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11.壇ノ浦の戦い・平家滅亡編
第74話(1185年4月) 壇ノ浦の戦い①・義経と景時
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源義経の水軍が屋島を出たとの報を受け取った貴一は、180艘の船(大型蒸気船40、大型船40、小早船100)を率いて、彦島に向かった。乗るのは4000の水夫と弁慶隊から預かった兵3000に鉄投隊1200。
出雲水軍は大型船が多いのが特徴だが、源氏の水軍830艘(兵1万5000)、平家の水軍500艘(兵1万)に比べると半分以下の戦力だった。
残りの弁慶隊と騎馬隊は海岸で敗残兵収容のために待機している。
決戦場所となる壇ノ浦(関門海峡)は、最深部が47m、本州側と九州側の幅は狭いところではたった600m(現在の関門橋がかかっている場所)しかない。いざ戦が始まれば両岸からは多くの船の戦う姿が見えるだろう。
貴一はすでに源平両軍に使者を送り、以下のように伝えていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
出雲大社は来たるべき大海戦において、源平に関わらず負傷者を助けるつもりである。命を救うことが、山陰・山陽道の寺社を統べる者、神と仏に仕える者の務めゆえ、お許し願いたい。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
無論、後で平家の兵を助けたことを、源氏に責められないための方便である。源氏も敗北したときには助けて欲しいに決まっているので、断ってこないのはわかっていた。
3日後の早朝。平家水軍が彦島から碇を上げて、壇ノ浦に進んでいくのを海岸の弁慶隊が見つけた。弁慶からの狼煙によって知った貴一は彦島の死角に停泊させていた船団をすぐに動かす。
備前の戦いと同じく、銀の鎧兜に身を包んだ貴一は、船団の一部にもぬけの殻となった彦島制圧を命じると、彦島を左回りになぞるように壇ノ浦に進んでいった。
甲板の上で貴一が集まった兵に話す。
「敵船に乗り込んで戦うのは俺と熊若だけだ。他の者は船を守るだけでいい。俺たちは海戦に慣れてないからね。敵が船に上ってこようとしたら、小麦と熱湯を混ぜたローションをぶっかけてやれ。今晩、使おうと思ってケチるんじゃないぞ!」
兵がどっと笑う。
貴一を補佐している千人隊長の円光が心配そうに聞いてきた。
「本当に信じて良いのでしょうか? 相手はあの平時忠です」
「裏切られたら逃げるだけさ。結果は間もなく熊若が知らせてくれる。今は待とう」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(源氏水軍・河野通信視点)
源氏軍の総大将船の甲板。
河野通信は源義経の戦術を聞き、各船に具体的な指示を出していた。伊予水軍とともに源義経に味方した河野は、水軍経験の少ない義経のサポート役として実際の指揮を取っている。
不機嫌そうな顔の義経のかたわらには、美しい若武者が護衛でついていた。華奢に見えるが武術の腕は凄いらしい。
平家水軍の姿が遠くに見えると、義経は全軍に速度を落とすよう命じた。
しかし、船団の一部だけ減速せず先行し始めた。その船団の将が誰なのかがわかると、義経は激しく爪を噛んだ。
護衛の若武者が義経に言う。
「梶原がまた殿を愚弄して! 戦にまぎれて殺しましょうか?」
河野はギョッとして、若武者を見た。
――おいおい、鎌倉殿が寵愛する御家人を殺すだと? 二人の仲の悪さは犬猿以上だな……。
河野は昨晩の作戦会議を思い出す。
先陣を決める際、源義経と梶原景時は激しく衝突した。先陣を申し出た景時に対し、義経は自らが先陣になると言い却下したのだ。景時は「大将が先陣などとは笑止千万。将軍の器ではない」と罵倒し、斬り合い寸前までいったのを河野は目の前で見ていた。
伏線はすでにあった。景時が屋島の戦いのために必死で船を集めていたのにも関わらず、義経は景時を待たずに屋島を攻略した。
勝負が決した後に船団を連れてやってきた景時は、周りの武将から、「六日の菖蒲」(菖蒲は五月五日の端午の節句に用いるもので、五月六日では間に合わない)とからかわれた。
河野自身も伊予水軍を引き連れ戦うつもりが、義経が四国への渡海にだけ船を使い、陸戦で決着をつけたので、置いてけぼりにされた気分だった。景時が「ここで働きを見せねば」と、あせる気持ちもわかる。
――梶原殿の言う通り、総大将が先陣をする必要はない。よほど梶原殿に手柄を立てさせたくないのか? それとも他に理由があるのか……。
平家が鶴翼の陣を敷いているのが見えた。中央には特別大きな船が見える。敵の総大将・平宗盛と安徳天皇が乗っているに違いない。通信にはそう見えた。
梶原景時の船団がさらに船足を早める。
「判官殿、梶原勢だけ突出して危険だ。全軍の船足を早め、梶原勢を先端にした魚鱗の陣を組んで良いか?」
義経が吐き捨てるように言う。
「――梶原が向かうあの大船には平宗盛はいない。あの船は囮だ」
「!? そうなのか! じゃあどこに?」
「まだわからぬ。その答えを待つために減速したのだ。それを梶原の馬鹿め!」
――なるほど。先陣に拘ったのも罠を見破るためということか。しかし……。
「梶原勢が負ければ敵を勢いづかせる。判官殿、悪いが答えがわかるまでは、このまま戦うしかない!」
河野は全船の船足を早め、魚鱗陣形で敵と戦うよう指示を出した。
源平両軍が激突する。平家は幅狭い水域で戦うことによって船数の差を補う作戦を取っていた。敵大将船に先陣として攻撃を仕掛けた景時だったが、すぐに反包囲され苦戦していた。特に大将船からの攻撃が激しい。
――判官殿の言う通り敵の罠か?
河野は振り向いて問おうとしたが、義経は無表情な顔で半眼になり戦況を見つめていた。
「判官殿、判官殿! 気は確かか!」
「河野様、お静かに!」
若武者が河野の言葉を遮る。
義経の目が開き、顔に表情が戻ると、ため息をついた。
「義経様、見えましたか?」
「見えるが、騎馬の速さが無ければ、急襲はできぬ。歯がゆいことだ」
――何を言っているんだ?
そのとき、海から大男がザバーッという音ともに船に上がってきた。
「待て! 敵ではない!」
驚いて太刀を構える兵を義経が止める。
「待っていたぞ! 伊勢義盛!」
出雲水軍は大型船が多いのが特徴だが、源氏の水軍830艘(兵1万5000)、平家の水軍500艘(兵1万)に比べると半分以下の戦力だった。
残りの弁慶隊と騎馬隊は海岸で敗残兵収容のために待機している。
決戦場所となる壇ノ浦(関門海峡)は、最深部が47m、本州側と九州側の幅は狭いところではたった600m(現在の関門橋がかかっている場所)しかない。いざ戦が始まれば両岸からは多くの船の戦う姿が見えるだろう。
貴一はすでに源平両軍に使者を送り、以下のように伝えていた。
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出雲大社は来たるべき大海戦において、源平に関わらず負傷者を助けるつもりである。命を救うことが、山陰・山陽道の寺社を統べる者、神と仏に仕える者の務めゆえ、お許し願いたい。
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無論、後で平家の兵を助けたことを、源氏に責められないための方便である。源氏も敗北したときには助けて欲しいに決まっているので、断ってこないのはわかっていた。
3日後の早朝。平家水軍が彦島から碇を上げて、壇ノ浦に進んでいくのを海岸の弁慶隊が見つけた。弁慶からの狼煙によって知った貴一は彦島の死角に停泊させていた船団をすぐに動かす。
備前の戦いと同じく、銀の鎧兜に身を包んだ貴一は、船団の一部にもぬけの殻となった彦島制圧を命じると、彦島を左回りになぞるように壇ノ浦に進んでいった。
甲板の上で貴一が集まった兵に話す。
「敵船に乗り込んで戦うのは俺と熊若だけだ。他の者は船を守るだけでいい。俺たちは海戦に慣れてないからね。敵が船に上ってこようとしたら、小麦と熱湯を混ぜたローションをぶっかけてやれ。今晩、使おうと思ってケチるんじゃないぞ!」
