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ある騎士のお話
しおりを挟む私は今。
旦那様の依頼で旦那様の故郷である辺境の小さな村へ向かっている。
何故旦那様が今になって、旦那様が暮らしていたとされる家の調査を命じたのかはわからない。
奥様をなくされて、今になってもしかしたら里心がついたのかもしれない。
もうすぐ到着しようという時に、
小さな村には似つかわしくない大きな鐘を携えた神殿の様な建物が村の奥へと見えた。
周りの家と外観の差がありすぎて寧ろ異質の存在感を放っている程だ。
村人達も騎士が訪れるのは珍しいのだろう。
私が到着すると恐る恐るという様に声をかけてくる。
旦那様の事を告げると皆一様に瞳を輝かせると同時に、少し悲しい様に瞳を逸らすのだ。
そして村人へ案内してもらった旦那様の家へと向かうと、
そこはあの異質の存在感を放っていた神殿の様な建物へと案内された。
「ここが・・・?旦那様の育った家なのか?」
そう聞くと一人の年老いた村人が話してくれた。
ここは間違いなく2人の英雄様が暮らしていた家のあった場所でございます。
英雄様は一人の娘とその父親と一緒に暮らしておりました。
しかし父親はこの村を守る為、唯一人として魔物に立ち向かいそして命尽きてしまいました。
その後英雄様はこの国を守る為旅立たれ、今では皆がご存じの通りこの国を救ってくださったのです。
ですからここは、この村とこの国を救った二人が暮らしていた場所なのです。
「そうだったのか。それでその一人娘はどうしたのだ?」
娘は重い病を患っていたのです。
英雄様が旅だたれてから3年としばらく過ぎた時でしょうか。
いつも薬を届けていた娘が力尽きた彼女を見つけました。
その後すぐでございます。
英雄様から彼女宛への褒美が送られてきたのは。
きっと英雄様は彼女の病を救いたかったのでしょう。
私たちはその使者へ彼女が亡くなってしまったので受け取る相手がいなくなってしまった事を英雄様へお伝えする様お願いしましたが、この褒美を断る事は許さないと固く英雄様から言われていると聞き入れてもらえませんでした。
困った私たちは、勝手に使う事もできず。
せめて彼女達の為になる様に、彼女とその父親がいつまでも居心地良く眠りにつける様この納骨堂をつくったのです。今でもこの場所は私たちの英雄様とその娘が眠る場所として大事に大事にしております。
やはり旦那様は立派な人だ。
旦那様は故郷ではあまりいい思い出がないから誰にも話したがらないと聞いている。
きっと本当の両親がいらっしゃらなかった中で、お辛い生活だったのだろう。
それなのに国だけではなく自分に関わった者も救おうと手を差し伸べていらっしゃった。
残念ながら彼女の事は救えなかった様だが、それは旦那様のせいではない。
それに今ではあんなに立派な場所で眠りにつく事ができている。
普通の村、ましてやあんなに小さな村であれば火葬して家で遺骨を保存するか適当な場所へ埋めて弔うしかないであろうに。
私は村人からの話を報告書へとまとめ帰路を急ぐ事にした。
そしてこの報告書を提出してから翌日旦那様は奥様を追う様にしておなくなりになられた。
今でもこの国で英雄様と聖女様の運命の二人の事は有名だ。
運命の恋人と呼ばれあの二人に憧れるものは多い。
私もいつか旦那様の様に、生涯愛し続けられる様な素敵な女性へと出会えたらいいのだが。
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