【完結】運命とは〜魅了が解けたあと〜

文字の大きさ
上 下
10 / 11

ある聖女のお話

しおりを挟む



私は小さい頃からこの国の王女として完璧を求められた。
両親は多少なりの愛はあるのでしょうが
一番はこの国の為!と考え行動できる人達だ。
きっとこの国にとってはこの上ない理想的な人達なのでしょうが
父や母としては私はどこか寂しくいつも何か飢えていました。


使用人にも実の親にも
ある時は完璧な王女をある時は無邪気な少女を演じ
相手が求める理想の私を見せつづけるのです。
そうしていくうちに本当の私が自分自身でわからなくなりました。
そんな時この手に聖女の力が宿っている事がわかりました。
今の情勢から私も予定していた討伐隊への参加を命じられました。
周りが嘆き悲しむ中私は唯々冷静に自分のやるべき事を唯々自分に銘じておりました。
そんな中出会ったのが彼なのです。

まるで妖精かと見間違うほどの端正な顔立ちと、誰も近づけず常に回りを警戒する彼。
そんなアンバランスな様子に何故か私は惹かれていたのです。
最初はあからさまに物理的距離を取られていましたが
それでも彼に近づきたくて私ははなしかけ続けました。
普段の私なら相手の求める事はしても、相手が嫌がる事を察すれば自然と距離をとるはずなのに。
何故か彼には嫌がられている、困らせているとわかっていてもあきらめられない私がいました。
彼も徐々に心を開いてくれたのですが、少しづつ話しをしてくださいました。

討伐隊に参加した理由や、村で待っているミーシャという恋人の話。
彼をここまでの剣士に育て上げた師匠のお話。
彼の恋人の話を聞いた時はとても胸が痛みましたが、それでも彼が嬉しそうに話してくれるその笑顔がまぶしくて私からよく話をせがんだものです。
そんな関係を続けていくと彼の態度が少しづつ変わりはじめたのに気づきました。
ちょっと指が触れた時に耳を赤く染めたり、いつもは話してばかりの彼が私へ質問してきたり、ほんの些細な事ですがとても大きな事の様に感じました。
そしてもうすぐ旅が終えるという時です。

「ルージュ。俺は君の事をこの世界で一番愛している。どうかこの旅を終えたらこの俺と結婚してくれないか」

そういって私をまっすぐと見つめる彼。私は今まで感じた事のない様な幸福感と胸の高まりではしたないですが思わず彼へと抱き着いてしまいました。

それから王都へと無事帰還して手間取ると思っていた両親の説得もスムーズに進みました。

只一つ。帰ってからも気になっていたミーシャという彼の幼馴染の女性。
彼は私の不安な気持ちを察していたのでしょう。
私の手をそっと握りながら言いました。
彼女へは今後困る事はない程の金貨を送った事。
そしてこれを最後に二度と彼女と会う事はないとも。
私はその言葉を聞き唯々安堵し、そして胸のどこかで少しの罪悪感を感じるのを押し込めました。

それから彼と子供たちの暮らしはとても楽しく幸せな日々でした。
常に完璧を求めていた私はもういません。
失敗する事があっても彼がそばで支え見守ってくれますから。
そんな日々を過ごして何十年。
そろそろ自分の命が尽きようとしています。
人間は自分の死期を悟ると今までの人生を振り返ってしまう生き物の様です。
いくら振り返ってもやり直す事はできないのに・・・。


私は王都へ帰還したあの日。
すぐに聖女の力について調べました。
色々な文献を読み漁っているとそこに記されていた魅了の文字。
聖女は少なからず魅了の力を持っているのだと。
それは相手の些細な気持ちの起伏を読み取れたり、そしてそれに対応する順応性。
そして最後に聖女に愛する異性ができた時。
その異性を自分自身に魅了してしまう。
ただしその異性は一生のうちに一人だけ。


私はその一文を読み何故か胸がスッと軽くなりました。
今までのちょっとした違和感がはれたからでしょう。
聖女は相手の些細な気持ちを読み取れます。
彼女ミーシャの事を話す彼と、私と話す彼。
口角の上がり方だったり、目の下がり方や声のトーン。本当にちょっとした違和感でした。
でも私は絶対にこの真実を誰にも話す事はありません。






