革命好きが源平時代に転生したら ~いい国作ろう平民幕府~

キムラ ナオト

文字の大きさ
上 下
104 / 136
13.草薙の剣編

第90話(1186年2月) 仕掛けた罠

しおりを挟む
 霧の神社では梶原景時が率いる源氏軍と陰陽師たちが激しく戦っている中、安倍国道とその護衛だけが戦いに加わらず、熊若と睨みあっていた。

 傷口を押さえた熊若が笑う。

「3000の兵が囲んでいる。早く降伏したほうがいい。陰陽師を無駄死にさせるだけだ」

「降伏だと! 何の罪で? こんな無法なことはあるか! 源氏の指揮官と話をしてくる!」

 怒って立ち去ろうとする国道に熊若が声をかける。

「無駄だ。お前はすでに罪を自白した」

 国道の足が止まった。

「何だと? そなた、源氏に何を吹き込んだ?」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 1週間前、京・中原広元屋敷

 熊若の前に置かれた器からは湯気が上がっている。

「いい香りです。これが茶ですか」

「私の唯一の贅沢だ。飲むと心が落ち着いて、思考が整う」

 広元は貴一についていくつか聞き、熊若は答えられる範囲で答えた。
 最後に熊若は出雲で作った火縄銃を広元に見せて言った。

「僕に傷を負わせた、鉛玉を飛ばす武器です。名を火縄銃と言います」

 広元は手にとって眺める。

「ふむ。判官殿、いや義経の屋敷で見せてもらった物と一緒だ。大陸からの珍品で一つしかないと聞いていたが――これは鬼一が南宋で手に入れた物なのか?」

「いいえ。義経様が密かに作らせていたものです。それを盗んできました」

 まだ義経は捕まっていない。反鎌倉勢力に匿われているという噂はあったが、どこに潜伏しているかを鎌倉は掴んでいなかった。

「義経だと――熊若は居場所を知っているのか?」

「知っているのはこの銃を作っている鍛冶場の場所だけです」

 熊若は安倍清明神社の場所と、陰陽師頭の安倍国道が神社の主であることを伝えた。
 広元は茶をすすってしばらく考えた後、口を開く。

「安倍国道は法皇のお気に入りだ。踏み込んだ後に、間違ったでは許されぬ」

 幕府は守護地頭設置の件で院と交渉を続けているが、遅々として進まなかった。広元が京にいるのも、状況を打開するために鎌倉から派遣されているからだ。ここで、下手を打てば院に弱味を見せることになる。広元としては交渉が不利に働く真似はしたくなかった。

「これだけでは弱いな」

 今度は熊若がしばらく考える番だった。

「屋島の戦いで義経様が扇の的を銃で射抜いたとき、多くの兵が見ていたと聞きます。銃声の音を確認させてから、踏み込めば間違いは起こりません――銃声は僕が鳴らします」

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 再び霧の神社。
 息を切らしながら国道は走っている。

――あの小僧を侮っていた。まさか義経追討の兵を利用するとは。銃の鍛冶場も見つかるだろう。こうなったら仙洞御所に逃げ込んで、法皇にかばってもらうしかない。問題は包囲を突破することだ。突破さえすれば……。

 国道は大事に抱えた草薙の剣を見る。

 倉の前までくると大きな鉄扉を押し開けた。
 薄暗い中、頑丈な鎖につながれた女が見える。

「百号よ。外にいる源氏を皆殺しにするのだ。そうすれば体を治してやる」

 そう国道は言ったものの、何重もの鎖と鍵で繋いであるため、外すのも一苦労だった。焦った国道は後ろにいる護衛を怒鳴る。

「そなたたち、何をぼうっと見ておる。こっちに来て手伝え!」

 だが、答えは返ってこなかった。


「熊若くん……」

 蓮華が声を震わせる。
 国道が振り返ると、護衛の姿は無く、熊若が立っているだけだった。

「混乱の中、お前を殺す機会はいくつもあった。なぜ僕が攻撃しなかったと思う? ここに案内させるためだ。さあ、鍵を外せ。それがお前の最後の仕事だ」

 針剣を国道に向ける。

「蓮華ちゃん、こいつは身体の治し方を知らない。言うことを聞いてはいけないよ」

 蓮華がうなずく。
 国道は忌々し気な目で熊若と蓮華を見ながら鍵を外していった。最後の一つになったとき、懐に手を入れ、赤い小壺を2つ取り出した。

「おかしな真似をするな!」

「暴走しろ、百号」

 国道は小壺を地面に叩きつけた――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する

ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。 きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。 私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。 この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない? 私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?! 映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。 設定はゆるいです

【本編完結】転生隠者はまったり怠惰に暮らしたい(仮)

ひらえす
ファンタジー
後にリッカと名乗る者は、それなりに生きて、たぶん一度死んだ。そして、その人生の苦難の8割程度が、神の不手際による物だと告げられる。  そんな前世の反動なのか、本人的には怠惰でマイペースな異世界ライフを満喫するはず……が、しかし。自分に素直になって暮らしていこうとする主人公のズレっぷり故に引き起こされたり掘り起こされたり巻き込まれていったり、時には外から眺めてみたり…の物語になりつつあります。 ※小説家になろう様、アルファポリス様、カクヨム様でほぼ同時投稿しています。 ※残酷描写は保険です。 ※誤字脱字多いと思います。教えてくださると助かります。

偽物の侯爵子息は平民落ちのうえに国外追放を言い渡されたので自由に生きる。え?帰ってきてくれ?それは無理というもの

つくも茄子
ファンタジー
サビオ・パッツィーニは、魔術師の家系である名門侯爵家の次男に生まれながら魔力鑑定で『魔力無し』の判定を受けてしまう。魔力がない代わりにずば抜けて優れた頭脳を持つサビオに家族は温かく見守っていた。そんなある日、サビオが侯爵家の人間でない事が判明した。妖精の取り換えっ子だと神官は告げる。本物は家族によく似た天使のような美少年。こうしてサビオは「王家と侯爵家を謀った罪人」として国外追放されてしまった。 隣国でギルド登録したサビオは「黒曜」というギルド名で第二の人生を歩んでいく。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

生残の秀吉

Dr. CUTE
歴史・時代
秀吉が本能寺の変の知らせを受ける。秀吉は身の危険を感じ、急ぎ光秀を討つことを決意する。

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

DARSE BIRTHZ。(ダースバース。)

十川弥生
ライト文芸
これは世界の謎を解く物語。  2020年、日出国にて突如謎の球体が姿を現した。原因は全くの不明。球体は未知の物質《隕子》を放出しており、その影響で多種多様な化物《化(ローザ)》が全国各地に現れた。一方、人間は万物のイメージを能力にする《理(イデア)》を会得する。《理》を駆使して《化》を倒す者を《化掃士(かそうし)》と呼ぶ。日に日に力を増す《化》と名だたる《化掃士》が今交戦する。  そんな中、主人公《日出刻》は自分の正体を知るべく《化掃士》の道を歩むのであった。 球体の謎と少年の正体が複雑に交錯する———

処理中です...