革命好きが源平時代に転生したら ~いい国作ろう平民幕府~

キムラ ナオト

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2.出雲統一編

第14話(1175年5月) 神様ゲットだぜ!

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 貴一の目の前には燃え盛る大きな神社があった。
 出雲国に来てから1年。数々の寺社と戦い、焼き討ちをしてきた。もはや残る寺社はわずかである。山深い熊野大社の境内には、逃げ惑う敵と追いかける味方が入り混じっていた。

「もう勝負はついた。これ以上の殺しは禁止! 捕らえるだけね。戦いが終わればみな出雲の仲間。ノーサイド精神で行こう!」

 貴一が命令すると怒声を放っていた神人の動きが変わった。半年前まではいったん戦いが始まると、神人(神社の私兵)たちはすぐに暴徒と化して、誰も指示に従おうとしなかったが、今は貴一の言うことに素直に従うようになっている。貴一の戦いでの無類の強さと、無敗の実績がそうさせたのだ。

「ククク、出雲第二の大社である熊野大社もこれで終いですな。我の完璧な計画と、大国主神の思し召しでしょう。すぐに捕らえた禰宜ねぎ(神社の長)に祭神を出雲大社に移す儀式を行わせます」

 神官の格好をした鴨長明かものちょうめいが厳かに言った。過去に加茂神社の禰宜を目指していただけあって様になっている。

「ああ、よろしく」

――まるで、女神転生をやっているようだ。

 鴨長明は寺社との争いに勝つと、必ず寺の本尊や神社の祭神を出雲大社に移した。今では出雲大社の周りに無数の社殿が建てられている。神様の種類ごとに祀る社殿が必要だからだ。寺の本尊は神宮寺を造って納めている。神宮寺とは神社の支配下にある寺の呼び方の一つである。

「熊野大社の神人よ! 捕まえても決して罰したりはしない! むしろ開拓民として土地も与える! 共に出雲を豊かにしよう!」

 貴一は叫びながら、次々と敵を捕らえていく。

――敵の半分の500人程度は捕らえられそうだ。

 貴一の前を筋骨隆々の大男が通った。身体が大きいので衣服の丈が合わず、脚や腕はむき出しになっている。輿には生首がいくつもぶら下がっていた。

「おい、弁慶。殺しすぎだ」

「おぬしにだけは言われとうない。おぬしが来てからというもの、出雲大社は争いに次ぐ争いだ。まあ、おかげでわしみたいな乱暴者でも重宝してくれるがな。がははは!」

「寺社との争いも直に落ち着く。そうしたら、お前にも開拓を手伝ってもらうからな」

「このわしが? 馬鹿を言え。豪傑が鋤や鍬など持てるか」

「開拓した土地の半分はお前のものになる。お前ほどの馬力があれば、相当な土地を手に入れられるんだけどなあ」

「よくおぬしはそれをいうが、肝心の出雲国造家いずもこくそうけが認めておらんではないか。やつらは自らの荘園が増えるとしか考えておらんぞ」

 貴一はあえて反論しなかった。

――寺社統一後には、出雲国造家はいなくなるんだよ。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 1年前、絲原屋敷で決めた作戦は順調に進んでいた。朝廷の介入を防ぐため、あくまで寺社同士の争いという形を取って、出雲国を統一する。そのために絲原鉄心が鉄の専売権と引き換えに、出雲大社の神職の幹部ポストに鴨長明、神人の戦闘部隊の幹部ポストに貴一を送り込んだ。

 貴一と長明の二人は積極的に他の寺社との土地争いを拡大させていった。そうして奪った土地は出雲大社が吸収し、降伏した者は開拓地に送った。毎月のように争っているうちに、貴一の神がかり的な戦闘力が知れ渡り、神人の人望が集まっていった。

 そのうち、二人は出雲大社と友好関係にあった寺社にまで争いを仕掛けた。出雲国造家は止めようとしたが手遅れだった。鴨長明が神人に直接投票を求め、貴一に従う者が賛成多数を示すと、出雲国造家も戦を認めざるを得なかった。

 そんな状況の中、出雲国造家が連れてきたのが武蔵坊弁慶だった。衆望を集めている貴一を牽制するために、豪傑と噂の高い荒法師に部隊の一部を任せたのだ。弁慶も多くの報酬を得るために戦いで活躍した。その影響もあって、絶対多数だった鬼一法眼派の中に野党の弁慶派が産まれることになる。

 鴨長明は弁慶殺すことを進言したが、

――歴史じゃ弁慶は超メジャーだからなあ。殺すのはもったいない。

 そう思う、貴一の態度は煮え切らなかった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 戦いから数日後の夜、貴一は出雲大社から少し離れた自分の小屋に鴨長明を呼んだ。
 鴨長明は入ってくるなり、顔をしかめた。

「唇が脂で光ってますよ。また、猪肉を食べたのですか? 神人なのに罰が当たりますよ」

 貴一は袖で唇をぬぐう。そして小さな壺を持ってくると木匙ですくったものを長明の顔の前にもってくる。

「ハイジの乳で作ったヨーグルトだ。食べてみろ。健康にいいぞ」

「うっ! 何ですか? この酸っぱい臭いは。腐ったものを食べるのはアホのすることです」

「食わず嫌いは良くないなー。鉄心も初めは嫌がったが、今ではクセになると言って喜んで食べているぞ」

 長明は追い払うように手を振る。

「アホを移さないでください。そんなことのために呼んだのなら帰ります」

「違うよ。これからについてだ。状況を聞かせろ」

 長明は座ると説明を始めた。

「知っての通り、残すは鰐淵寺がくえんじだけです。2000人だった僧兵は、比叡山からの応援で3000人まで増えています。こちらは2000人。戦の練度が違うとはいえ手強い相手です。次に出雲国造家の息がかかった弁慶たちの兵500の動きが怪しい。国造家は鰐淵寺を攻めることをずっと反対していますから。彼らがどう動くか――」

「そんなこと言ってるけど、お前は弁慶に裏切らせたいのだろ? 性格悪いなあ」

「弁慶をのさばらさせた法眼様が悪いのです。弁慶は性根が単純な分、人に好かれる魅力があります。法眼様とはそこが違いますね、ククク」

「嫌味を言うな。で、どうやって勝つ?」

「ククク、御冗談を。法眼様は兵法を極めているでしょう? 怠惰はいけませんな。勝った後の知恵なら、あふれるほどあります」

 長明は自分の頭を指しながら言った。

「ほんと可愛げがないな、お前は――」

 貴一は立ち上がると、懐から胡桃くるみサイズの鉄を取り出して言った。

「鉄心に会ってくる。俺が戻ってきたら、鰐淵寺攻めの衆議をすぐに行うよ」
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