革命好きが源平時代に転生したら ~いい国作ろう平民幕府~

キムラ ナオト

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5.源氏旗揚げ編

第38話(1181年10月) 踏ん張る平家

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「小僧ども、身の程をわきまえろ」

 平時忠は今日も平家一門が勢ぞろいした六波羅の旧平清盛屋敷で冷徹に言った。うつむいている者、反抗的な視線を向ける者と様々だが、無言なのはみな同じだった。

 時忠の横には清盛が死後、後継者となった三男の宗盛。平家軍を統括している四男・知盛が一段高い上座に座っている。

 後継者の宗盛は貴族的な性格で有事に弱く、武家の棟梁としては頼りなかった。なので戦に関しては知盛と時忠が補佐していた。
 
 清盛死後の動揺が鎮まると、時忠は平家の戦闘すべき地域を制限した。近江・美濃・尾張・越前までに決め、それを越えての進軍をさせなかった。
 
――そこまでならば、源頼朝の勢力圏には及ばない。

 時忠の本音はそうだが、「頼朝の首を墓前に捧げろ!」という清盛の遺言に背く形になるので、遠征の前に兵糧補給地を確保するのが先だと言って、一門を納得させた。

 反論する者もいたが、平家軍が反乱勢力を各個撃破し、勝利を重ねていくうちに時忠を非難する声は小さくなっていった。

 まずは勝ち癖をつけて自信を取り戻す。時忠と知盛の意見は一致していた。知盛も表向きは鎌倉攻めを唱えて反発したが、裏では時忠に感謝していた。軍事を統括する知盛としては、今の平家の兵力で頼朝に勝つ自信はなかった。

 因幡国に侵攻していた出雲大社軍に兵ではなく、飢民をぶつけるという策が当たったのも時忠の評判を上げるのに役立っていた。みなこの策には首をかしげていたのだが、やってみると出雲大社軍は伯耆国まで後退した。

 しかし、勝ち戦が続くと主戦派が勢いづく。戦の中で頭角を現してきた若武者もいた。時忠に北陸道を攻め上ろうと進言して、一喝された平教経のりつねはその代表格であった。

 主戦派の意見を封じると、時忠は奥州藤原家に頼朝討伐の使者を送ること、まだ反乱が落ち着かない九州に、平貞能さだよしを派遣することを決め、会議を解散した。会議中ずっと、宗盛はオロオロとみなの顔色を気にし、知盛は黙っていた。二人は時忠が去った後に、一門から時忠への不満を聞く仕事が待っている。

 時忠は自邸に戻ると、密偵の赤禿あかかむろからの報告を受けた。朝廷の貴族を調べなおし、反平家・源氏側のものをリスト化していく。たいてい、リストに載る者は後白河法皇の側近だった。時忠は舌打ちする。

――高倉上皇がおられれば、みな追放してやるのだが。

 後白河を幽閉し、親平家の高倉上皇の元で平家政権を盤石のものにする計画が、高倉上皇の崩御、平清盛の死によって完全に崩れ去った。安徳天皇はまだ幼子のため、後白河法皇による院政が復活。源氏との戦いの最中に院と事を構えるのは、時忠といえど、できなかった。

 京にいる赤禿の報告がすむと、地方に放っている密偵がやってきた。
 時忠は意地の悪い笑みを浮かべる。因幡国からの報告があるからだ。

――そろそろ備蓄米がつきて、地獄絵図になっていることだろう。そうなれば疫病も発生するはず。

 だが、報告をきく時忠から笑みが消えた。因幡国には飢える民はほぼおらず、以前に調べたときより、民に米が行き渡っているという。

「なぜだ! 周辺の国も干ばつで米を買うことなどできないはずだ。しっかりと見て来たのか?」

「そう言われると思い、伯耆国に潜入してきました。他の民の米が減らされていないか調べるためです。しかし、私が見たのは驚きの光景でした」

 時忠が身を乗り出す。

「港に入りきらないほどの大船団です。あのような船数は、清盛公が作られた大輪田泊(神戸港)でもめったに見たことがございません。船の形は南宋のもので、その船からは大量の米が運び出されていました。代わりに積まれていたのは――」

「銀だな。石見銀山の」

 密偵がうなずくと、時忠は唸った。米を輸入するという発想はこれまでの日本には無い。中国との貿易は外海に出るので、予定通りに着くということはありえない。まず、中国大陸のどこかの沿岸に流れ着くことを目指し、そこから陸地を伝うようにして目的地に向かうのだ。もちろん途中で沈むこともある。命がけのガチャのようなものだ。
 だから、できるだけ一度の取引で得られる利益を大きくしなければならない。米の取引などは荷がかさむだけで交易品として問題外だ。少額だし、食物が傷む危険が大きい。

――しかし、貴一が損を覚悟すれば可能だ。米に対して銀の交換率を上げればいい。

「流民の命を助けるために法外な銀を払い続けるなど愚かな真似だ。今回は運よく伯耆国の港まで着いたが、次も上手く船が航海できるおは限らぬ。負ける博打はせぬものよ」

「それが――まったく不思議なのですが、村人に聞くと船は2週間ごとに必ず伯耆国に来るそうです。そして船団は一度来ると、そのうちの数艘の船は南宋に帰らずに出雲国に向かっています」

「なぜ、そのようなことができる?」

 時忠の問いに密偵は首をかしげるだけだった。

――情報が足らぬな。もう少し探りを入れてみるか。

 時忠は家人を呼ぶと、ある男の元に使者を送った。
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