革命好きが源平時代に転生したら ~いい国作ろう平民幕府~

キムラ ナオト

文字の大きさ
上 下
43 / 136
5.源氏旗揚げ編

第37話(1181年3月) 反対多数

しおりを挟む
 因幡国・国府新庁舎

 貴一と鴨長明は早馬の報告を信じられなかった。貴一が知る平家の動員能力は多く見積もっても4万。しかもその戦力の大半は近江や美濃で戦っていた。
 すぐに貴一は弁慶隊と民兵に召集をかけ、熊若騎馬隊に偵察を命じた。

「10万は平家のハッタリだとしても、今の因幡国では防御の備えが無い。馬ノ山城がある伯耆国へ退くことも考えなないと。京から因幡国までだと、軍の速さなら5日で来る」

 その後、早馬が国府庁舎に続報を持ってくると、詳細がわかってきた。
 こちらに迫っているのは軍では無く流民の群れで、先頭には赤禿あかかむろと陰陽師が煙を炊きながら先導しているらしい。

「赤禿? だとしたら時忠様の策か。陰陽師も協力しているとなると、やっかいだね」

「因幡国に着けば米が食える。民はそれを合言葉に進んでいるようです。飢えた民なので軍ほどの速さは無いにしても、7日もあれば因幡国に入ってくるでしょう」

 貴一が京に潜入したとき、飢えている民がそこらじゅうにいた。元々、京の民は地方の米で生活している都市生活者である。干ばつに動乱とくれば、たちまち飢える。

――あのときは、平家も大変だなあ、と人ごとのように思っていたが……。飢民を都から一掃させ、兵の代わりに出雲大社へぶつけてくるとは、時忠様もえげつない。

「長明、備蓄してある米は? 流民をどのぐらい食わせられる?」

「10万石。もって半年かと」

「それなら、次の収穫まで繋げられるね」

「正気ですか? 備蓄の無くなった翌年はどうします? 伯耆・因幡両国の開墾に全力を注いだとしても流民まで食べさせられるようにするには少なくとも3年はかかります」

「うーん、しょうがない。民には悪いけど、以前のように、一人あたりの配給を年間2石から1.5石に戻そう」

 貴一が集まった弁慶隊と民兵の幹部に配給米について相談すると、みな難色を示した。

 それどころか、情報が漏れて、集結せた兵たちから緊急動議が出された。貴一が出雲大社を治めてからは、初めてのことだった。
 国府庁舎前に集まった兵の前で発議した男が大声で叫ぶ。

「流れてくる民のために米を減らされることを良しとするかどうか!」

 反対意見である「いわれ無し」の声が、兵や民兵から次々と発せられた。中には「流民など殺してしまえ!」という声もあった。貴一は困った顔で弁慶を見たが、黙って首を振るだけだった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 国府新庁舎内

「鬼一。とりあえず、兵たちに今まで通り、食の配給を行うと宣言しろ。そうでないと暴動がおきかねん」

「出雲大社の民はこれまで懸命に働いてきました。良民の支持を失えば国の根幹が崩れます」

 弁慶と長明は口をそろえて流民の受け入れを反対した。

――これが広元が言っていた出雲大社の弱点ってわけか。こうも言っていたな、中華の歴史が変わるときは人口の半分が死んだ。覚悟を見せろと。俺が殺戮をした因幡で今度は流民を虐殺しろというのか……。いいだろう、見せてやる。お前とは違う覚悟を!

「出雲大社が成長したのは移民の力も大きいのは長明も知っているだろう。ここで見殺しにしたら、今後、出雲大社に移民は来なくなる! 国の成長が止まる! それでいいのか?」

「崩壊するよりはましです。情に流されて、国を誤ってはいけません」

 長明は煽りに乗らず、冷徹に答えた。弁慶も同意する。

 その場を沈黙が支配した。しばらくして貴一が口を開いた。

「伯耆国と因幡国の間に柵を並べて関所を作ろう。流民を通れないようにするんだ」

「良いご判断です。占領したばかりの因幡国を捨てるのは惜しいですが仕方ありません」

「違う。流民は助ける。出雲大社の食も守る。長明、すぐに備蓄米をここに持ってきてくれ」

「何と! いずれ見捨てざるを得ない、飢民に配ってどうするのです」

「見捨てないよ。弁慶、関所ができたら、民兵に飢民を収容できる簡単な小屋を建てさせるんだ。田植え前までに完了させてほしい」

「民兵はそうするとして、弁慶隊は何をする?」

「流民を引き連れて食料の確保をしてもらう。
増えすぎたヤギ。
農耕していた牛の半分。
水田のイナゴ。
沿岸の魚。
肉、昆虫、魚、野草、食べられそうなものを取ってきて飢民の食料にする。半年分しかない食料を可能なだけ伸ばすんだ」

「戦もせずに狩猟か。軍の仕事とは言えんな。攻められたらどうする?」

「これはすでに戦だよ。平家が仕掛けた兵糧攻めだ。それに飢民だらけの国など誰も攻めはしない」

 社会主義国家で必ずといっていいほど起こるのが食糧危機だ。だからこそ、貴一は知識チートによる開拓を行い、食糧増産に力を入れていた。だが、ここに来て行き詰まろうとしていた。

「半年だけ留守にするね」

そう言い残すと、貴一は因幡国を後にした――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...