123 / 136
15.南宋襲来
第107話(1189年8月) 大逆人・時忠
しおりを挟む
臨安宮廷・廟議の間
「時忠、卿の思い通りにはさせん!」
皇帝が言仁に切りかかるのを、時忠が身を挺してかばう。
「爺!」
突き飛ばされた言仁が叫ぶ。
短剣は時忠の脇腹に刺さっていた。
「この愚帝め!」
時忠は短剣を取り上げると皇帝の腹を突き刺す。
文武百官がうろたえる中、二人はしばらくもみ合っていたが、先に皇帝が動かなくなった。立ち上がった時忠もおびただしく血を流していた。
「爺!」
時忠は力を振り絞って立ち上がった。
「百官に告げる! この時忠は皇帝と先帝、二代にわたり殺した大逆人である! また賄賂を横行させ! 南宋を腐らせた!」
「爺!」
「言仁様、いえ、陛下。玉座にお座りください。時忠は見たいのです。この命があるうちに……」
「爺、死なないで!」
「陛下、これからは一人で何でも判断できるようにならねばなりませぬ」
「こんな策じゃなかったじゃないか! 私は爺が死ぬぐらいなら、皇帝になどなりたくない!」
「私もいけませぬ。朕とお変えください」
時忠は首を振る新皇帝を叱咤する。
「さあ、早く玉座へ!」
幼き新皇帝は顔を涙で濡らしながら、玉座に座った。
時忠は笑顔で新皇帝に向かって言う。
「陛下の最初の仕事はこの時忠を裁くことです。百官に命じてください。『大逆人・時忠の首を落とし、目と鼻をくりぬいて、市中にさらせ』と」
「そんなことができないよ!」
「陛下、時忠は無駄を嫌悪します。この身体も無駄なく使いとうございます。爺の死に際の願いを、何卒、お聞きどけくださいますよう。陛下の覚悟を聞けば、爺も安らかに死ねまする」
新皇帝は時忠の足元に血だまりができているのを見て目を閉じた。
そして、次に目を開けたときには涙は止まっていた。
「百官に命ずる! 時忠の目と鼻をくりぬいた後、市中にさらすのだ。そして……、民の前で死体を斬り刻め!」
「フハハハ! それでこそ清盛公の孫! 快なり!!」
時忠は両手を挙げて叫ぶと、前に倒れ絶命した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
新皇帝への禅譲が宮廷の外へ伝えられると戦いはすぐに収まった。
翌日、新皇帝は大将軍に貴一を、左丞相に朱熹を任命する。しかし、右丞相には誰も任命せず、空席のままとした。
臨安の広場には、時忠の罪状が書かれた立て札と、むごたらしい死体があった。
石を投げる民の中に貴一と蕨姫はいた。
「蕨、すまない。時忠様を助けられなかった。骨は必ず日本で葬る」
「父の亡骸を見て大泣きするかと思いましたが、涙が出ないのです。望んであのような姿になったと聞くと、『なぜ泣く馬鹿者』と父に叱られそうな気がして……」
「そうかもしれないね。時忠様は死を悟った瞬間、前政権の負の財産をすべてあの世に持っていく策を考えた。自身の命と死後の体まで使ってね。時忠様は最後まで平時忠を貫き通した。後悔は無かったと思うよ」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
臨安宮廷・廟議の間
百官が並ぶ中、大将軍のスサノオが前に出る。
「陛下、遠征での大敗。新皇帝への禅譲で国内は落ち着きません。ここは新皇帝の威を示すために巡幸を進言します」
巡幸とは皇帝が国内を巡ることを指す。
「どこまで行くのか?」
「蒸気船にて長江を上り、蜀の成都まで」
「また、パンダの船に乗れるのか!」
新皇帝は声を弾ませた。
次に左丞相の朱熹が前に出た。
「禅譲されたとはいえ、陛下には趙家の血が流れてはおりませぬ。民心を一新するためにも新王朝を建てられると良いかと」
「左丞相、よく言ってくれた。朕も即位してからずっとそのことを考えていた。新しい国号は『平』とする。朕の名も言仁から安徳に改める」
1189年、南宋王朝は終わり、新たに平国の安徳帝が誕生した。
「時忠、卿の思い通りにはさせん!」
皇帝が言仁に切りかかるのを、時忠が身を挺してかばう。
「爺!」
突き飛ばされた言仁が叫ぶ。
短剣は時忠の脇腹に刺さっていた。
「この愚帝め!」