聖女の魅了が解けるのは、聖女の命尽きる時。
もしくは、聖女が自らのチカラを相手へ打ち明けた時だけ。





私はもうすぐ命尽きるでしょう。
その時貴方はまだ私を愛してくれているでしょうか。
願うのはいつまでも私の手を握り続けている貴方だけ。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

欲深い聖女のなれの果ては

あねもね
恋愛
ヴィオレーヌ・ランバルト公爵令嬢は婚約者の第二王子のアルバートと愛し合っていた。 その彼が王位第一継承者の座を得るために、探し出された聖女を伴って魔王討伐に出ると言う。 しかし王宮で準備期間中に聖女と惹かれ合い、恋仲になった様子を目撃してしまう。 これまで傍観していたヴィオレーヌは動くことを決意する。 ※2022年3月31日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)

蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。 聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。 愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。 いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。 ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。 それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。 心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。

出来損ないと言われて、国を追い出されました。魔物避けの効果も失われるので、魔物が押し寄せてきますが、頑張って倒してくださいね

猿喰 森繁
恋愛
「婚約破棄だ!」 広間に高らかに響く声。 私の婚約者であり、この国の王子である。 「そうですか」 「貴様は、魔法の一つもろくに使えないと聞く。そんな出来損ないは、俺にふさわしくない」 「… … …」 「よって、婚約は破棄だ!」 私は、周りを見渡す。 私を見下し、気持ち悪そうに見ているもの、冷ややかな笑いを浮かべているもの、私を守ってくれそうな人は、いないようだ。 「王様も同じ意見ということで、よろしいでしょうか?」 私のその言葉に王は言葉を返すでもなく、ただ一つ頷いた。それを確認して、私はため息をついた。たしかに私は魔法を使えない。魔力というものを持っていないからだ。 なにやら勘違いしているようだが、聖女は魔法なんて使えませんよ。

あなたが婚約破棄したいと言うから、聖女を代替わりしたんですよ?思い通りにならなくて残念でしたね

相馬香子
恋愛
わたくし、シャーミィは婚約者である第一王子のラクンボ様に、婚約破棄を要求されました。 新たに公爵令嬢のロデクシーナ様を婚約者に迎えたいそうです。 あなたのことは大嫌いだから構いませんが、わたくしこの国の聖女ですよ?聖女は王族に嫁ぐというこの国の慣例があるので、婚約破棄をするには聖女の代替わりが必要ですが? は?もたもたせずにとっととやれと? ・・・もげろ!

聖女に選ばれた令嬢は我が儘だと言われて苦笑する

しゃーりん
恋愛
聖女がいる国で子爵令嬢として暮らすアイビー。 聖女が亡くなると治癒魔法を使える女性の中から女神が次の聖女を選ぶと言われている。 その聖女に選ばれてしまったアイビーは、慣例で王太子殿下の婚約者にされそうになった。 だが、相思相愛の婚約者がいる王太子殿下の正妃になるのは避けたい。王太子妃教育も受けたくない。 アイビーは思った。王都に居ればいいのであれば王族と結婚する必要はないのでは?と。 65年ぶりの新聖女なのに対応がグダグダで放置され気味だし。 ならばと思い、言いたいことを言うと新聖女は我が儘だと言われるお話です。  

私は王子の婚約者にはなりたくありません。

黒蜜きな粉
恋愛
公爵令嬢との婚約を破棄し、異世界からやってきた聖女と結ばれた王子。 愛を誓い合い仲睦まじく過ごす二人。しかし、そのままハッピーエンドとはならなかった。 いつからか二人はすれ違い、愛はすっかり冷めてしまった。 そんな中、主人公のメリッサは留学先の学校の長期休暇で帰国。 父と共に招かれた夜会に顔を出すと、そこでなぜか王子に見染められてしまった。 しかも、公衆の面前で王子にキスをされ逃げられない状況になってしまう。 なんとしてもメリッサを新たな婚約者にしたい王子。 さっさと留学先に戻りたいメリッサ。 そこへ聖女があらわれて――   婚約破棄のその後に起きる物語

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

処理中です...