革命好きが源平時代に転生したら ~いい国作ろう平民幕府~

キムラ ナオト

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13.草薙の剣編

第86話(1185年11月) 新政権の裏側

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 南宋首都・臨安

「いやー、この都は凄いな! 異国とは実におもしろい! ん? どうした、スサノオ。やさぐれた顔をしおって」

 昼間に臨安見物を満喫した木曽義仲とは対照的に、貴一は不機嫌な顔で義仲の話を聞いていた。部屋の隅で、チュンチュンが笹をかじりながら紙に何かを書いている。

「時忠様がコキ使うから、すっかり夜型の生活だよ! 陽に当たらないわ、毎日血まみれになるわで、精神衛生上、ヒジョーに良くない!」

「ぶーたれるな。もう帰るんだろ? 火薬の原料を積んだ船と共に」

「だと良かったんだけどね。時忠様の政権内での地位が安定するまでは、臨安を離れるわけにはいかない。時忠様の派閥を濁流派と呼び、忌み嫌う者が多い。俺がコツコツと政敵を暗殺しないとね。これが新しい殺すリスト」

 貴一は名前が羅列した紙をヒラヒラさせて言う。

「清廉な人物もずいぶん手にかけたよ。だから、今の宮廷は金で転ぶような腐敗した連中が多い。ったく、ヘドが出るよ。まあ、お前が言うなって言われたら、そうなんだけどさ」

「人の国の心配をしている余裕はないぞ、スサノオ」

 義仲は義経の反乱失敗から京での出来事までを説明した。

蓮華れんげが安倍に鬼にされただって! それも俺や静御前以上の鬼に……」

 貴一が苦しそうな顔をした。

「草薙の剣は海に沈んでいないのか? おぬしが手掛かりを知っているのなら、戻って見つけてくれ。京での一件以来、熊若はずっと思い詰めている」

「――すまない。代わりにチュンチュンを戻す」

 義仲がチュンチュンのほうを見る。

「いや、パンダが戻ってきたって役に立たんだろ。また一回り大きくなってないかコイツ――痛っ!」

 ビュン! チュンチュンが食べていた笹を義仲に振り下ろした。

『貴一君、できましたわ。来て』

 チュンチュンが書いている場所に貴一が行ってのぞき込む。

「これが火縄銃Mk-Ⅱ?」

『そうですわ。他にも設計図がいくつかあるわ』

「助かる。出雲で開発を急いでくれ。それと――」

 貴一は紙に何かを書いて、チュンチュンに渡した。

『いいの?』

「ああ、みんなを頼む」

「おい、何2人?で話しているんだ? わしにも見せろよ」

 チュンチュンが隠す。

「お前はデリカシーがないからダメだってさ。それに、せっかく来たんだ。こっちで少しは働いてもらうよ」

「女は抱けるのか? ここまでは巴の眼も届くまい」

「義仲、そういうとこだぞ」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――
 出雲国・大神楽特設会場

 新年を迎えるための年越し大神楽(ライブ)の練習の声が聞こえる。
 客席で座って眺めている熊若に赤ん坊を抱いた女が声をかけた。

「1年でずいぶんメンバーは変わってしまったわ」

「――小夜ちゃん」

「――蓮華と会ったそうね。取引を持ち掛けられたって本当?」

 元神楽隊副長の小夜の問いかけに熊若は黙っていた。

「一人で悩まないで。わたしも協力する、主人(弁慶)にも話してみるわ。それに、この件はスサノオ様が原因なのよ。熊若君が苦しむ必要は――」

「法眼様を悪く言うのはよせ。法眼様も蓮華ちゃんのことを考えている」

「そうかしら。何も蓮華のためにしてくれはしない! 今だって大陸に!」

「黙ってくれ!」

 熊若が立ち上がって小夜の目の前に詰め寄ると、赤ん坊が泣きだした。

「調練の間に、蕨姫わらびひめを見に行っているみたいね。神楽隊のメンバーが教えてくれたわ。憎いわよね。あの女はスサノオ様の妻になるって公言している。蓮華は周りのことを思ってずっと気持ちを隠していたのに……。貴族の女って傲慢よね」

「違うんだ」

「いいえ、スサノオ様は平等だ、階級を無くす、なんてことを言っているけど、結局は貴族の娘がいいのよ」

「もういい。帰ってくれ!」

「母になっても、わたしは神楽隊の元副長。武者にも負けないわ。いつでも声をかけて」

 殺気を感じたのか赤ん坊の泣き声がさらに大きくなる。
 小夜は笑顔に戻ると、赤ん坊をあやしながら去っていった。
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