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11.壇ノ浦の戦い・平家滅亡編
第79話(1185年5月) 時忠からの招待状
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京・霧の神社拝殿
「時忠卿に術をかけたのか?」
「どうしても草薙の剣の場所を知りたかったのです。でも聞き出すことはかないませんでした。術は効いているのに、そのようなことがあるのでしょうか」
静御前の報告を受けた安倍国道は顔に怒りを表した。
「勝手な真似を! 時忠卿は敗者の身であるとはいえ、元公卿(従三位以上および参議)だ。陰陽師は公卿に術をかけることは許されていない。そなたは陰陽師を朝廷の敵にするつもりか!」
「しかし、安倍様も法皇を――」
「黙れ!」
国道は静御前の頭を扇子で激しく打った。
静御前の額から血が流れる。
「お許しくださいませ」
平伏した静御前の腰帯に何かが刺さっているのに気付いた国道は、それを手に取って見た。
「ふふふ、静よ。時忠卿は恐ろしいお方だ。そなたの行動などお見通しらしい。この短冊を読んでみよ」
「――朝廷に知られたくなければ、弟子の非礼を詫びに来い――」
「わざと術にかけられることで、私を脅してきた。静よ、術よりも恐るべきものは、洞察力と先見力だ」
「行かれるおつもりですか? でしたら、お供を――」
「そなたでは役に立たぬ。義経の元へ戻るがいい――百号! ついて参れ」
霧の中から、体中に包帯を巻いた蓮華が現れた。赤の小袖を上から羽織るように来ている。
「蓮華さん! 安倍様、これは……」
国道は誇らしげに言う。
「鬼1号である鬼一法眼、42号のそなたを超える強化をした。身体は少し痛んでしまったが、祝うべき100号に相応しい強さになった」
「少しって……」
静御前は蓮華を見たが、包帯に隠された顔からは表情は読み取れなかった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
平時忠が幽閉されている仮屋敷。
催眠から覚めた時忠は、月を眺めながら、再び酒を飲んでいた。
何者かの気配を感じた時忠は、闇に向かって声をかけた。
「――安倍か。久しいな」
「時忠卿、ご無沙汰しております。弟子の非礼を詫びに参りました」
時忠はかたわらでイビキをあげている時実を見る。
「酒飲みには術のかかりが弱いようだ。貴様の術もまだまだだな」
「精進いたします」
酒をそそいだ杯を、国道に渡す。
「貴様もわしも賭ける相手を間違えた。そう思わぬか」
「はて、誰のことでしょうか?」
「義経では頼朝の対抗馬にはなれぬ。義経に待っているのは、狡兎死して走狗烹らる(うさぎが死ぬと、猟犬も不要になり煮て食われる)。わしは神器を、貴様は静御前を取られ損だ」
国道は黙っている。
「敵の存在が義経の命綱だ。出雲を滅ぼせば義経も滅ぶ。義経を駒として使いたければ、出雲は捨て置くしかない」
「ですが、出雲には前の天皇がおわします。見過ごすわけには――」
「わしを出雲に流すように法皇に申せ。出雲のやつらに安徳天皇を利用させたくはなかろう」
「草薙の剣も戻ってきますか?」
「くどい! わしは知らぬ」
「しかし、神器は時忠卿がずっと預かっていたはず」
「盗まれたのだ」
「誰に?」
「知らぬ。ふふふ。安倍よ、術をかけてもよいぞ。特別に許す」
「いえ。恐れ多いことです」
「そうか。では頼んだぞ。寵臣の言うことであれば、法皇も聞くだろう」
2人の話が終わり、国道が立ち上がったとき、時忠が鋭い視線を浴びせてきた。
「平家が京にいたときは、貴様が法皇の側近になるなど考えられなかった。世にも不思議なことではある。安倍よ、陰陽道ならその謎が解けるか?」
「お戯れを……」
「ははは! わしも酒が過ぎたようだ。許せ」
笑顔に戻った時忠とは対照的に、国道の顔は強張ったままだった。
