革命好きが源平時代に転生したら ~いい国作ろう平民幕府~

キムラ ナオト

文字の大きさ
上 下
24 / 136
3.奥州編

第20話(1176年7月) キレてないすっよ

しおりを挟む
 平泉・義経屋敷に入ると、貴一たちは板敷きの広間に案内された。バスケコート半分ぐらいの広さか。中央に三人が座ると左右の壁を背に10人ずつ貴一の元弟子たちが並ぶ。義経は奥の壁を背に一段高い畳の上に座った。

 弁慶が小声で聞いてきた。

「おい、あのちっこい武者がわしの運命の相手なのだろう。それなのになぜ、おぬしはイライラしておる」 

――クソガキが! 師匠相手にマウント取りにきやがって。だが、俺にはこれがある!

「師匠の言うことはー!」

 シーーン、広間に変な空気が流れた。
 弁慶が鬼一の顔をのぞきこむ。

「どうした、急に大きな声を出して――おい、鬼一。顔が真っ赤だぞ」

 貴一が弁慶の問いには応える前に、義経が声を出した。

「義経の言うことはー!」

「「「絶対!!」」」

 左右の元弟子たちが声を上げる。
 義経が勝ち誇った顔で貴一を見て来た。

――舐めやがって、コロス!

 ざわっ。

 貴一以外の全員が膝立ちで身構え、貴一を見た。
 広間に殺気が充満して、全員が身の危険を感じたからだ。
 屋敷からも殺気があふれ出たのか、馬のいななきや鳥の羽ばたく音が聞こえてきた。

「法眼様、落ち着いてください。秀衡様に会えなくなります」

「やめろ、鬼一。奥州まで喧嘩しにきたわけじゃあるまい」

 弁慶と熊若が左右から、貴一の裾を掴む。
 貴一は義経の顔が強張っているのを見ると、少しだけ怒りが収まった。

――ふん、殺気でビビるぐらいなら、挑発すんなってんだよ。

 大きく深呼吸すると、貴一の殺気が鎮まった。

「俺の弟子どもを完全に手なずけたようだな。どうやった?」

「常勝無敗。勝ち続けて信頼を得て、負けないことで忠誠を得た」

 貴一は義経の忠臣となった男たちを眺める。

「一人として傷跡が無い者はいないね。共に死線をくぐりぬけたことで、生れた絆もありそうだ」

 貴一の瞳の中の炎は消え、子供たちの成長を見る親の目に変わっていった。

「奥州で遊んでいたわけではなく、天狗になるだけのことはやっていたというわけか」

「そうだ。軍略を奥州の内戦で試し続け、私にあった兵法を見つけ出した」

 貴一と義経の気が落ち着いたのをみて、熊若が貴一にささやいた。

「ここに来た目的を――」

「義経よ、俺を藤原秀衡殿に会わせてくれ」

「たやすいことだ」

「次にこの弁慶を――」

 貴一の裾を弁慶が引っ張って、小声で言った。

「止めておく。アイツは好かん」

――えーっ、それはだってほら、歴史じゃお手本のような主従だったわけだし。

「だいたい、おぬしが嫌いなヤツを、わしに薦めるのが解せぬ」

「ほら、恋愛でもあるじゃん。ツンデレみたいな――」

「とにかく、今はその話はするな」

 二人がコソコソ話していると、義経が訝しい顔をした。

「目の前で何を密談している。願いはそれだけで良いのだな」

「……ああ、頼む」

「3日後に秀衡殿に会う予定がある。その後に時間を取ってもらえるようお願いしておこう。それまでは私の屋敷に泊っているといい」

 熊若が義経に言った。

「義経様、法眼様を私の集落に連れて行きたいと思っております」

蝦夷えみしの村か。わかった、3日後の午の刻(正午)に平泉御所で待つ」

「承知しました。では、法眼様に弁慶様、さっそく参りましょう」

 熊若は貴一たちを急き立てるように義経の屋敷から退出させた。


 三人は騎乗すると、すぐに陸奥国の奥に向かって駒を進めた。

「もう少しいても良かったんじゃないか、熊若」

「いいえ、あのままだと法眼様が何人か殺してしまいます。元とは言え、兄弟弟子が師匠に殺される姿は見たくありません」

「凄い殺気だったぞ。戦じゃ怒ったほうが負けだと言ってるくせに短気だからなあ、鬼一は」

 弁慶も同意する。

「いや、その後は落ち着いて大人の対応をしたじゃん」

「すぐに気持ちを切り替えられる人ばかりじゃありません。義経様が言っていた通り、家人は信仰に近いほどの忠誠心があります。忠義のあまり、法眼様を殺してしまおうと思う家人がいても不思議ではありません。そうなったら――」

