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15.南宋襲来
第107話(1189年8月) 大逆人・時忠
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臨安宮廷・廟議の間
「時忠、卿の思い通りにはさせん!」
皇帝が言仁に切りかかるのを、時忠が身を挺してかばう。
「爺!」
突き飛ばされた言仁が叫ぶ。
短剣は時忠の脇腹に刺さっていた。
「この愚帝め!」
時忠は短剣を取り上げると皇帝の腹を突き刺す。
文武百官がうろたえる中、二人はしばらくもみ合っていたが、先に皇帝が動かなくなった。立ち上がった時忠もおびただしく血を流していた。
「爺!」
時忠は力を振り絞って立ち上がった。
「百官に告げる! この時忠は皇帝と先帝、二代にわたり殺した大逆人である! また賄賂を横行させ! 南宋を腐らせた!」
「爺!」
「言仁様、いえ、陛下。玉座にお座りください。時忠は見たいのです。この命があるうちに……」
「爺、死なないで!」
「陛下、これからは一人で何でも判断できるようにならねばなりませぬ」
「こんな策じゃなかったじゃないか! 私は爺が死ぬぐらいなら、皇帝になどなりたくない!」
「私もいけませぬ。朕とお変えください」
時忠は首を振る新皇帝を叱咤する。
「さあ、早く玉座へ!」
幼き新皇帝は顔を涙で濡らしながら、玉座に座った。
時忠は笑顔で新皇帝に向かって言う。
「陛下の最初の仕事はこの時忠を裁くことです。百官に命じてください。『大逆人・時忠の首を落とし、目と鼻をくりぬいて、市中にさらせ』と」
「そんなことができないよ!」
「陛下、時忠は無駄を嫌悪します。この身体も無駄なく使いとうございます。爺の死に際の願いを、何卒、お聞きどけくださいますよう。陛下の覚悟を聞けば、爺も安らかに死ねまする」
新皇帝は時忠の足元に血だまりができているのを見て目を閉じた。
そして、次に目を開けたときには涙は止まっていた。
「百官に命ずる! 時忠の目と鼻をくりぬいた後、市中にさらすのだ。そして……、民の前で死体を斬り刻め!」
「フハハハ! それでこそ清盛公の孫! 快なり!!」
時忠は両手を挙げて叫ぶと、前に倒れ絶命した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
新皇帝への禅譲が宮廷の外へ伝えられると戦いはすぐに収まった。
翌日、新皇帝は大将軍に貴一を、左丞相に朱熹を任命する。しかし、右丞相には誰も任命せず、空席のままとした。
臨安の広場には、時忠の罪状が書かれた立て札と、むごたらしい死体があった。
石を投げる民の中に貴一と蕨姫はいた。
「蕨、すまない。時忠様を助けられなかった。骨は必ず日本で葬る」
「父の亡骸を見て大泣きするかと思いましたが、涙が出ないのです。望んであのような姿になったと聞くと、『なぜ泣く馬鹿者』と父に叱られそうな気がして……」
「そうかもしれないね。時忠様は死を悟った瞬間、前政権の負の財産をすべてあの世に持っていく策を考えた。自身の命と死後の体まで使ってね。時忠様は最後まで平時忠を貫き通した。後悔は無かったと思うよ」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
臨安宮廷・廟議の間
百官が並ぶ中、大将軍のスサノオが前に出る。
「陛下、遠征での大敗。新皇帝への禅譲で国内は落ち着きません。ここは新皇帝の威を示すために巡幸を進言します」
巡幸とは皇帝が国内を巡ることを指す。
「どこまで行くのか?」
「蒸気船にて長江を上り、蜀の成都まで」
「また、パンダの船に乗れるのか!」
新皇帝は声を弾ませた。
次に左丞相の朱熹が前に出た。
「禅譲されたとはいえ、陛下には趙家の血が流れてはおりませぬ。民心を一新するためにも新王朝を建てられると良いかと」
「左丞相、よく言ってくれた。朕も即位してからずっとそのことを考えていた。新しい国号は『平』とする。朕の名も言仁から安徳に改める」
