~いい国作ろう平民幕府~

キムラ ナオト

文字の大きさ
上 下
125 / 136
15.南宋襲来

第109話(1189年12月) 初志

しおりを挟む
 貴一たちが巡幸を終えて臨安に戻るころには、金国の軍勢は引き揚げていた。北方で争っていた遊牧民族たちが一つにまとまり、金国が防衛の必要に迫られたからだ。無敗のままモンゴルを武力統一した男の名をテムジンといった。

 臨安に戻った喜一は、すぐにチュンチュンの魂が消えたことを出雲大社に知らせ、絲原鉄心に平国に来るよう要請した。これからは、発明ができないことを前提に工業政策を考えなければいけない。

――チュンチュンがいなくなったとなると、他の発明家が必要だ。理系の科挙(官僚試験)が作れるといいんだけどね。

 出雲でも学校の構想は出ていた。しかし、読み書きを教える程度のもので、大学レベルと考えると中国でしか作れない。何しろ知識層の厚みと数が違う。試験のシステムも整備されていた。

 貴一は大将軍に加え、工部尚書(長官)も兼任することにした。当然、激務となったが、貴一が望んだ状態でもあった。チュンチュンの一件以来、少しでも時間が空くと転生のことを考え、自分の条件の厳しさに絶望してしまうからだ。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 1190年3月。臨安宮廷内。

 貴一の尚書室の棚にはおびただしい巻物が積まれていた。農業技術から蒸気機関、鉄道、銃など、チュンチュンの発明をまとめたものである。

 尚書室の入り口に立った朱熹しゅきが棚を見上げて嘆く。

「漢民族が倭国の知識に頼ることになろうとは……」

「朱先生、気にすることはない。800年後にこの国は日本から技術支援を受けることになる。少し早まっただけだ」

「ふっ、また大将軍の占いか。ならば、出雲から来た客も当ててみるか?」

「そんなの簡単さ。俺が呼んだんだから。鉄心が来たんだろ」

「ははは、ハズレだ」

 朱熹の後ろにいたのは、鉄心ではなく鴨長明だった。
 貴一は驚いて立ち上がる。

「どうした、長明。出雲を離れて大丈夫なのか?」

「一大事ゆえ、私自身で参りました」

――――――――――――――――――――――――――――――――――
 臨安宮廷・廟議の間

 文武百官が居並ぶ中、貴一は大将軍と工部尚書の辞任を願い出ると、廟議の間は騒然となった。安徳帝は涙ぐんで、辞任を許さなかった。

「朕を見捨てるつもりなの?」

「友から挑戦された。だから最後の決着をつけに帰る。それだけさ」

「だったら、平国の兵も連れていけばよい」

「安徳、先の皇帝の愚を、繰り返しちゃいけないよ」

 朱熹しゅきが前に出る。

「大将軍、口を慎め! 先ほどからの陛下への言葉使い、無礼であろう」

「そうだ。既存の権力に対して無礼でこそ俺だった。だが、知らず知らずのうちに、この時代に飲み込まれていた。チュンチュンと広元が思い出させてくれたよ。俺がこの時代でなすべきことを!」

「余迷いごとを! 陛下、辞職など生ぬるい。大将軍と工部尚書の職の剥奪を進言します!」

「左丞相! 朕は!」

「スサノオの無礼を許せば、文武百官が陛下を軽んじますぞ!」

「グスッ――わかった。スサノオの職を剥奪せよ……。ただし! これまでの功により無礼の罪は問わぬ……」

「陛下の詔である! スサノオを宮廷から追い出せ!」

「安徳。これで、俺とお前は主従ではなくなった」

 貴一が微笑むのを見て、安徳帝の瞳から再び涙があふれ出した。

「なぜ、そんな顔をする? 主従でなくなったのが、そんなにうれしいのか!」

「ああ、うれしいさ。これからはただの兄弟分だ。弟よ」

 安徳帝の涙が止まるのが、貴一にもわかった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――
 東シナ海・大型蒸気船・甲板

 木曽義仲が貴一の背中をバンバン叩きながら言った。

「それにしても、あの鉄心が裏切るなんて思いもしなかったな! だが、奥州をくれるっていうなら、浮気もするか。ガハハハ!」

「元々、鉄心殿は富を欲する性なのはわかっておりました。第二次壇ノ浦以降、鎌倉の使者のやり取りに、しっかり目を光らせておけば……」

 臨安で会ってから、長明はずっと貴一に謝罪していた。鉄心が出雲大社の有能な隊長や技術者500人も連れて亡命したのを、長明は防げなかったのだ。

「鉄心が出雲から離れた一番の理由はおそらく富じゃないよ」

「他に何があるってんだよ。奥州丸ごとだぞ! 金山もあるんだぞ!」

 義仲が手を広げて言った。

「チュンチュンがいなくなったからだ。出雲にいれば常に新しい技術に触れられる。技術によって鉄師の一族を守り続けていた鉄心にとって、それは富に勝る魅力だった」

 貴一は長明を肩に手を置く。

「もう謝んなくていいよ。広元に兵器の差を見せつけて、戦わずにして勝とうなどと考えた俺が甘かった。広元は勝つことをあきらめずに技術者を引き抜くことを考え、俺は余裕をぶっこいて中国にいた。その差だ。ハハハハ」

「なぜ、笑うのです」

「おもしろいぐらい、広元の言う通りになっているからさ。あいつは京を去る時、俺と必ず戦うと予言した。俺の予言は転生者のインチキだが、あいつは本物だった。未来を知る俺が戦いを避けようとしても、避けられなかったからね。だが――」

「何です?」

「広元は人口の半分を死ぬ戦いが必要と言った。それはさせない」

 そう言った貴一の目は、まだ見ぬ戦場を見ていた――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

私のスキルが、クエストってどういうこと?

地蔵
ファンタジー
スキルが全ての世界。 十歳になると、成人の儀を受けて、神から『スキル』を授かる。 スキルによって、今後の人生が決まる。 当然、素晴らしい『当たりスキル』もあれば『外れスキル』と呼ばれるものもある。 聞いた事の無いスキル『クエスト』を授かったリゼは、親からも見捨てられて一人で生きていく事に……。 少し人間不信気味の女の子が、スキルに振り回されながら生きて行く物語。 一話辺りは約三千文字前後にしております。 更新は、毎週日曜日の十六時予定です。 『小説家になろう』『カクヨム』でも掲載しております。

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜

西園寺わかば
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

処理中です...