上 下
23 / 48
第一章 運命に抗うドブネズミ

23・二つの真実

しおりを挟む
 なんてこった。ライオンと鬼ごっこしてるうちに、俺らは南の国境沿いまで来ちまってたらしい。

「じゃあよ、ここら辺にお互いの砦があんのか? よく小競り合いが起きてるって」
「うーん、ここより東と西にはあるね。でも、どちらも樹海の影響が薄くなっている場所さ。正直、この辺りは魔物が多すぎて、一般兵だと敵国と戦うどころじゃなくなるからね」

 確かに、俺たちはライオンから逃げるためにかなりの速さで素通りさせてもらったが、ゆっくりお散歩でもしようもんなら、他の魔物と戦うことになってたかもしれねえ。

「なあ、俺はその、国とか政治とかには詳しくねえんだがよ。なんでアルテリア王国はハーベストを攻めるんだ?」
「ん? ……それは聞き捨てならないね。先に仕掛けてきたのはハーベストだよ」
「え?」

 俺が聞いた話では、南からアルテリアが攻めてくるから、その防備として騎士団が砦に入ってるって話だった。

「……なるほどね。ハーベストでは国民向けにそういった宣伝をしているわけだ。でもね、ラット君。この大樹海の北、つまり君たちの国の領土だね。そのあたりも昔は魔物が少なく、他の少数民族の小さな集落が沢山あったんだよ。我々の国に当時の交流の文献なんかが残ってる。けれど、武力でハーベストが領土を拡大してしまったんだ。それからだよ、樹海に強い魔物が一気に増えたのは。一説には、少数民族の呪いって話もあるんだ」

 とても信じられねえ話だった。だが、クレアの方へ視線を移しても、頷くばかりだ。少なくとも、レンドが今作った話をしているわけではなさそうだな。だが、とても信じられねえ。

「んで、あんたらは一体ここで何をしてんだ?」
「んー、まあ、軍の機密事項は話せないけれど、それ以外なら。僕ら兄弟の任務はこの周辺一帯の魔物の調査さ。最近さらに数が増えてきてね。国に被害が出ないよう、駆除もある程度はする」
「そうか、まあ、風と火の属性ならよ、倍率も高えし、やられる心配はないってか」
「ん? ああ、属性の倍率……ね。そちらでは属性によって倍率に差があるんだったね。こちらにはそんなものないけど」
「……は?」

 思わずメルリと目を合わせる。いやいや、そんなわけねえだろ。まだ戦争でどっちが悪いなんて認識がズレんのはわかるがよ、属性の性質に違いがあるはずがねえ。

「はっきり言うよ。君たちは騙されている。属性に違いはない。本人の素質と努力。そういったものが合わさって実力はきまっていくんだ」
「いや、いやいや。それだけはありえねえよ。事実、俺の国では闇属性は明らかに弱え。そんで、光属性はとんでもねえ強さだ」

 今度はレンドがクレアと目を合わせ「やれやれ」とでも言いたそうな呆れ顔をしてやがる。

「闇属性の人間なんて、存在しないよ。少なくとも、アルテリアではね」

 ……な、なに言ってやがんだこいつ。だってよ、俺は確かに闇の力を使ってるしよ、家族はみんな闇属性だぜ?

「あのね、ラット君。光属性も、伝説になるくらい珍しい存在なの。闇属性は、魔物専用の属性よ」
「ま、待ってくれ。話が見えねえ。お、俺が魔物に見えるか?」
「いやまったく。ただ、闇属性なんてものは感じないな」
「そうね」

 なんだ? おかしいぞこれ。あっ!

「そ、そうだ。俺はリーシュ王国の連中と戦ったことがあるんだが、あいつらも俺を見て闇属性って言ってたぞ」
「リーシュも君たちの国と同じさ。何かに騙されている」

 あー、話になんねえ。騙されてんのはそっちじゃねえか?

