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15.南宋襲来
第103話(1189年8月) 第二次壇ノ浦の戦い①
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博多沖・南宋軍総大将船。
――兵糧切れは無い。これで倭国軍と生きるか死ぬかの戦いをするしかなくなった……。
もう倭国軍の実力を舐めてはいない趙汝愚はそう思った。
失望を隠さない趙汝愚を、吉報を持ってきたと思っている伝令が、怪訝な顔をして見ている。
「何だ? 私の顔に何かついているのか」
「いえ、韓侂冑様からの書状に対する返答はいかがいたしましょうか」
趙汝愚は書状をすべて読む前に引き裂いたことに気づいた。朱熹が引き裂かれた書状を拾って読む。
「兵糧のことのほかに、『出雲水軍に京近くの港まで船で案内させる。これならば船を遠くに置いて戦う危険は無い。速やかに京を落すべし』と書いてあります」
「どうすればいい」
朱熹が趙汝愚の耳元でささやく。
「反対しても韓侂冑は納得しますまい。そればかりか勝機をみすみす逃した反逆者と触れ回るかもしれません。ここで軍の支持を失えば、皇帝に禅譲させることなど夢のまた夢」
ずっと続いている膠着状態のせいで、軍の趙汝愚に対する信頼は下がり続けている。
「行くしかないのか……」
「当初の策に戻るだけです。一勝さえできれば、軍の支持も戻ります。そして、韓侂冑を先陣に命じ、敵の手で殺させるのです。まだあきらめてはなりませぬ」
趙汝愚は伝令に韓侂冑の策を「是」とすると答えた。
「全軍に伝令! 再び博多沖に集結せよ!」
―――――――――――――――――――――――――――――――――
3日後、博多沖に集結した南宋軍に対し、趙汝愚により作戦が伝えられた。
「出雲大社の勢力圏内である山陽道沿岸を進み、大輪田の泊(神戸港)から上陸。その後、京を焼き払う! 関門海峡は狭きゆえ、船同士がぶつからぬよう留意せよ」
韓侂冑の指揮する船団を筆頭に5000艘の船が関門海峡を埋め尽くすように進んでいく。九州側の源氏も陸から弓を放つが、南宋軍は舷側に盾を並べて相手をしなかった。
「相手をするな、守るだけで良い! 早く海峡を抜けるのだ! 急げ!」
「左丞相、どうされました。焦りは禁物です」
朱熹がはやる趙汝愚をなだめた。
「4年前、この海峡で時忠の一族が全滅したと聞く。そう思うと、不吉な気がしてならないのだ」
―――――――――――――――――――――――――――――――――
関門海峡・瀬戸内海側出口・南宋軍先鋒軍船
道案内役の出雲水軍を見て、韓侂冑は伝令に言った。
「出雲の蒸気船はちと早すぎる。今は潮流が逆だ。味方がついてこられぬ。倭人に早さを落せと伝えろ」
しかし、早船を送っても、出雲水軍は速度を落とすどころか、逆に速くした。
苛立った韓侂冑が三度目の伝令を出そうとしたとき、後方からドーンという爆発音が聞こえた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
関門海峡・南宋軍総大将船
「倭国の水軍に構わず進むよう全船に伝えろ。虎の子の火縄銃や鉄炮を無駄使いしてはならぬ!」
後ろから何度も爆発音が聞こえてくると、趙汝愚は不機嫌な声で伝令に言った。
遠くを見ていた朱熹が指さして言う。
「我が軍では無いようです。あれを見てください!」
ダーン! という音ともに煙が上がっていたのは、出雲大社国の陸側からだった。
「火縄銃か。いや、あの煙の量は火縄銃よりも大きい……」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
壇ノ浦、周防国(山口県南部)側海岸
5台並んでいる砲台を見て、木曽義仲は林に隠れているチュンチュンに言った。
「おい、パンダ。なんでこんなに火縄が長いんだ。チンタラやってると敵がすべて行っちまうぞ」
2mの大筒から伸びている火縄は10m以上の長さだった。その火縄をゆっくりと種火が進んでいく。
チュンチュンはバッと2枚の紙を前に出す。
『初期不良』『危険』
「なんだそりゃ」
義仲がそう言ったとき、大砲が轟音を立てて破裂した。鉄片が辺りに飛び散る。みんなが木の影に隠れた。
「殿!」
飛び出した巴御前が義仲を覆うように伏せる。
「パンダ、てめえ! 危なすぎんだろ」
ガバっと起き上がった義仲が叫んだ。
チュンチュンは再び紙を出す。
『失敗とカワイイは』『正義』
じゃあと手をあげてチュンチュンは壊れた大砲を回収しはじめた。
義仲は舌打ちをする。
「役目交代でいいんだな――巴、あれを出せ」
ガラガラと音を立て、5m近くある投石器が現れた。
10台が横一列に並ぶ。
「南宋の攻城兵器を南宋軍相手に使うことになるとはな。狙うは水深が浅く、海の幅が狭い場所だ! 一斉に放て!」