時忠は短剣を取り上げると皇帝の腹を突き刺す。
文武百官がうろたえる中、二人はしばらくもみ合っていたが、先に皇帝が動かなくなった。立ち上がった時忠もおびただしく血を流していた。
「爺!」
時忠は力を振り絞って立ち上がった。
「百官に告げる! この時忠は皇帝と先帝、二代にわたり殺した大逆人である! また賄賂を横行させ! 南宋を腐らせた!」
「爺!」
「言仁様、いえ、陛下。玉座にお座りください。時忠は見たいのです。この命があるうちに……」
「爺、死なないで!」
「陛下、これからは一人で何でも判断できるようにならねばなりませぬ」
「こんな策じゃなかったじゃないか! 私は爺が死ぬぐらいなら、皇帝になどなりたくない!」
「私もいけませぬ。朕とお変えください」
時忠は首を振る新皇帝を叱咤する。
「さあ、早く玉座へ!」
幼き新皇帝は顔を涙で濡らしながら、玉座に座った。
時忠は笑顔で新皇帝に向かって言う。
「陛下の最初の仕事はこの時忠を裁くことです。百官に命じてください。『大逆人・時忠の首を落とし、目と鼻をくりぬいて、市中にさらせ』と」
「そんなことができないよ!」
「陛下、時忠は無駄を嫌悪します。この身体も無駄なく使いとうございます。爺の死に際の願いを、何卒、お聞きどけくださいますよう。陛下の覚悟を聞けば、爺も安らかに死ねまする」
新皇帝は時忠の足元に血だまりができているのを見て目を閉じた。
そして、次に目を開けたときには涙は止まっていた。
「百官に命ずる! 時忠の目と鼻をくりぬいた後、市中にさらすのだ。そして……、民の前で死体を斬り刻め!」
「フハハハ! それでこそ清盛公の孫! 快なり!!」
時忠は両手を挙げて叫ぶと、前に倒れ絶命した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
新皇帝への禅譲が宮廷の外へ伝えられると戦いはすぐに収まった。
翌日、新皇帝は大将軍に貴一を、左丞相に朱熹を任命する。しかし、右丞相には誰も任命せず、空席のままとした。
臨安の広場には、時忠の罪状が書かれた立て札と、むごたらしい死体があった。
石を投げる民の中に貴一と蕨姫はいた。
「蕨、すまない。時忠様を助けられなかった。骨は必ず日本で葬る」
「父の亡骸を見て大泣きするかと思いましたが、涙が出ないのです。望んであのような姿になったと聞くと、『なぜ泣く馬鹿者』と父に叱られそうな気がして……」
「そうかもしれないね。時忠様は死を悟った瞬間、前政権の負の財産をすべてあの世に持っていく策を考えた。自身の命と死後の体まで使ってね。時忠様は最後まで平時忠を貫き通した。後悔は無かったと思うよ」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
臨安宮廷・廟議の間
百官が並ぶ中、大将軍のスサノオが前に出る。
「陛下、遠征での大敗。新皇帝への禅譲で国内は落ち着きません。ここは新皇帝の威を示すために巡幸を進言します」
巡幸とは皇帝が国内を巡ることを指す。
「どこまで行くのか?」
「蒸気船にて長江を上り、蜀の成都まで」
「また、パンダの船に乗れるのか!」
新皇帝は声を弾ませた。
次に左丞相の朱熹が前に出た。
「禅譲されたとはいえ、陛下には趙家の血が流れてはおりませぬ。民心を一新するためにも新王朝を建てられると良いかと」
「左丞相、よく言ってくれた。朕も即位してからずっとそのことを考えていた。新しい国号は『平』とする。朕の名も言仁から安徳に改める」
1189年、南宋王朝は終わり、新たに平国の安徳帝が誕生した。
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜
西園寺わかば
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。
どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。
- カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました!
- アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました!
- この話はフィクションです。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています

【本編完結】転生隠者はまったり怠惰に暮らしたい(仮)
ひらえす
ファンタジー
後にリッカと名乗る者は、それなりに生きて、たぶん一度死んだ。そして、その人生の苦難の8割程度が、神の不手際による物だと告げられる。
そんな前世の反動なのか、本人的には怠惰でマイペースな異世界ライフを満喫するはず……が、しかし。自分に素直になって暮らしていこうとする主人公のズレっぷり故に引き起こされたり掘り起こされたり巻き込まれていったり、時には外から眺めてみたり…の物語になりつつあります。
※小説家になろう様、アルファポリス様、カクヨム様でほぼ同時投稿しています。
※残酷描写は保険です。
※誤字脱字多いと思います。教えてくださると助かります。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

偽物の侯爵子息は平民落ちのうえに国外追放を言い渡されたので自由に生きる。え?帰ってきてくれ?それは無理というもの
つくも茄子
ファンタジー
サビオ・パッツィーニは、魔術師の家系である名門侯爵家の次男に生まれながら魔力鑑定で『魔力無し』の判定を受けてしまう。魔力がない代わりにずば抜けて優れた頭脳を持つサビオに家族は温かく見守っていた。そんなある日、サビオが侯爵家の人間でない事が判明した。妖精の取り換えっ子だと神官は告げる。本物は家族によく似た天使のような美少年。こうしてサビオは「王家と侯爵家を謀った罪人」として国外追放されてしまった。
隣国でギルド登録したサビオは「黒曜」というギルド名で第二の人生を歩んでいく。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
お人好し底辺テイマーがSSSランク聖獣たちともふもふ無双する
大福金
ファンタジー
次世代ファンタジーカップ【ユニークキャラクター賞】受賞作
《あらすじ》
この世界では12歳になると、自分に合ったジョブが決まる。これは神からのギフトとされこの時に人生が決まる。
皆、華やかなジョブを希望するが何に成るかは神次第なのだ。
そんな中俺はジョブを決める12歳の洗礼式で【魔物使い】テイマーになった。
花形のジョブではないが動物は好きだし俺は魔物使いと言うジョブを気にいっていた。
ジョブが決まれば12歳から修行にでる。15歳になるとこのジョブでお金を稼ぐ事もできるし。冒険者登録をして世界を旅しながらお金を稼ぐ事もできる。
この時俺はまだ見ぬ未来に期待していた。
だが俺は……一年たっても二年たっても一匹もテイム出来なかった。
犬や猫、底辺魔物のスライムやゴブリンでさえテイム出来ない。
俺のジョブは本当に魔物使いなのか疑うほどに。
こんな俺でも同郷のデュークが冒険者パーティー【深緑の牙】に仲間に入れてくれた。
俺はメンバーの為に必死に頑張った。
なのに……あんな形で俺を追放なんて‼︎
そんな無能な俺が後に……
SSSランクのフェンリルをテイム(使役)し無双する
主人公ティーゴの活躍とは裏腹に
深緑の牙はどんどん転落して行く……
基本ほのぼのです。可愛いもふもふフェンリルを愛でます。
たまに人の為にもふもふ無双します。
ざまぁ後は可愛いもふもふ達とのんびり旅をして行きます。
もふもふ仲間はどんどん増えて行きます。可愛いもふもふ仲間達をティーゴはドンドン無自覚にタラシこんでいきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる