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8.源氏の将星編
第58話(1184年12月) 備前の戦い①・源氏の将
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備中国(岡山県西部)府庁舎
「自慢げに米で時を稼いだ、とか言っておったが、ずいぶん短かったのう」
山陽道攻略のための源氏軍が京に集まっていると早馬があり、緊急作戦会議が行われた。
その会議での、弁慶の第一声である。
「ふふふ。のらりくらり駆け引きしようと思ってたんだけどねえ。噂によると、出雲大社は従っている振りをしているだけで絶対に源氏の下にはつかない、と強硬に主張した人間が鎌倉にいたらしい。いやー、まいった」
「なんだ? うれしそうに話すではないか」
「鎌倉で俺が独自の道を行くことを確信しているのは、中原広元しかいない。その広元の意見が通るってことは、鎌倉であいつの地位が高いことの証明だ。親友の出世はうれしい。例え、敵だとしてもね」
「よろこんでいる場合ではない。どうするのだ」
「広元の意見が正しいことを証明してやるだけさ。勝ちまで譲る気はないけどね」
―――――――――――――――――――――――――――――――――
――2週間後。備前国(岡山県東部)。
「さすがは中原殿だ。鎌倉の千里眼の異名は伊達ではない。油断していたら、備前国まで奪われているところだった」
備前国に侵攻してきた出雲大社軍を前に、梶原景時はうなった。
隣にいる土肥実平が言う。
「あれが陣形というものか。奇麗なものだ。坂東武者も見習いたいものだな」
実質上の将軍である土肥実平は、流人時代から頼朝を支えて来た一人である。年は40歳。坂東武者に珍しく、手柄争いにこだわらないタイプで軍事も政務もそつなくこなす。頼朝が安心して軍を任せられる数少ない将だ。周りの御家人からも「土肥実平が後ろにいるなら、振り返らずに戦える」と信頼されている。
「ジラすな! ジラすな! 戦をせぬなら帰って寝るぞ!」
左翼の大将である和田義盛が陣を離れてやってきた。年は37歳。実平とは真逆で、常日頃から「手柄のためなら、死んでもいい」と豪語している男だ。武勇を誇っているが、どこか抜けているところがあり、それが愛嬌になっている。頼朝に頼み込んで侍所別当(御家人を束ねる役所の長官)の役目にもついており、その職権を使って、自分の軍団に武勇自慢の御家人を組み込んでいた。それゆえに源氏の最強の攻撃力を持つ。
「陣を離れていいのか? 手柄が遠のくぞ」
「え、もしかして今か! ちょっと待て! 攻撃の鐘を鳴らすなよ!」
「ははは、佐々木を見てみろ。隙を見逃さぬようにじっと敵陣を見ている」
実平は右翼の佐々木軍を見る。
「はん! 隙を見逃さぬだけなら良いがのう。やつは隙を隠す。セコイ野郎だ」
和田は嫌悪の表情を隠さない。
右翼の大将、佐々木盛綱は実平と同様に、頼朝の流人時代から付き従っていた。33歳。出身が近江国なので、坂東武者以外をまとめた軍団を任せられている。手柄を独り占めにする傾向が強く、ある戦で地元の漁師に聞いた浅瀬を利用して、平家を奇襲し手柄を上げたのだが、他の御家人に知られぬよう、教えてくれた漁師を殺したという噂がある。
「敵陣の背後に立ち昇る煙が気になってな。一ノ谷ではあれにやられたのですな。範頼様」
実平は、それまで会話の外に置かれていた、範頼に声をかけた。
「そ、そうだ! 六甲山では煙の向こうに崖があって――」
話を遮るように実平のもとに伝令が来た。地元の民が言うには煙の向こうに川や崖は無いという。
「だとすれば、背後に回られるのを嫌っての煙か……。和田よ。左翼に戻って、敵の右翼を突き崩せ。手柄を欲しがって、敵本陣に向かうなよ。ちゃあんとおぬしの手柄は取っておいてやる――ん? ああ、わかっている。佐々木も同じように命じる」
「絶対だな! 絶対だぞ!」
和田は急いで左翼に戻っていった。
その背を見ながら実平は言った。
「戦闘開始の鐘を鳴らせ!」
「おいおい、まだ、戻っている途中だぞ。後で和田が怒るのではないか」
景時が心配して言うと、実平はにやりと笑った。
「和田は多少、怒らせたほうが、いい働きをする」
源氏軍は左翼8000、中央1万4000、右翼8000の全軍3万。
出雲大社軍は左翼5000、中央1万、右翼5000の全軍2万。
源氏軍の両翼が動き出すのをきっかけに戦が始まった――。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(出雲大社軍視点)
「なんだぁ、その歩く財宝みたいな鎧は」
弁慶は貴一が来ている銀造りの鎧を見てあきれた。
「地味な囮など囮とは言えないだろう? 俺は動きまわるから、後は頼むよ」
この戦では貴一が騎馬隊1000と鉄投隊1000を扱う。
両翼から敵が迫ってきた。出雲大社軍の配置は中央1万が弁慶隊で両翼は神楽隊が民兵を指揮する形だ。左翼5000が神楽隊隊長の蓮華、右翼5000が神楽隊副長の小夜が指揮を採る。
