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5.源氏旗揚げ編
第39話(1181年12月) 見てろよ時忠!
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因幡国(鳥取県東部)の境港が一望できる崖に、貴一・絲原鉄心・チュンチュンの3人がいた。
「南宋への航路がこんなに順調に行くとはな。おぬしがチュンチュンには船を導く不思議な力があると言ったときは、わしを騙しているかと疑っていたが――」
30艘の大型ジャンク船(25m×8m)を見ながら鉄心が言った。
貴一とチュンチュンが目を合わせて笑う。
羅針盤(コンパス)を使っているのは二人だけの秘密だ。
南宋の船乗りたちも、初めはまったくチュンチュンの言うことを信じなかったが、実際に船が目的地にまっすぐ着くのを経験すると、チュンチュンを神のように拝むようになった。いまでは航海の安全を祈願して、どの船も船首にパンダの像をつけている。
「半年前におぬしが港にやってきて、カグヅチストーブをすべて降ろせ、銀で米を買いに行くと言った時には、殺してやろうかと思ったが、船ごと米を買ってくるとなれば話は別だ。この船がすべてわしの船だと思うと笑いが止まらん」
「鉄心のじゃない。出雲大社の船だ」
貴一もはじめは米だけを輸入するつもりで南宋の商人と交渉していた。しかし、取引額が小規模すぎて全く相手にしてもらえなかった。銀を多く支払うといっても詐欺だと疑われた。そこで船を買うからサービスで米をつけてくれというと、何人かの商人が乗ってきた。その後は蒸気船を見せて驚かせ、チュンチュンとメイド熊たちのモフモフ接待で商談を成立させたのだ。
交易の度に大船が増え続けるので、何割かの船は出雲国の港に回して蒸気船に改造させている。改造された船はカグヅチストーブを積んで奥州に向かい、改造待ちの船は漁船として使うことにした。船員は元飢民から頑健な男を弁慶に選ばせている。ゆくゆくは水軍の兵にするつもりだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
出雲大社・大神殿
出雲大社の幹部が集まると、鴨長明がいつも通り、資料を配り説明をはじめる。チュンチュンだけは南宋との貿易船に常駐しているので不参加だ。
(出雲国・石見国・長門国・伯耆国・因幡国を合算 1179年→1181年)
石高 47万石 → 53万石
人口 19万人 → 36万人
牛馬 3000匹 → 1000匹
鉄 1000トン → 1200トン
弁慶隊 4600人 → 5000人
熊若騎馬隊 390人 → 500人
民兵 6000人 → 7000人
「今年も干ばつで伯耆国・因幡国の収穫は壊滅的です。ただし、開拓・灌漑工事に民を集中させておりますので、翌年には伯耆国からの収穫は見込めるでしょう。
牛馬は騎馬隊・早馬用の馬を残し、ほとんど流民の食用として潰しました。ヤギも2000頭近く殺しております。まあ、こちらのほうはほうっておいても増えそうですが。牛馬は考えないといけませんな」
「馬は奥州との取引で増やしていくしかないね。兵も飢民の対応で増やすところじゃなかったからね」
「問題は因幡国に偏った10万人以上の民です。開拓・灌漑作業をさせたとしても、4万人程度で、それ以上は却って作業の邪魔になります」
「だったら、余った民を鉄道建設に回そう。飢民受け入れで、建設中止していた分を取り戻せる。そして、そこで出た土砂で湖を埋めるってのはどう? 一石二鳥じゃん」
島根県の上部にある宍道湖は日本で七番目に大きな湖で、東西約17km、南北約6km、周囲長47kmの広さになる。昭和に干拓計画が立てられたが、減反政策のあおりで中止になった。
「上手く行けば頭打ちになった出雲国の石高も上がるかもしれません……。スサノオ様にお願いがあるのですが、1000人程度、私に預けてもらえませんか。少し興味深いことが起こりました」
長明の話によると、伯耆国と難民キャンプにしている因幡国の国境に肉や魚、昆虫を美味く調理する者が出てきて、出雲大社の兵たちが自分が持っている米と交換して食べに行っているという。
「なんで? みんな肉を食べるのを嫌がっていたじゃん」
「私は食べはしません。が、どこにでも物好きはいます。一部の兵の間で精がつくと噂になって、出雲大社国の民からも、わざわざ因幡までやってきて食べるものが出てきております。ヤギと漁の管理を彼らに任せてみたく思います」
「いいじゃん! ぜひやろう! 念願の肉食文化だ。ようし、来年は内政に全力をつくして疲弊した国力を取り戻す! そして再来年には飢民をぶつけてきた平家。いや、平時忠に一泡吹かせてやる!」
意気込んで宣言する貴一に、長明は言った。
「――その時忠様から、親善を求める使者が来ております」
「はあ!? 人の国を追いこんでおいて、どのツラ下げて……。会う気はない。塩巻いて追い返せ! しっしっ!」
しかし、使者が安倍国道と聞くと貴一は黙り込んだ。しかも従者に女を連れてきているという。
――なぜここで陰陽師が出てくる? 外交とは関係のないアイツが?
