革命好きが源平時代に転生したら ~いい国作ろう平民幕府~

キムラ ナオト

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14.奥州の落日編

第94話(1187年6月) 13年ぶり

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 奥州平泉・義経屋敷

 静御前は藤原家の事情について話し始めた。

「わたしは元密偵です。平泉に来てからは奥州藤原家について調べておりました。義経様、秀衡ひでひらは重い病にかかっています」

「そうなのか!」

 義経が驚く。

「皆の前では元気にふるまっていますが、もう長くはありません。跡継ぎは嫡男の泰衡やすひらに、軍事は義経様に任せる気でいます」

「当然だ。奥州で戦を知る者は私以外にはおらぬ」

「当然って、お前なあ……。跡継ぎになる泰衡の気持ちも考えろ。今度はちゃんと泰衡の言うことを聞いてだな――」

「ハァ? なぜ、戦知らずの命令を聞かねばならぬ。秀衡殿にしてもそうだ。義兄上(頼朝)を討つから兵を預けろといっても、守りを頼むとしか言わぬ。鬼一ならわかるだろ? 小勢で守りに回って勝てると思うか?」

「……静御前、義経は平泉へ入ってからずっとこの調子なのか? 反感買いまくりだろ」

 静御前がうなずくと、貴一は大きくため息をついた。

「そりゃ、静御前も心配で離れたくは無いよね……。お前さあ、そんな調子だと戦の前に藤原家に殺されるよ」

 貴一が床に両手をついて頭を下げた。

「静御前、俺が命に代えても義経を守る。だから頼む! 熊若と蓮華を助けてくれ!」

「確かにスサノオ様のお力なら守るのはたやすいでしょう。ですが……」

「熊若は私の弟だと思っている。静、私からも頼む」

 義経も手をついて頭を下げる。

「――義経様。行きますわ、京へ」

――――――――――――――――――――――――――――――――

 翌日、義経屋敷の庭で貴一は蕨姫に稽古をつけていた。
 縁側に義経と伊勢義盛がやってくる。

「奥方は時忠卿の娘だろう。武技など習わせて良いのか」

「蕨は俺に守られるだけじゃ嫌らしい。いい嫁だよ」

「物好きなことだ」

 顔を赤らめる蕨姫を見て、義経は首をかしげた。
 貴一は義経の身体をじっくり見る。

「奇麗な体だな。お前、最後に人を斬ったのはいつだ?」 

「さあ、よく覚えておらぬ」

 義経は伊勢義盛を振り返る。

「木曽義仲攻めのときが最後かと」

 貴一はあきれ顔になった。

「伊勢、お前も静御前もコイツを甘やかしすぎなんだよ。コイツは鞍馬寺のときから、兵法書を読むだけで、武技の稽古をいつもサボっていた。降りて来い、稽古をつけてやる」

 伊勢義盛が義経の前に出る。

「……力の差がありすぎる」

「過保護だなあ。けど、伊勢は勘違いをしている。相手をするのは俺じゃない、蕨だ。公卿の娘と義経。これなら差はないだろう?」

「差が無いだと、武家を舐めるな!」

 義経は癇癪を起すと、伊勢義盛を押しのけて庭へ降りると棒を取った。
 蕨姫に打ちかかる。貴一が声を出す。

「怖れるな、蕨、脱力だ」

 蕨姫は長い袖をひらめかせて棒をからめる。そのまま身体をひねると義経は池に落とされた。

 池からザバッと立ち上がる義経。貴一が言った。

「蕨は教え始めてまだ2か月間(受け技だけだけどね)。どうだ、義経。俺が教えればすぐに強くなれるぞ」

 伊勢義盛が義経に駆け寄る。義経が伊勢の手を払う。

「心配ない。私も強くなりたい。再び義盛や静が誇れる英雄になるために」

「言うじゃないか、義経。よし、決まったな。伊勢もいっしょに鍛えてやる」

「鬼一、私を強くしろ!」

 貴一は義経に近づくと、棒で頭を叩いた。

「何をする!」

「師匠と呼べ」

「……師匠、よろしく頼む」

「師匠の言うことは」

「絶対!」

 貴一がニコリと笑う。
 義経が15歳で鞍馬山を出てから13年。再び二人は師弟になった。

――――――――――――――――――――――――――――――――

 奥州平泉・義経屋敷

 平泉に貴一が来てから2カ月後、義経と伊勢義盛は出かける支度をしていた。
 毎月一度、義経は藤原家の酒席に呼ばれている。
 貴一は義経に小壺を渡たす。

「身に危険が及んだら壺を割るんだ。眩しいから目を閉じるんだぞ」

「何を言っている。師匠も来るんだ。秀衡殿が呼んでいる」

「会う気はなかったんだけどなあ……。さすがにブッチできないか」

 貴一は届けられた豪華な装束に着替えると、秀衡の居館に案内された。
 大広間に入ると、奥州の有力豪族がズラリと並んでいた。

 秀衡が豪族たちに大声で言った。

「聞いてくれ! 出雲大社国主・スサノオ殿が同盟を結びに来た! これで奥州も安心だ! さあ、みなで祝おう!」

 あっけにとられる貴一をよそに大広間には喜びと安堵の声が満ち溢れた――。
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