――時忠卿を京に置いておくのは危険だ。
屋敷を後にした国道の背は汗でびっしょりと濡れていた。
「時忠卿に術をかけたのか?」
「どうしても草薙の剣の場所を知りたかったのです。でも聞き出すことはかないませんでした。術は効いているのに、そのようなことがあるのでしょうか」
静御前の報告を受けた安倍国道は顔に怒りを表した。
「勝手な真似を! 時忠卿は敗者の身であるとはいえ、元公卿(従三位以上および参議)だ。陰陽師は公卿に術をかけることは許されていない。そなたは陰陽師を朝廷の敵にするつもりか!」
「しかし、安倍様も法皇を――」
「黙れ!」
国道は静御前の頭を扇子で激しく打った。
静御前の額から血が流れる。
「お許しくださいませ」
平伏した静御前の腰帯に何かが刺さっているのに気付いた国道は、それを手に取って見た。
「ふふふ、静よ。時忠卿は恐ろしいお方だ。そなたの行動などお見通しらしい。この短冊を読んでみよ」
「――朝廷に知られたくなければ、弟子の非礼を詫びに来い――」
「わざと術にかけられることで、私を脅してきた。静よ、術よりも恐るべきものは、洞察力と先見力だ」
「行かれるおつもりですか? でしたら、お供を――」
「そなたでは役に立たぬ。義経の元へ戻るがいい――百号! ついて参れ」
霧の中から、体中に包帯を巻いた蓮華が現れた。赤の小袖を上から羽織るように来ている。
「蓮華さん! 安倍様、これは……」
国道は誇らしげに言う。
「鬼1号である鬼一法眼、42号のそなたを超える強化をした。身体は少し痛んでしまったが、祝うべき100号に相応しい強さになった」
「少しって……」
静御前は蓮華を見たが、包帯に隠された顔からは表情は読み取れなかった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
平時忠が幽閉されている仮屋敷。
催眠から覚めた時忠は、月を眺めながら、再び酒を飲んでいた。
何者かの気配を感じた時忠は、闇に向かって声をかけた。
「――安倍か。久しいな」
「時忠卿、ご無沙汰しております。弟子の非礼を詫びに参りました」
時忠はかたわらでイビキをあげている時実を見る。
「酒飲みには術のかかりが弱いようだ。貴様の術もまだまだだな」
「精進いたします」
酒をそそいだ杯を、国道に渡す。
「貴様もわしも賭ける相手を間違えた。そう思わぬか」
「はて、誰のことでしょうか?」
「義経では頼朝の対抗馬にはなれぬ。義経に待っているのは、狡兎死して走狗烹らる(うさぎが死ぬと、猟犬も不要になり煮て食われる)。わしは神器を、貴様は静御前を取られ損だ」
国道は黙っている。
「敵の存在が義経の命綱だ。出雲を滅ぼせば義経も滅ぶ。義経を駒として使いたければ、出雲は捨て置くしかない」
「ですが、出雲には前の天皇がおわします。見過ごすわけには――」
「わしを出雲に流すように法皇に申せ。出雲のやつらに安徳天皇を利用させたくはなかろう」
「草薙の剣も戻ってきますか?」
「くどい! わしは知らぬ」
「しかし、神器は時忠卿がずっと預かっていたはず」
「盗まれたのだ」
「誰に?」
「知らぬ。ふふふ。安倍よ、術をかけてもよいぞ。特別に許す」
「いえ。恐れ多いことです」
「そうか。では頼んだぞ。寵臣の言うことであれば、法皇も聞くだろう」
2人の話が終わり、国道が立ち上がったとき、時忠が鋭い視線を浴びせてきた。
「平家が京にいたときは、貴様が法皇の側近になるなど考えられなかった。世にも不思議なことではある。安倍よ、陰陽道ならその謎が解けるか?」
「お戯れを……」
「ははは! わしも酒が過ぎたようだ。許せ」
笑顔に戻った時忠とは対照的に、国道の顔は強張ったままだった。
――時忠卿を京に置いておくのは危険だ。
屋敷を後にした国道の背は汗でびっしょりと濡れていた。
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