ハリネズミのように槍を立てて構える神楽隊に、源氏軍が襲い掛かった――。
「自慢げに米で時を稼いだ、とか言っておったが、ずいぶん短かったのう」
山陽道攻略のための源氏軍が京に集まっていると早馬があり、緊急作戦会議が行われた。
その会議での、弁慶の第一声である。
「ふふふ。のらりくらり駆け引きしようと思ってたんだけどねえ。噂によると、出雲大社は従っている振りをしているだけで絶対に源氏の下にはつかない、と強硬に主張した人間が鎌倉にいたらしい。いやー、まいった」
「なんだ? うれしそうに話すではないか」
「鎌倉で俺が独自の道を行くことを確信しているのは、中原広元しかいない。その広元の意見が通るってことは、鎌倉であいつの地位が高いことの証明だ。親友の出世はうれしい。例え、敵だとしてもね」
「よろこんでいる場合ではない。どうするのだ」
「広元の意見が正しいことを証明してやるだけさ。勝ちまで譲る気はないけどね」
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――2週間後。備前国(岡山県東部)。
「さすがは中原殿だ。鎌倉の千里眼の異名は伊達ではない。油断していたら、備前国まで奪われているところだった」
備前国に侵攻してきた出雲大社軍を前に、梶原景時はうなった。
隣にいる土肥実平が言う。
「あれが陣形というものか。奇麗なものだ。坂東武者も見習いたいものだな」
実質上の将軍である土肥実平は、流人時代から頼朝を支えて来た一人である。年は40歳。坂東武者に珍しく、手柄争いにこだわらないタイプで軍事も政務もそつなくこなす。頼朝が安心して軍を任せられる数少ない将だ。周りの御家人からも「土肥実平が後ろにいるなら、振り返らずに戦える」と信頼されている。
「ジラすな! ジラすな! 戦をせぬなら帰って寝るぞ!」
左翼の大将である和田義盛が陣を離れてやってきた。年は37歳。実平とは真逆で、常日頃から「手柄のためなら、死んでもいい」と豪語している男だ。武勇を誇っているが、どこか抜けているところがあり、それが愛嬌になっている。頼朝に頼み込んで侍所別当(御家人を束ねる役所の長官)の役目にもついており、その職権を使って、自分の軍団に武勇自慢の御家人を組み込んでいた。それゆえに源氏の最強の攻撃力を持つ。
「陣を離れていいのか? 手柄が遠のくぞ」
「え、もしかして今か! ちょっと待て! 攻撃の鐘を鳴らすなよ!」
「ははは、佐々木を見てみろ。隙を見逃さぬようにじっと敵陣を見ている」
実平は右翼の佐々木軍を見る。
「はん! 隙を見逃さぬだけなら良いがのう。やつは隙を隠す。セコイ野郎だ」
和田は嫌悪の表情を隠さない。
右翼の大将、佐々木盛綱は実平と同様に、頼朝の流人時代から付き従っていた。33歳。出身が近江国なので、坂東武者以外をまとめた軍団を任せられている。手柄を独り占めにする傾向が強く、ある戦で地元の漁師に聞いた浅瀬を利用して、平家を奇襲し手柄を上げたのだが、他の御家人に知られぬよう、教えてくれた漁師を殺したという噂がある。
「敵陣の背後に立ち昇る煙が気になってな。一ノ谷ではあれにやられたのですな。範頼様」
実平は、それまで会話の外に置かれていた、範頼に声をかけた。
「そ、そうだ! 六甲山では煙の向こうに崖があって――」
話を遮るように実平のもとに伝令が来た。地元の民が言うには煙の向こうに川や崖は無いという。
「だとすれば、背後に回られるのを嫌っての煙か……。和田よ。左翼に戻って、敵の右翼を突き崩せ。手柄を欲しがって、敵本陣に向かうなよ。ちゃあんとおぬしの手柄は取っておいてやる――ん? ああ、わかっている。佐々木も同じように命じる」
「絶対だな! 絶対だぞ!」
和田は急いで左翼に戻っていった。
その背を見ながら実平は言った。
「戦闘開始の鐘を鳴らせ!」
「おいおい、まだ、戻っている途中だぞ。後で和田が怒るのではないか」
景時が心配して言うと、実平はにやりと笑った。
「和田は多少、怒らせたほうが、いい働きをする」
源氏軍は左翼8000、中央1万4000、右翼8000の全軍3万。
出雲大社軍は左翼5000、中央1万、右翼5000の全軍2万。
源氏軍の両翼が動き出すのをきっかけに戦が始まった――。
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(出雲大社軍視点)
「なんだぁ、その歩く財宝みたいな鎧は」
弁慶は貴一が来ている銀造りの鎧を見てあきれた。
「地味な囮など囮とは言えないだろう? 俺は動きまわるから、後は頼むよ」
この戦では貴一が騎馬隊1000と鉄投隊1000を扱う。
両翼から敵が迫ってきた。出雲大社軍の配置は中央1万が弁慶隊で両翼は神楽隊が民兵を指揮する形だ。左翼5000が神楽隊隊長の蓮華、右翼5000が神楽隊副長の小夜が指揮を採る。
ハリネズミのように槍を立てて構える神楽隊に、源氏軍が襲い掛かった――。
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