革命好きが源平時代に転生したら ~いい国作ろう平民幕府~

キムラ ナオト

文字の大きさ
上 下
10 / 136
1.京都修行編

第8話(1173年3月) モヤモヤが止まらない

しおりを挟む
「石見国で銀山が見つかった。相国(平清盛)も喜んでおられる」

 平時忠邸で貴一は時忠から褒美を受け取っていた。平清盛が神戸を中心に始めた貿易事業も石見銀山という資金源を得て、順調に進みそうだ。宋国との交渉も年内には終わる予定だという。

「それはめでたいですね。時忠様、大陸だけではなく、西南の海へ船を出すことを相国に進言していただきたけませんか。我が国とって必ず益となるものが見つかります」

「益とは何か?」

「海の向こうには痩せた土地でも育つ作物があります。稲や麦のように地上に実を成すものではなく、地中で育つものです。それが手に入れば朝廷はより豊かになります」

 朝廷など強くなって欲しくは無いが、そう言わないと時忠は動かない。

「相国に話してみよう。ただ朝廷は新しいことには興味は示さぬ。他の銀山や金山の場所は知らぬのか?」

「気になっている場所はあります。ただ、今の日本の技術では採掘は難しいでしょう」

「南宋から技術者を呼べというのか?」

――理解が早い。

「日本には黄金が多く眠っています。南宋の最先端の技術を学べは、国は栄え続けます」

「わかった。さて、貴様は褒美の金を使って鉄の増産をすると言っていたが――」

「お約束通り、決して武器には使いません。農具のみに使います」

「人は利に弱い。貴様の思う通りに人が動くと思うな。わしは何度も裏切られた。出雲の絲原鉄心には武器を売りたければ平家が買うと言っておけ」

「承知しました。そのように申しておきます」

「農具についても、いったん朝廷に収めよ――そう不満顔をするな、利を得ようなどと思ってはおらん。全国に均等に割り振るつもりだ」

「間に人を挟めば、不正をする者が現れます。先ほど人は利に弱いといったのは時忠様ではありませんか」

「阿呆め。作った農具を貴様たちだけで配れると思っているのか? 途中に賊に奪われたらどうする? 多少の不正に目をつぶって朝廷を利用したほうが良い。朝廷がまとめて買い上げれば、貴様たちの利益も安定する」

――確かに、農具を作ることだけで、配ることを考えてなかった。

「貴様は全国に均等に配りたいと言っていたが、出雲国の周辺から拡げていくのが良いだろうな」

「西国(中国・四国・九州地方)には平家の直轄領が多いですもんね」

 貴一は嫌味を言った。だが、時忠はむしろ開き直る。

「そうだ。そのほうが平家一門を動かしやすい。そして、わしが出雲国の鉄の分配権を握る。どうだ? これで民も貴様もわしも豊かになる」

――確かにWIN-WINだけど、なんか釈然としないなあ。でも、今の俺には時忠様を頼るしかないしね。

 ぶつぶつ言いながら、立ち上がる貴一を時忠が引き止めた。

「おい、今渡した褒美を置いていけ」

「えっ、なぜですか? 馬を買わねばなりません」

「貴様は本当に阿呆だな。馬五十頭だぞ。街へ出てすぐ買える数では無い」

「だから、何だと言うのです」

 貴一はムっとした。時忠は手を前に出して言う。

「わしが手配してもう出雲に送った。建て替えた金を寄越せ」

「本当ですか? じゃあ……」

 袋を開けようする貴一に時忠は、

「ちょうどだ。そのまま寄越せ」

 貴一は言われるままに褒美の入った袋を渡した。
 話が終わって時忠邸から出てからも、ずっとモヤモヤした気持ちは晴れなかった。

――本当にピッタシなのか? ぼったくりじゃないのか? 大体、あの袋には本当に褒美が入っていたのか?

 一度、鞍馬寺に戻ると、兵法書を渡して遮那王しゃなおうと熊若に言った。

「しばらく出雲国に行ってくる。俺がいない間、兵法書を写経のように書き写せ」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 貴一は出雲国へ入ると、絲原鉄心がいるたたら場を探した。彼らは定住せず、砂鉄を求めて移動している。苦労して見つけると、鉄心が笑顔でやってきて、貴一の肩をバンバン叩いてきた。

「本当に馬を用意するとはな! すごい男だよ、お前は」

「約束通り、大規模なたたら場を作ってくれるか」

「ああ、もう大工を呼んで相談しているところだ。日本一のたたら場を造ってやる!」

「えらい、やる気じゃないか」

「そりゃそうさ、何せ、おぬしの背後に相国(平清盛)の義弟・時忠様がいるのが分かったからな。信用が全然違う。なぜ、初めからそう言わなかったのだ?――ああ、そうか。いきなり言っても誰も信じるわけがないもんな。がははは!」

 鉄心は一人合点して笑っている。
 貴一は馬が集まっているところに、連れていかれた。

「ん? なんか。数が多くないか?」

「そうだ。70頭いる。20頭は時忠様からの贈り物だ。牧を作って馬を増やすよう、と書状には書いてあった。時忠様は実にお優しいお方だ」

――なるほど。たたら場が発展すれば、馬も増やさなきゃいけないもんね。時忠様は先が見えている。それにしても、太っ腹だな。

 貴一は時忠に抱いていた不信感が無くなり、感心さえした。
 その後、鉄心とたたら場の計画と鍛冶屋村の建設について話し、京へ帰ることにした。
 その道中、宿場町で酒を飲んでいると、離れた場所でどんちゃん騒ぎをしている男たちがいた。
 貴一は女主人を呼び出して聞いた。

「あの、騒がしい連中は何者なの?」

「馬商人ですよ。何でも馬が売れずに困っていたところを、平家にまとめて買い上げてもらったそうで、時忠様は神様だ、と口々に言ってますわ」

――売れずに困っていた。どれなら時忠様なら買い叩くはず。もしかして、追加の二十頭も俺の褒美の金で買ったのではないのか? それで、馬商人や絲原鉄心に感謝されているとしたら――だけど、文句を言おうにも証拠が無い……。

「納得いかねー!」

 その日の晩、貴一は潰れるまでやけ酒を飲んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する

ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。 きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。 私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。 この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない? 私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?! 映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。 設定はゆるいです

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)

田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ? コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。 (あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw) 台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。 読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。 (カクヨムにも投稿しております)

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

偽物の侯爵子息は平民落ちのうえに国外追放を言い渡されたので自由に生きる。え?帰ってきてくれ?それは無理というもの

つくも茄子
ファンタジー
サビオ・パッツィーニは、魔術師の家系である名門侯爵家の次男に生まれながら魔力鑑定で『魔力無し』の判定を受けてしまう。魔力がない代わりにずば抜けて優れた頭脳を持つサビオに家族は温かく見守っていた。そんなある日、サビオが侯爵家の人間でない事が判明した。妖精の取り換えっ子だと神官は告げる。本物は家族によく似た天使のような美少年。こうしてサビオは「王家と侯爵家を謀った罪人」として国外追放されてしまった。 隣国でギルド登録したサビオは「黒曜」というギルド名で第二の人生を歩んでいく。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...