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第三章・光と闇。闇と光

42・アユミ

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 ボラスディート……。ラウームが最後に呼んだ名前だ。そんなやつがサンブライト王国を乗っ取ってやがるってことか。

「古い書物には、ボラスディートは五百年前に討伐された、とある。完全にその崩壊させたと。けれど、奴の魂はしぶとく生き延び、サンブライト王国の当時の国王に乗り移ったと考えられているんだ。光の虹という謎の宗教もその時代の直後から書物に登場している。そして、リーシュ王国には彼の眷属、ラウームが入り込み、似た要領で力をつけていったというわけさ」
「で、でもよ、ならなんでこの五百年、大きな動きがなかったんだ?」
「当初は力を失っていたため、自然に人が死に、自身の力を蓄えていたのだと考えられているよ。もちろん、全てが記述と研究の通りとは思えないけれどね。そして、力が蓄えられた百年前あたりから、周辺国との戦争に積極的になってきた。より多くの力を手に入れるために、ね」

 なるほど。ラウームがボラスディートの名を口にしたこと、それに該当するような人物像と行動から考えると、サンブライト王国の国王以外は考えられねえってことか。

「そこでアルテリアでは、サンブライトとの間で長い期間摩擦が続いていたんだ」
「……確かに筋が通ってるな。倒さなきゃいけねえ敵が誰かははっきりした。次は属性についてだ。お前らは光属性はそういねえって言ってたがよ、ハーベストには沢山いんだよ。それに、俺のような闇属性も。だよな? ベルート」
「うん。僕は王都の生まれだからね。嫌ってほど光属性を見てきたよ。確かにハーベストには光属性とされる、強力な才能を持った人物が多数存在している」

 そうだ。それはこの目でも見てきたからな。まあ、俺はアユミとカルロくれえしかまともに会ったことねえが。それだけでも複数人存在することになる。

「それにもボラスディートが関係していると考えている。まず、君たちが光属性と呼んでる存在のほとんどは偽物だ」
「偽物!?」
「僕も遠目に見かけたことがあるけれどね、おそらく原因は、ボラスディートやラウームが国中に張った結界が原因だと思う」
「結界? 結界石とは違うのか?」
「結界石は魔物を近寄らせないようにする、普通に人間が作った文明の利器さ。だが、ボラスディートらが張った結界は違う。彼らは残った魔力のほとんどを消費して、都合のいい結界を張ったと考えられているんだ。その効果は二つ。一つは疑似的に能力の高い存在を生み出すこと。見せかけの光属性が生まれやすいような空間を創り出しているのさ。事実、僕は遠目にハーベストの光属性を見かけたことがあるけれど、その人物には虹の光を帯びたオーラの他に、禍々しい黒いオーラがまとわりついているように見えた。そのことから大半の光属性は偽物だと結論付けられているよ」


 ……ってことは、俺がちっせえころから憧れてきた王都に架かる虹は、全部偽物だったってことかよ。ちくしょう。

「だがよ、なんでそんなことすんだ? まがい物でもよ、光属性は奴にとって敵じゃねえか」
「まがい物ならボラスディートにとって脅威にはならないよ。それに、その地で生み出された偽の光属性が自然死すれば、奴には膨大な力が還元されることになる」
「なるほど。んで、もう一つってのは?」
「もう一つは意見が分かれるところなんだけれどね。それは君のような、闇属性の存在さ」

 ここで闇属性の出番か。アルテリアには闇属性は存在しねえらしい。これもボラスディートの結界が関係してるってことか。

「意見が割れているのは、何故闇属性が生まれるような国にしたのかってことさ。ここからは完全に憶測になる。一つは、特殊な力を持っている人物の魔力を生まれながら吸い取っている説があげられるね。光属性の自然死だけでは結界を維持する魔力を維持できず、生まれてからずっと魔力を吸い上げられているのが闇属性っていう説さ。この説が支持されているのは、ハーベストの国民の中で、闇属性の割合が一定数であることが挙げられている」
「……ってことは、本当は他の属性だったのが、奴に縛られて闇属性になっていたってことか」
「そういうことだね。次の説は、闇属性自体が結界を維持する役目をになっているという説だね。これも闇属性の人口が一定数だということが根拠になっている。ただ、結界によって闇属性になっているのに、闇属性が結界のよりしろになっているのは矛盾している、という反論もあるね」 
「……なんか、難しいな」
「賢人たちが何百年かけてもわからない話だからね。僕も正直何が正しくて何が間違っているのかわかっていないよ。話を続けると、他にも本当の光属性を生む人物の性質を奴が理解していて、その可能性がある人物を低い身分にして、子供を作ることを禁止しているっている話なんかもあるんだ。これらの説の一部か、複数が結界の理由として考えられている。こんなところかな」

 そうか……よくわかってねえところも沢山あるみたいだが、俺たち闇属性が奴によって不当に力を封じられていたのは確かみてえだな。正直……くそムカつく。

「それで、僕らが何をしてきたのか。そういった話もしなければいけないね」
「ラット君、僕は今まで君を騙していた。すまないね」
「わたしも。ごめんなさい」
「ザース、キャル……。お前らはハーベストで何をやっていたんだ?」
「わたしたちはね、ハーベストに潜入して、情報集めをしていたの。光属性や闇属性について、それから、王都の動きなんかをね」
「それから重要な任務がもう一つ。それは、アユミ様についてさ」
「アユミ?」

 なんでここでアユミが出てくるんだ? いや待て、ラウームとの戦いでレンドと合流したとき、アユミの名が出てたな……。まさか……。

「まさか、アユミは……」
「そう、彼女こそが本物の光属性さ」

 そうか、俺の勘は間違ってなかったのか。他の奴らとは違う。あいつだけが本当の光属性。本物の虹だと。

「だが、なんでアユミはハーベストにいるんだ? アルテリアの人間じゃねえのか?」
「彼女の生い立ちを話すと長くなるよ」

 それから、淡々と話は続いた。アユミはハーベストの闇属性同士の間に生まれた。もちろん闇属性同士の子作りは禁止事項だったため、すぐに親は殺されたそうだ。その子供であるアユミも同じ運命を辿るはずだったが……。なんの因果か、アユミは光属性。そのため、孤児みなしごの光属性として、王都の教会で育てられたそうだ。
 アユミが生まれてから数年後、その情報をつかんだアルテリアは潜入している密偵にアユミへ近づかせた。それはシュペールという人物。そう、今やアユミの側近だ。これで、何故初対面のときにアユミが家名を名乗らなかったのか、エイベルがアユミに対して「正当な光属性ではない」と陰口を叩いたのか説明がついた。
 アルテリアはその後、何度かアユミをアルテリアで保護すべきと考えたが、その行動はアユミの存在を目立たせ、アユミが本物の光属性だとボラスディートに説明しているようなものだという危惧があった。結局は木を隠すなら森の中という結論になったらしい。
 聞けば聞くほど、アユミのこれまでは茨の道だったと想像できる。正当な光属性ではない、そのくせ力を持っていることに対するねたみ、そねみは相当なものだったろう。そして、家族に囲まれ、恵まれた生活を送っている同胞を横目に、あいつは一人、光属性の重責を背負って生き抜いてきたことになる。
 そして、あいつが本当の光属性ということは、アユミこそがこの世界の救世主ということだ。そのすべてを聞き、理解した俺は一つの決断を下した。

「俺は、魔王になる。この世界を救う、救世主を手助けする、魔王にな」
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