「弁慶、女が静御前だとしたら――」
「わしが直接、見張りに行こう。あの術は知っている者でないと対応できん」
「頼む」
弁慶と熊若が立ち上がって出て行った。
貴一はため息をついた。
「長明、使者に会うよ。なぜ国道が来たのか気になる。向こうに乗せられているようで気分が悪いけどね」
「南宋への航路がこんなに順調に行くとはな。おぬしがチュンチュンには船を導く不思議な力があると言ったときは、わしを騙しているかと疑っていたが――」
30艘の大型ジャンク船(25m×8m)を見ながら鉄心が言った。
貴一とチュンチュンが目を合わせて笑う。
羅針盤(コンパス)を使っているのは二人だけの秘密だ。
南宋の船乗りたちも、初めはまったくチュンチュンの言うことを信じなかったが、実際に船が目的地にまっすぐ着くのを経験すると、チュンチュンを神のように拝むようになった。いまでは航海の安全を祈願して、どの船も船首にパンダの像をつけている。
「半年前におぬしが港にやってきて、カグヅチストーブをすべて降ろせ、銀で米を買いに行くと言った時には、殺してやろうかと思ったが、船ごと米を買ってくるとなれば話は別だ。この船がすべてわしの船だと思うと笑いが止まらん」
「鉄心のじゃない。出雲大社の船だ」
貴一もはじめは米だけを輸入するつもりで南宋の商人と交渉していた。しかし、取引額が小規模すぎて全く相手にしてもらえなかった。銀を多く支払うといっても詐欺だと疑われた。そこで船を買うからサービスで米をつけてくれというと、何人かの商人が乗ってきた。その後は蒸気船を見せて驚かせ、チュンチュンとメイド熊たちのモフモフ接待で商談を成立させたのだ。
交易の度に大船が増え続けるので、何割かの船は出雲国の港に回して蒸気船に改造させている。改造された船はカグヅチストーブを積んで奥州に向かい、改造待ちの船は漁船として使うことにした。船員は元飢民から頑健な男を弁慶に選ばせている。ゆくゆくは水軍の兵にするつもりだ。
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出雲大社・大神殿
出雲大社の幹部が集まると、鴨長明がいつも通り、資料を配り説明をはじめる。チュンチュンだけは南宋との貿易船に常駐しているので不参加だ。
(出雲国・石見国・長門国・伯耆国・因幡国を合算 1179年→1181年)
石高 47万石 → 53万石
人口 19万人 → 36万人
牛馬 3000匹 → 1000匹
鉄 1000トン → 1200トン
弁慶隊 4600人 → 5000人
熊若騎馬隊 390人 → 500人
民兵 6000人 → 7000人
「今年も干ばつで伯耆国・因幡国の収穫は壊滅的です。ただし、開拓・灌漑工事に民を集中させておりますので、翌年には伯耆国からの収穫は見込めるでしょう。
牛馬は騎馬隊・早馬用の馬を残し、ほとんど流民の食用として潰しました。ヤギも2000頭近く殺しております。まあ、こちらのほうはほうっておいても増えそうですが。牛馬は考えないといけませんな」
「馬は奥州との取引で増やしていくしかないね。兵も飢民の対応で増やすところじゃなかったからね」
「問題は因幡国に偏った10万人以上の民です。開拓・灌漑作業をさせたとしても、4万人程度で、それ以上は却って作業の邪魔になります」
「だったら、余った民を鉄道建設に回そう。飢民受け入れで、建設中止していた分を取り戻せる。そして、そこで出た土砂で湖を埋めるってのはどう? 一石二鳥じゃん」
島根県の上部にある宍道湖は日本で七番目に大きな湖で、東西約17km、南北約6km、周囲長47kmの広さになる。昭和に干拓計画が立てられたが、減反政策のあおりで中止になった。
「上手く行けば頭打ちになった出雲国の石高も上がるかもしれません……。スサノオ様にお願いがあるのですが、1000人程度、私に預けてもらえませんか。少し興味深いことが起こりました」
長明の話によると、伯耆国と難民キャンプにしている因幡国の国境に肉や魚、昆虫を美味く調理する者が出てきて、出雲大社の兵たちが自分が持っている米と交換して食べに行っているという。
「なんで? みんな肉を食べるのを嫌がっていたじゃん」
「私は食べはしません。が、どこにでも物好きはいます。一部の兵の間で精がつくと噂になって、出雲大社国の民からも、わざわざ因幡までやってきて食べるものが出てきております。ヤギと漁の管理を彼らに任せてみたく思います」
「いいじゃん! ぜひやろう! 念願の肉食文化だ。ようし、来年は内政に全力をつくして疲弊した国力を取り戻す! そして再来年には飢民をぶつけてきた平家。いや、平時忠に一泡吹かせてやる!」
意気込んで宣言する貴一に、長明は言った。
「――その時忠様から、親善を求める使者が来ております」
「はあ!? 人の国を追いこんでおいて、どのツラ下げて……。会う気はない。塩巻いて追い返せ! しっしっ!」
しかし、使者が安倍国道と聞くと貴一は黙り込んだ。しかも従者に女を連れてきているという。
――なぜここで陰陽師が出てくる? 外交とは関係のないアイツが?
「弁慶、女が静御前だとしたら――」
「わしが直接、見張りに行こう。あの術は知っている者でないと対応できん」
「頼む」
弁慶と熊若が立ち上がって出て行った。
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