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第二章 打倒、リーシュ王国

30・それぞれの力

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「これで三つの封印を突破したことになるね」
「……お前、一応俺なんだよな? 俺ってこんな声か? タコ助」
「うん、同じ~。でももう一人のラットの方が少し爽やかかな」
「んだと?」
「まあまあ、で、三つの封印っていうのは到達した部屋の数、ってことでいいのかな?」
「ああ、そうだよ。僕本来の力を最大限出すには、あといくつかの封印を突破しなければいけない」

 ……なんだかよ、俺自身と話すのはこう、むず痒いな。だが、これまでの謎を明らかにするためにはよ、できるだけ色々話しておかなきゃいけねえ。

「つーかよ、なんで残りの封印? の数がわからねんだよ」
「僕は生まれた時から君の封印の中にいたんだ。薄い意識の中。とにかく階段を降りなければってこと以外は何もわかっていなかった」
「ふう、そうかよ。あとよ、僕ってのやめろよ。俺の一人称は『俺』だぞ?」
「そんなことを言われても、今更変えられないよ」
「まあまあ」

 あー、変な感じだ。とりあえずこれからタコ助が色々聞いてくれればよ、これから俺がすべきことももっとわかるようになるだろうよ。

「そうそう。いや~、めでたしめでたしね!」

 声のするほうへ視線を移すと、妖精が飲み物片手にくつろいでやがる。

「……まーだいたのかセリーヌ」
「ひどっ! わたしのおかげでこの部屋に来られたんでしょう? ほら、感謝の言葉の一つくらいもらってあげてもいいわよ」
「うん、ありがとうな。じゃあ、帰っていいぞ~」
「こら! っていうか、わたし決めたの。しばらくここに住むわ!」
「はぁ!?」
「なによその顔。とっても面白いわよ~」
「もう一人の僕、彼女がいてくれた方が、今後どうするべきかも見えやすいはずだよ。それに、妖精が近くにいることは、大いなる加護を得ることになる」
「お、こっちはよくわかってるわね。心なしか、爽やか君の方がイケメンね」
「はははっ」

 なーにが「はははっ」だ! べルートみてえに爽やかに笑ってんじゃねえぞ、俺!

「まあまあラット。まだまだ謎も多いし、ぼくちゃんがもう一人のラットとセリーヌと色々話しておくからさ」
「……まあ、タコ助がそこまで言うなら」
「きーまりー!!」

 この妖精、絶対暇つぶしだろ。って、ん? なんか、メルリからもらった絵が光ってるような……。

「あ、もう時間みたいだね。ラット! 戦いでは無理しないようにね!」

 ――。ん? なんだここ。

「おーい、闇属性の兄ちゃん、川の中でなーにやってんだ?」
「え?」

 ……最悪だ。水を汲みに来てたはずが、いつの間にやら川の中に……。

「ちょ、ちょっとその、暑いから水でも浴びようかってな」
「そうかー、風邪ひくなよ~」

 ……最悪だ。びっちょびちょじゃねえか。だが、幸い時間はあまり経っていねえみたいだ。それによ……また体をすげえ充実感が支配してやがる。やっぱりよ、あの部屋は相当やべえよ。随分強くなったつもりでいたが、こりゃあまた別人だ。でもよ、強くなったからこそ差がわかる。アユミ、レンド、クレアにはまだ勝てねえ。これまでは差がありすぎてわからなかったがよ、今はだいぶくっきりわかる。遠くから見た霧がかった山はどれくらいの高さかわからんが、近づくにつれその大きさがわかってくる。そんな感じなのかもな。

「水汲みお疲れ様~、もういいわよ」

 キャルにそういわれる頃には、飯の準備がしっかりできていた。いやー、これがまたうめえんだわ。そんなに上等な肉じゃねえんだろうけどよ、こうやって外で焼いて食うのは別格だよなあ。お、メルリももりもり食ってやがる。あいつ、あんなに大食いだったか? ま、気持ちはわかるけどよ。

「なんか私、今日はすっごいお腹減っちゃって。と、止まらないの」

 あーあー、品もなんもあったもんじゃねえな。つーか、俺より食ってねえか?

「ねえ、ラット。なんかわたし、今日、変」
「そうだな、そんなに食ったら太るぞ」
「土ゲンコツ!」
「あだっ!」

 な、なんか前より強くなってねえか? 土の塊。

「違うわよ。なんか、力があふれ出てくるの。魔物と戦ったりしたわけでもないのにね」
「へ、へぇー、不思議なこともあるもんだな」

 完全にさっきの部屋が原因だ。絵が光ってたからな。俺の部屋がさらに力を解放されたことで、メルリにまで影響が出ちまったのかもしれねえ。まあ、メルリの力が伸びたこと自体は悪いことじゃねえからな。補給部隊とはいえ、戦う可能性はゼロじゃねえんだし。

 次の日、俺らは早速空の馬車を飛ばして、土と水の村まで補給物資を受け取りにいくことになった。朝偶然アユミに会ったからよ、思わず「俺も前線に入れてくれねえか?」と聞いちまったが「あのねぇ、訓練もせずに連携がとれるわけないでしょ。だいたいラットはさ、それでなくてもそういうのが苦手なんだから」とあしらわれた。ま、ダメ元だったからいいけどよ。

「意外ね、ラットって馬車を運転できるんだ」

 メルリが目を丸くしていやがる。

「いや、やったことねえけどよ、動物は生まれた頃から周りにいるからな。どうすりゃいいのかわかんだよ」
「へー、そういうもんなのね」

 確かに馬を扱ったことはねえし、自分でも驚いているがな。

「つーか暇だな~。戦況がわからねえのはキツイぜ」
「そうだね。まあ、こっちの方が今のところは安全だけど」

 そんな話をしていると、なんだか頭に違和感が出てきた。なんだ? この感じ。馬を操縦しながら意識を少し集中してみる。

(あ、通じた通じた。もっしー、わたしよ)
「セリーヌ!?」
「うわ、何!?」

 メルリが馬車から転げ落ちそうになる。そうか、この声は俺にしか聞こえてねえのか。

「わ、わりい」
「……誰よ、その女」
「い、いや、ほら、俺もなんか必殺技を持っておこうかなってよ」
「ふ~ん……だとしたらその技名はセンスないわね」

 このクソチビ。お前の土パンチやら土キックよりはマシだっつーの。まあ、こいつは置いておいて、また頭に集中する。

(セリーヌ、聞こえるか?)
(うん。あんたさっき、戦いがどうなってるか聞きたいって思ってたでしょ?)
(まあな。前線に来てすぐ離れるのはなんか、な)
(なら、わたしが教えてあげるわ。他の妖精も退屈みたいでね、戦いを見物してるのが多いのよ~。わたしたち妖精は、お互いに心の一部が繋がってるからね)
(マジか!? 助かる)

 俺が初めて体験する大きな戦争。どうやらその全貌が明らかになるようだ。
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