革命好きが源平時代に転生したら ~いい国作ろう平民幕府~

キムラ ナオト

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12.義経謀反編

第80話(1185年6月) 配流先

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 出雲大社・拝殿

 出雲国へ配流された平時忠を、貴一は幽閉せず自由にさせていた。
 彦島で安徳天皇と蕨姫に会ってきた時忠は、貴一と話をするために出雲大社を訪れていた。

「出雲へ流されるのは3度目になるが、ずいぶんと変わったな。雅ではないが、武骨で清潔な都だ」

「前に時忠様がいたときは、人口6万の国府でしたが、今は山陰山陽9カ国・65万人の首都ですからね――ところで、安徳天皇と会ってどうでした?」

「船の上にいるときと比べ、すっかり明るくなられた。法眼よ、よく救ってくれた」

「――ですが、この国には長くは置いておけませんよ。俺はともかく、他の者にとっては天皇の存在は大きすぎる。駆け引きに使うのなら、早めにお願いしますよ」

「そう考えていたのだが、もう朝廷にはわしの居場所がないらしい。今は九条兼実卿をはじめ、源氏に取り込まれた公卿たちが堂上を埋め尽くしておる。貴様の友・中原広元が裏で手を回してな。そんな状況で主上を都にお戻ししても、平家の血を引く天皇は、どこかに流されるだけだ。わしは主上を崇徳天皇のようにしたくはない」

 保元の乱で、当時天皇だった後白河に敗れた崇徳は、讃岐国に流され、
――我、日本国の大魔王となり、皇を取って民とし民を皇となさん――
 と、恨みながら死んでいったのは有名な話である。

「でも、このまま黙っているつもりはないのでしょう?」

「それは、貴様の持っている情報をすべて聞いてからだ。未来の歴史とやらもすべて話せ」

「そうこなくっちゃ。大神殿に幹部をすべて集めています。行きましょう」


 貴一は大神殿で時忠に包み隠すことなく情報を与えた。

 時忠はそれから流刑用の屋敷にこもり、1週間後に貴一を呼び出した。
 計画を記した紙を貴一に渡すと、杯に酒を注いだ。

「手は抜いてはおらぬぞ、法眼。このわしが酒を忘れるほど考えた。これ以上の策が欲しくば、黄泉の孔明や張良にでも会いに行くが良い」

 読み終わった後、貴一は時忠を見た。

「――賭けですね。間違えば戦乱が大きくなる」

 時忠は鼻で笑う。

「賭けだと? 笑わせるな。未来を知っていればイカサマができる。貴様はそうやって出雲を大きくしたはずだ。このペテン師め」

 二人は目を合わせた後、笑いあった。

「この計画通り進めば、後何年で統一できます?」

「7年。それだけあれば充分だ」

――――――――――――――――――――――――――――――
 3カ月後の1985年9月 鎌倉・大倉御所内

 源頼朝の本拠地である鎌倉・大倉御所は、平家討伐後、武家政治を行う場所に向け変貌していた。そして、政務と財政を司る政所の別当(長官)に、中原広元が任じられた。
 激務が続く毎日ではあったが、自分の手で国を造っているという感動が、広元に疲れを忘れさせていた。

「そなたが二人いれば、法皇も好き勝手にはできぬだろうが、それは贅沢か」

 政所に源頼朝が現れて言った。頼朝は広元の仕事場によく顔を出す。
 頼朝に広元に心酔していた。いや、広元が掲げる武家中心の政治構想の虜になったといったほうが正しい。

 頼朝が時忠の件を言っているのは広元にもわかった。

「時忠の流刑を決め、判官殿(義経)の動きを封じたことで、かえって隙が生まれました。まさか、時忠があきらめずに配流先を変えてくるとは――」

「広元を鎌倉に戻したわれにも咎はある。気に病むな。しかし、出雲と時忠。好ましい組み合わせではないの。時忠は九朗(義経)とも繋がっている。どうするつもりか?」

「右大臣(九条兼実)を通じて、時忠と安徳上皇を京へ戻すよう、出雲に勅使を送ります。その反応で出雲の真意がわかるでしょう。返さねば、時忠とともに、反逆の意思ありとして討ちます」

 頼朝は広元の言葉に満足した。

「出雲の次は奥州だ。攻める理由を探さないとな」

 そう話す二人の元に朝廷からの早馬が着た。広元が受け取って書状の中身を読む。
 
「なぜこのような真似を……。時忠の知恵か。それとも鬼一が考えたのか」

 そのまま広元が考え込んたので、頼朝が書状を広元から取った。

「平時忠と安徳上皇の配流先が再び決まったと記してあるな――『臨安りんあん』? 聞いたことがない場所だ。広元は知っているのか?」

 頼朝が地図を広げる。
 広元は地図から離れた場所を扇子で指した。

「この地図には載っておりませぬ――南宋の首都です」

――――――――――――――――――――――――――――――
 東シナ海洋上・大型蒸気船甲板

「爺、とうとう島も見えなくなった! 周りは海だけだ」

 チュンチュンに肩車された安徳天皇が周りを見渡して興奮していた。
 安徳天皇の大叔父にあたる時忠が諭すように言う。

言仁これひと様、これからは一人で何でもできるようにならねばなりませぬ。そう言ったはすです」

 貴一と時忠は安徳天皇のことをいみなで呼ぶことに決めた。
 チュンチュンは言仁を降ろすと、そそくさと去っていく。

「違うよ! チュンチュンが勝手に朕を持ち上げたんだよ」

「朕もいけませぬな。私とお変えください」

「あれもいかぬ、これもいかぬ。爺はそれしか言わないね。つまんない」

「ハッハッハ。我慢できれば、この爺が言仁様を世界一の男にして差し上げよう」

「爺、もういいよ。そういうの」

 時忠は言仁に応えず、まだ見ぬ大陸のほうを見て笑っていた。
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