ブォン!と音を立てて鉄の玉が飛んで行った。
――兵糧切れは無い。これで倭国軍と生きるか死ぬかの戦いをするしかなくなった……。
もう倭国軍の実力を舐めてはいない趙汝愚はそう思った。
失望を隠さない趙汝愚を、吉報を持ってきたと思っている伝令が、怪訝な顔をして見ている。
「何だ? 私の顔に何かついているのか」
「いえ、韓侂冑様からの書状に対する返答はいかがいたしましょうか」
趙汝愚は書状をすべて読む前に引き裂いたことに気づいた。朱熹が引き裂かれた書状を拾って読む。
「兵糧のことのほかに、『出雲水軍に京近くの港まで船で案内させる。これならば船を遠くに置いて戦う危険は無い。速やかに京を落すべし』と書いてあります」
「どうすればいい」
朱熹が趙汝愚の耳元でささやく。
「反対しても韓侂冑は納得しますまい。そればかりか勝機をみすみす逃した反逆者と触れ回るかもしれません。ここで軍の支持を失えば、皇帝に禅譲させることなど夢のまた夢」
ずっと続いている膠着状態のせいで、軍の趙汝愚に対する信頼は下がり続けている。
「行くしかないのか……」
「当初の策に戻るだけです。一勝さえできれば、軍の支持も戻ります。そして、韓侂冑を先陣に命じ、敵の手で殺させるのです。まだあきらめてはなりませぬ」
趙汝愚は伝令に韓侂冑の策を「是」とすると答えた。
「全軍に伝令! 再び博多沖に集結せよ!」
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3日後、博多沖に集結した南宋軍に対し、趙汝愚により作戦が伝えられた。
「出雲大社の勢力圏内である山陽道沿岸を進み、大輪田の泊(神戸港)から上陸。その後、京を焼き払う! 関門海峡は狭きゆえ、船同士がぶつからぬよう留意せよ」
韓侂冑の指揮する船団を筆頭に5000艘の船が関門海峡を埋め尽くすように進んでいく。九州側の源氏も陸から弓を放つが、南宋軍は舷側に盾を並べて相手をしなかった。
「相手をするな、守るだけで良い! 早く海峡を抜けるのだ! 急げ!」
「左丞相、どうされました。焦りは禁物です」
朱熹がはやる趙汝愚をなだめた。
「4年前、この海峡で時忠の一族が全滅したと聞く。そう思うと、不吉な気がしてならないのだ」
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関門海峡・瀬戸内海側出口・南宋軍先鋒軍船
道案内役の出雲水軍を見て、韓侂冑は伝令に言った。
「出雲の蒸気船はちと早すぎる。今は潮流が逆だ。味方がついてこられぬ。倭人に早さを落せと伝えろ」
しかし、早船を送っても、出雲水軍は速度を落とすどころか、逆に速くした。
苛立った韓侂冑が三度目の伝令を出そうとしたとき、後方からドーンという爆発音が聞こえた。
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関門海峡・南宋軍総大将船
「倭国の水軍に構わず進むよう全船に伝えろ。虎の子の火縄銃や鉄炮を無駄使いしてはならぬ!」
後ろから何度も爆発音が聞こえてくると、趙汝愚は不機嫌な声で伝令に言った。
遠くを見ていた朱熹が指さして言う。
「我が軍では無いようです。あれを見てください!」
ダーン! という音ともに煙が上がっていたのは、出雲大社国の陸側からだった。
「火縄銃か。いや、あの煙の量は火縄銃よりも大きい……」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
壇ノ浦、周防国(山口県南部)側海岸
5台並んでいる砲台を見て、木曽義仲は林に隠れているチュンチュンに言った。
「おい、パンダ。なんでこんなに火縄が長いんだ。チンタラやってると敵がすべて行っちまうぞ」
2mの大筒から伸びている火縄は10m以上の長さだった。その火縄をゆっくりと種火が進んでいく。
チュンチュンはバッと2枚の紙を前に出す。
『初期不良』『危険』
「なんだそりゃ」
義仲がそう言ったとき、大砲が轟音を立てて破裂した。鉄片が辺りに飛び散る。みんなが木の影に隠れた。
「殿!」
飛び出した巴御前が義仲を覆うように伏せる。
「パンダ、てめえ! 危なすぎんだろ」
ガバっと起き上がった義仲が叫んだ。
チュンチュンは再び紙を出す。
『失敗とカワイイは』『正義』
じゃあと手をあげてチュンチュンは壊れた大砲を回収しはじめた。
義仲は舌打ちをする。
「役目交代でいいんだな――巴、あれを出せ」
ガラガラと音を立て、5m近くある投石器が現れた。
10台が横一列に並ぶ。
「南宋の攻城兵器を南宋軍相手に使うことになるとはな。狙うは水深が浅く、海の幅が狭い場所だ! 一斉に放て!」
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