革命好きが源平時代に転生したら ~いい国作ろう平民幕府~

キムラ ナオト

文字の大きさ
上 下
46 / 136
5.源氏旗揚げ編

第40話(1181年12月) 新しい恋……はじまらない

しおりを挟む
 出雲大社・拝殿

 厳しい顔をした貴一の正面には、安倍国道が陰陽師の装束で座っていた。側には鴨長明だけがいる。

「寒いな。なぜ扉を開けたままにしておる。馬鹿は風邪をひかないだろうが、私の体には堪える」

「チッ、お前に煙の術を使われると面倒だからに決まっているだろ」

「ふっ、怪しげな煙で己を見失ったのは、そなたであろうが。因幡の国府を見てきたぞ。陰陽術に素人が手を出すなど笑止千万。そなたは私が操ってこそ、正しき鬼になれる」

「相変わらず嫌な目で人を見る。人を己の道具としか見ない、下種野郎の目だ!」

「名人は道具を選ぶ。だから私に選ばれたことを誇るがいい。ほとんどの人間は使い物にならなかった。私の術に耐えられる肉体を持つものは、そなたと静御前と――」

「もういい! 話していると虫唾が走る。手短に用件を言え」

「では、時忠様のお言葉を伝よう。まず一つ目。『貴様なら飢民救済できると信じていた。褒美として、長門・石見・出雲・伯耆・因幡の五カ国の国司に任命する。滞っている年貢を納め、朝廷への忠勤を励め』だ」

「よくもまあ抜け抜けと……。五カ国は俺の力で取ったものだ。任命などしてもらわなくて結構」

「二つ目は『我が娘との縁談を申し込む。貴様も平家一門に迎えよう』だ。わらび姫をお連れしておる。異例のことだが、そなたが承諾すれば、この場で縁談成立だ。祝いとして山陽道から国一つ渡すとまで時忠様は言っておられる」

 貴一と長明は顔を見合わせた。

「露骨に懐柔してくるね。わかりやすくていいけどさあ」

――時忠様のことだ。国一つ与える代わりに、出雲大社五カ国が平家の……、いや、自分の傘下に入れば一石二鳥ぐらいに考えていそうだ。

 時忠は平清盛夫人の弟で、一門の中では清盛と血のつながりがない非主流派だ。強引な政治手法は一門の反感を買っていると聞く。だが、出雲大社が時忠派になれば、平家内での勢力図が変わる。

「国道、時忠様は新しい平家の棟梁、宗盛に不満があるのか?」

「知らぬ。そなたが気にする必要もない。さあ、もう伝えることはすべて伝えた。早く縁談を承諾しろ」


「――断るよ。蕨ちゃんをお嫁さんにできないは残念だけどね」

 国道は目を見開いた。

「血迷ったか! 労せずして国一つ手に入るのだぞ!」

「あはは、お前でも興奮することがあるんだな」

「……まさか源氏と手を組んで、京を挟み討ちにするつもりなのではあるまいな」

「当然、そう思うよね。でも、心配しなくていい。時忠様に言ってくれ。これ以上、出雲大社軍は東に進むことはない。だから、源氏との戦いに集中していいって」

――まあ、それでも平家は負けるんだけどね。

 苦々しい顔をしたまま国道は立ち上がった。袖を払いながら貴一に言った。

「伝えよう。来る途中、鉄の塊がたくさん動いていた。あの術がそなたをここまで驕り高ぶらせているのであろう。だが図に乗るな。はじめは驚いたが、詳しく知れば炎と水の陰陽術の応用にすぎぬ。私にも理解できた」

「陰陽術で無理やり聞きだしたのか!」

「ほう。太刀に手をかけてどうするつもりだ?」

「スサノオ様! 相手は縁談の使者です。斬ってはなりませぬ」

 長明が貴一の前に出て止めたが、殺気が貴一の身体からあふれ出す。

「危険な男だ。私もタダで術をもらうつもりはない。礼にこれをくれてやる」

 国道は懐から手のひらに収まるサイズの小さな壺を取り出すと、貴一に向かって放り投げた。

「これは何だ?」

 貴一が手に取る。しかし、目を向けた先に国道の姿は無かった――。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 貴一と長明は安倍国道一行が去っていく列を大神殿から眺めていた。

――蕨ちゃん、さびしそうな顔をしていたな。もしかして俺の嫁になりたかったりして。いや、そんなワケないか。

 「縁談を受けても良かったのでは? 人質も手に入り、内政にも集中できます。スサノオ様は平家が負けると言っていますが、今は少しずつ盛り返していると聞きます」

「雑魚を相手に勝っているだけさ。必ず平家は負ける。今、平家方についてみろ。今度は飢民じゃなくて、源氏をこっちにぶつけてくるよ。例え自分の娘が出雲大社にいようともね」

「最終的には源氏と戦うことになりますか?」

「そうだ。源氏は手強いよ。あいつがいるからね」

 そう言った貴一の頭には親友・中原広元の姿が浮かんでいた――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...