「優しいな。俺の心配をしてくれたのか?」

「違います。義経様の家人の心配です。法眼様が反撃をしたら、大乱闘になって何人死ぬかわかりません。法眼様から見れば弱くても、義経様の家人は歴戦の強者。奥州にとっても大事な男たちです。つまらないことで死なせたくはありません」

「つまらないことって……」

「熊若の言う通りだ。安い挑発に乗りおって。だいたい、あれだけの殺気を振りまいた後、どのツラ下げてわしを義経に紹介するつもりだったのだ? わしが気まずすぎるわ」

「それで、仕官するのを止めたのか?」

「それだけではない。あの集団には暗いものを感じた。義経も強がっていた割には、何か追い詰められている気がしてな。それに運命的というからには何か感じるものがあるはずだ。だが、それが無かった。おぬしの殺気で分からなかったのかもしれんが」

「はいはい、俺が大人げなかったですよー。悪かったな、空気を凍り付かせて」

 すねた貴一に熊若がなぐさめるように話しかけてくる。

「気分を変えましょう。今から行く私の集落で、鹿肉と猪肉を用意させています。運が良ければ、法眼様が食べたいと言っていた熊肉もありますよ」

「それはいい!」

 唾をゴクリと飲み込むと、貴一はすぐに笑顔になった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

スキルポイントが無限で全振りしても余るため、他に使ってみます

銀狐
ファンタジー
病気で17歳という若さで亡くなってしまった橘 勇輝。 死んだ際に3つの能力を手に入れ、別の世界に行けることになった。 そこで手に入れた能力でスキルポイントを無限にできる。 そのため、いろいろなスキルをカンストさせてみようと思いました。 ※10万文字が超えそうなので、長編にしました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

お人好し底辺テイマーがSSSランク聖獣たちともふもふ無双する

大福金
ファンタジー
次世代ファンタジーカップ【ユニークキャラクター賞】受賞作 《あらすじ》 この世界では12歳になると、自分に合ったジョブが決まる。これは神からのギフトとされこの時に人生が決まる。 皆、華やかなジョブを希望するが何に成るかは神次第なのだ。 そんな中俺はジョブを決める12歳の洗礼式で【魔物使い】テイマーになった。 花形のジョブではないが動物は好きだし俺は魔物使いと言うジョブを気にいっていた。 ジョブが決まれば12歳から修行にでる。15歳になるとこのジョブでお金を稼ぐ事もできるし。冒険者登録をして世界を旅しながらお金を稼ぐ事もできる。 この時俺はまだ見ぬ未来に期待していた。 だが俺は……一年たっても二年たっても一匹もテイム出来なかった。 犬や猫、底辺魔物のスライムやゴブリンでさえテイム出来ない。 俺のジョブは本当に魔物使いなのか疑うほどに。 こんな俺でも同郷のデュークが冒険者パーティー【深緑の牙】に仲間に入れてくれた。 俺はメンバーの為に必死に頑張った。 なのに……あんな形で俺を追放なんて‼︎ そんな無能な俺が後に…… SSSランクのフェンリルをテイム(使役)し無双する 主人公ティーゴの活躍とは裏腹に 深緑の牙はどんどん転落して行く…… 基本ほのぼのです。可愛いもふもふフェンリルを愛でます。 たまに人の為にもふもふ無双します。 ざまぁ後は可愛いもふもふ達とのんびり旅をして行きます。 もふもふ仲間はどんどん増えて行きます。可愛いもふもふ仲間達をティーゴはドンドン無自覚にタラシこんでいきます。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

処理中です...