革命好きが源平時代に転生したら ~いい国作ろう平民幕府~

キムラ ナオト

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6.木曽義仲編

第44話(1183年9月) 熊若の策

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(弁慶視点)

「一人でも多くの敵兵が減ってくれると良いのだが……」

 義仲軍の野営場所に火矢を打ち込んでいる弁慶隊を見ながら弁慶は言った。

「欲を出すと危険です。敵は狼と呼ばれている凶暴な軍。少しでも敵が動く気配を感じたら退き鐘を鳴らします」

 副官の水月が弁慶に念を押す。3つの道から各200の兵が火矢を放っていた。鎧は騎乗の隊長格しか着けさせていない。身軽にして早く逃げるためと、闇の中で、敵味方の区別をわかりやすくするためだ。


「敵が落ち着きをみせてきました。鐘を鳴らせ!」

 水月の報告を受け、弁慶が弁慶隊に命ずる。

「みな弓を惜しむな! 捨てて砦に戻れ! 静かに! 一目散に逃げるのだ!」

 弁慶隊が逃げ始めると、敵は声を上げながら追ってきた――。

――――――――――――――――――――――――――――――――――
(木曽義仲視点)

 義仲軍が弁慶隊の追撃を始めてから1時間後。

――もう少し騎馬隊を手元に置けば良かったか。

 山砦まで半分の距離、横道を10本過ぎたあたりで、木曽義仲は後悔していた。
 敵の後ろ姿は見えるのだが、距離がまったく縮まらない。数騎、敵に向けて放ってはみたが、敵の殿が強く、簡単に倒されてしまった。

――だが、兼平と巴の騎馬隊の速さなら、充分先回りできる。そうなれば袋の鼠だ。

 ほくそ笑む義仲だったが、軍が横道の18本目を過ぎると、首をかしげていた。

――おかしい、なぜ兼平は敵の裏に回っておらぬ? もう歩兵が砦に着いてしまうぞ。

 義仲軍の後方が騒がしくなった。騎馬の側近に声をかける。

「敵の伏兵か? すぐに調べさせよ。だが、軍の前進は止めてはならぬ。もうすぐ水田地帯を抜ける」

 最後になる20本目の横道を過ぎたところで、側近が戻ってきた。

「後方にいたのは敵ではなく、左右の道を進んでいた味方でした。道が大きな鉄の塊で塞がれていたため、こちらの道に合流したようです」

「大きな鉄の塊? 村には置いてはあれか。それがなぜ道にある?」

 側近が前を見て叫ぶ。

「将軍! 出口の先に敵が!」

 水田を抜ける道の出口には敵軍が陣を敷いて待ち構えていた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――
(今井兼平視点)

「また鉄の塊だ。前にも右にも進めぬ」

 今井兼平は、騎馬隊に左に進むよう指示を出す。これで何度目だろう。兼平は左へ左へと軍をそらされていた。馬を走らせながら兼平は考える。

――敵の策だとしたら、巴も右にそらされていることになる。一度戻って義仲様の後を追うか? だが、水田を抜けてしまえば山のすそ野だ。鉄の塊で道を塞ぐことはできぬ。どちらが早い?

―――――――――――――――――――――――――――――――――
(弁慶視点)

 水田を抜ける出口で弁慶が叫ぶ。

「敵兵を狙うヒマがあるのなら、1本でも多く矢を放て! 道に敵が密集している。射れば必ず当たる! 前衛! 敵を道の出口から展開させるなよ!」

 弁慶隊が道から出てくる義仲軍を迎え撃つ。義仲軍6000に対し、弁慶軍は3500だが、1つの道から出てくる義仲軍はせいぜい数百程度なので、弁慶隊としては数で圧倒している。さらに言えば、義仲軍は左右の道から兵が流れ込んで大渋滞を起こし、混乱の度を深めていた。
 道から押し出されたり、水田に入って攻めてくる兵に対しては、鉄投げ隊が狙い打つことになっている。

――この分だと1000ぐらいは討ち取れそうだ。後は熊若次第だな。

―――――――――――――――――――――――――――――――――
(木曽義仲視点)

 味方が次々と矢に倒れていくのを見ながら、義仲は唇を噛んでいた。
 先鋒部隊に待ち構えている敵を突き破れと命じているが、倒れた味方まで障害になって、出口の外に出て行くことが困難だった。

――このぶんでは突破もままならない。一度、退いて建て直したいところだが……。

 一本道に兵が密集している状態では進むも退くも容易ではなかった。兵の多さが逆に邪魔になっている。

――どうせ、このまま兵を失うのなら!

 義仲は大声で叫んだ。

「我が狼に命ずる! 前に進めなければ、田に入れ! 鉄の塊が邪魔なら乗り越えろ!」

――そうだ。道に拘る必要などない。犠牲は出るが、敵の守りは分散される。そうなれば突破口も開くはず。

 密集していた義仲軍が再び3本の道に分かれていった。
 だが、後方が再び騒がしくなる。

「なんだ。兼平か巴が戻ってきたのか?」

 だが、遠くから聞こえてくる叫び声は、義仲を驚愕させた。

「伏兵がいた!」
「敵襲!」
「敵の騎馬隊だ!」

――敵にも騎馬隊がいたのか? いたとしても隠れる場所などなかったはずだ!

 軍と同じく、義仲の頭の中も混乱に陥った。

―――――――――――――――――――――――――――――――――
(熊若視点)

「敵は田に落とすだけでいい! 殺そうとして、速さを殺すな!」 

 義仲軍の後方から襲い掛かった熊若騎馬隊の勢いを避けるように、義仲軍の兵たちは左右の水田に飛び込んでいた。

――そうだ。騎馬は水田には入らない。混乱が収まるまで安全な場所に逃げるといい。

「道は開いた! 援軍が戻るまでに義仲の首を取る!」
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