兵がどっと笑う。
貴一を補佐している千人隊長の円光が心配そうに聞いてきた。
「本当に信じて良いのでしょうか? 相手はあの平時忠です」
「裏切られたら逃げるだけさ。結果は間もなく熊若が知らせてくれる。今は待とう」
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(源氏水軍・河野通信視点)
源氏軍の総大将船の甲板。
河野通信は源義経の戦術を聞き、各船に具体的な指示を出していた。伊予水軍とともに源義経に味方した河野は、水軍経験の少ない義経のサポート役として実際の指揮を取っている。
不機嫌そうな顔の義経のかたわらには、美しい若武者が護衛でついていた。華奢に見えるが武術の腕は凄いらしい。
平家水軍の姿が遠くに見えると、義経は全軍に速度を落とすよう命じた。
しかし、船団の一部だけ減速せず先行し始めた。その船団の将が誰なのかがわかると、義経は激しく爪を噛んだ。
護衛の若武者が義経に言う。
「梶原がまた殿を愚弄して! 戦にまぎれて殺しましょうか?」
河野はギョッとして、若武者を見た。
――おいおい、鎌倉殿が寵愛する御家人を殺すだと? 二人の仲の悪さは犬猿以上だな……。
河野は昨晩の作戦会議を思い出す。
先陣を決める際、源義経と梶原景時は激しく衝突した。先陣を申し出た景時に対し、義経は自らが先陣になると言い却下したのだ。景時は「大将が先陣などとは笑止千万。将軍の器ではない」と罵倒し、斬り合い寸前までいったのを河野は目の前で見ていた。
伏線はすでにあった。景時が屋島の戦いのために必死で船を集めていたのにも関わらず、義経は景時を待たずに屋島を攻略した。
勝負が決した後に船団を連れてやってきた景時は、周りの武将から、「六日の菖蒲」(菖蒲は五月五日の端午の節句に用いるもので、五月六日では間に合わない)とからかわれた。
河野自身も伊予水軍を引き連れ戦うつもりが、義経が四国への渡海にだけ船を使い、陸戦で決着をつけたので、置いてけぼりにされた気分だった。景時が「ここで働きを見せねば」と、あせる気持ちもわかる。
――梶原殿の言う通り、総大将が先陣をする必要はない。よほど梶原殿に手柄を立てさせたくないのか? それとも他に理由があるのか……。
平家が鶴翼の陣を敷いているのが見えた。中央には特別大きな船が見える。敵の総大将・平宗盛と安徳天皇が乗っているに違いない。通信にはそう見えた。
梶原景時の船団がさらに船足を早める。
「判官殿、梶原勢だけ突出して危険だ。全軍の船足を早め、梶原勢を先端にした魚鱗の陣を組んで良いか?」
義経が吐き捨てるように言う。
「――梶原が向かうあの大船には平宗盛はいない。あの船は囮だ」
「!? そうなのか! じゃあどこに?」
「まだわからぬ。その答えを待つために減速したのだ。それを梶原の馬鹿め!」
――なるほど。先陣に拘ったのも罠を見破るためということか。しかし……。
「梶原勢が負ければ敵を勢いづかせる。判官殿、悪いが答えがわかるまでは、このまま戦うしかない!」
河野は全船の船足を早め、魚鱗陣形で敵と戦うよう指示を出した。
源平両軍が激突する。平家は幅狭い水域で戦うことによって船数の差を補う作戦を取っていた。敵大将船に先陣として攻撃を仕掛けた景時だったが、すぐに反包囲され苦戦していた。特に大将船からの攻撃が激しい。
――判官殿の言う通り敵の罠か?
河野は振り向いて問おうとしたが、義経は無表情な顔で半眼になり戦況を見つめていた。
「判官殿、判官殿! 気は確かか!」
「河野様、お静かに!」
若武者が河野の言葉を遮る。
義経の目が開き、顔に表情が戻ると、ため息をついた。
「義経様、見えましたか?」
「見えるが、騎馬の速さが無ければ、急襲はできぬ。歯がゆいことだ」
――何を言っているんだ?
そのとき、海から大男がザバーッという音ともに船に上がってきた。
「待て! 敵ではない!」
驚いて太刀を構える兵を義経が止める。
「待っていたぞ! 伊勢義盛!」
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