1189年、南宋王朝は終わり、新たに平国の安徳帝が誕生した。
「時忠、卿の思い通りにはさせん!」
皇帝が言仁に切りかかるのを、時忠が身を挺してかばう。
「爺!」
突き飛ばされた言仁が叫ぶ。
短剣は時忠の脇腹に刺さっていた。
「この愚帝め!」
時忠は短剣を取り上げると皇帝の腹を突き刺す。
文武百官がうろたえる中、二人はしばらくもみ合っていたが、先に皇帝が動かなくなった。立ち上がった時忠もおびただしく血を流していた。
「爺!」
時忠は力を振り絞って立ち上がった。
「百官に告げる! この時忠は皇帝と先帝、二代にわたり殺した大逆人である! また賄賂を横行させ! 南宋を腐らせた!」
「爺!」
「言仁様、いえ、陛下。玉座にお座りください。時忠は見たいのです。この命があるうちに……」
「爺、死なないで!」
「陛下、これからは一人で何でも判断できるようにならねばなりませぬ」
「こんな策じゃなかったじゃないか! 私は爺が死ぬぐらいなら、皇帝になどなりたくない!」
「私もいけませぬ。朕とお変えください」
時忠は首を振る新皇帝を叱咤する。
「さあ、早く玉座へ!」
幼き新皇帝は顔を涙で濡らしながら、玉座に座った。
時忠は笑顔で新皇帝に向かって言う。
「陛下の最初の仕事はこの時忠を裁くことです。百官に命じてください。『大逆人・時忠の首を落とし、目と鼻をくりぬいて、市中にさらせ』と」
「そんなことができないよ!」
「陛下、時忠は無駄を嫌悪します。この身体も無駄なく使いとうございます。爺の死に際の願いを、何卒、お聞きどけくださいますよう。陛下の覚悟を聞けば、爺も安らかに死ねまする」
新皇帝は時忠の足元に血だまりができているのを見て目を閉じた。
そして、次に目を開けたときには涙は止まっていた。
「百官に命ずる! 時忠の目と鼻をくりぬいた後、市中にさらすのだ。そして……、民の前で死体を斬り刻め!」
「フハハハ! それでこそ清盛公の孫! 快なり!!」
時忠は両手を挙げて叫ぶと、前に倒れ絶命した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
新皇帝への禅譲が宮廷の外へ伝えられると戦いはすぐに収まった。
翌日、新皇帝は大将軍に貴一を、左丞相に朱熹を任命する。しかし、右丞相には誰も任命せず、空席のままとした。
臨安の広場には、時忠の罪状が書かれた立て札と、むごたらしい死体があった。
石を投げる民の中に貴一と蕨姫はいた。
「蕨、すまない。時忠様を助けられなかった。骨は必ず日本で葬る」
「父の亡骸を見て大泣きするかと思いましたが、涙が出ないのです。望んであのような姿になったと聞くと、『なぜ泣く馬鹿者』と父に叱られそうな気がして……」
「そうかもしれないね。時忠様は死を悟った瞬間、前政権の負の財産をすべてあの世に持っていく策を考えた。自身の命と死後の体まで使ってね。時忠様は最後まで平時忠を貫き通した。後悔は無かったと思うよ」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
臨安宮廷・廟議の間
百官が並ぶ中、大将軍のスサノオが前に出る。
「陛下、遠征での大敗。新皇帝への禅譲で国内は落ち着きません。ここは新皇帝の威を示すために巡幸を進言します」
巡幸とは皇帝が国内を巡ることを指す。
「どこまで行くのか?」
「蒸気船にて長江を上り、蜀の成都まで」
「また、パンダの船に乗れるのか!」
新皇帝は声を弾ませた。
次に左丞相の朱熹が前に出た。
「禅譲されたとはいえ、陛下には趙家の血が流れてはおりませぬ。民心を一新するためにも新王朝を建てられると良いかと」
「左丞相、よく言ってくれた。朕も即位してからずっとそのことを考えていた。新しい国号は『平』とする。朕の名も言仁から安徳に改める」
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