「それだけじゃねえぞ。光属性は知り合いにいる。あいつは、アユミはものすごい力を持ってるのが俺にもわかった」

  レンドとクレアがわずかに反応しやがった。なんだ? アユミのことか?

「まあ、他のやつは会ったことがねえからわからねえがよ、あいつは本物だ。間違いねえよ」
「そうか、ありがとう。僕らも国も、まだまだ勉強不足なところがあるからね。ラット君の話は興味深いよ」
「え? お、おう。そうか」

 そこで話はお開きになった。俺たちは一泊することを許され、飯や風呂までご馳走になっちまった。ちなみに、この家の地下にはでっけえ結果石があるらしい。敷地を出ない限り、魔物に襲われることはないんだと。そんで、明日の朝、これからどうするかを話し合うことになった。
 ふかふかのベッドに横たわるが、どうにも頭がうまく回らねえ。どう考えてもおかしな話だったがよ、それでもあいつらが嘘をついているって感覚が持てねえ。

「ラット。ちょっと来て」

 ――。はぁ、もう慣れたぜ兄弟。いや、むしろ俺は話したかったんだ。

「ぼくちゃんにも聞こえてきたよ、さっきの話」
「え、そんなに鮮明にわかるもんなのか?」
「あれだよ、壁に耳をつけるとさ、隣の部屋の声が少し聞こえるでしょ? そんな感じ」
「ああ、なるほど。んで、タコ助どう思う?」
「う~ん……すべてが嘘ではない、気がするかな」

 俺も思わず頷く。そうなんだよ、変な感覚だ。

「特にさぁ、闇属性なんてものはないってとこ。ここは一番引っかかるかな~。なんていうか、そこにできてる階段の先にはさ、ラットの本当の力が眠ってるんじゃないかって思うんだよ。そう思わせてるのは彼の存在だけれどね~」

 もう一人の俺はだんまりを決め込んでやがるが、確かにこいつは先にある何かを求めている。そんで、階段を降りれば降りるほどに俺の力は伸びている。もちろん、これだけで全てがわかるわけじゃあねえが、そう考えたくもなるぜ。

「アユミについてはどうだ? 光属性なんてものはそうそうねえって言ってたが」
「そうだねぇ。事実だけを並べるなら、ハーベスト王国には光属性と呼ばれる人物が王都にいて、彼らはとても強い力を持っているってこと。ただ、それに反論するなら、僕らの思ってる光属性とアルテリア王国の言う光属性が別物って可能性がある。そんな感じかな」
「……ああ。そうだな。ま、沢山の光属性に会ってみなけりゃわかんねえって話か」
「ぼくちゃんもそう思う。あ、そうだ、階段。また行き止まりまで行ったみたいだよ。ペース早いね~」
「マジか」

 実際に見てみると、確かに途中で途切れてやがる。前回はかなり戦わねえと行き止まりまで行けなかったがよ、ライオンと戦ったせいか? まあ、なんにせよまた壁にぶち当たったみてえだ。それによ……。

「崖、だよね」
「崖、だな」

 今回は途切れた真下に部屋の入り口が見える。だがよ、ここから落ちたらさすがに死ぬ。まあ、肉体がないからどうなるかわかんねえけど、試すのも相当危険だ。

「また、何かのきっかけがあるまでは進めないかもね」
「そうだな。町に戻ったらよ、またメルリに絵を描いてもらうか」
「ああ、試す価値はあるかもね~。とにかく今は、無事戻ることを優先してね」
「わかった」

 ――。また朝か。体は……おう、一応全回復してんな。階段を降りるごとに回復力も増してる気がするぜ。よし、まずはあのライオンを避けるなり倒すなりする手段を考えねえとな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

たとえばこんな異世界ライフ

れのひと
ファンタジー
初めまして、白石 直人15歳! 誕生日の朝に部屋の扉を開けたら別の世界がまっていた。 「夢ってたのしー!」 ……え?夢だよね?? 気がついたら知らない場所にいた直人は夢なのか現実なのかわからないままとりあえず流されるままそこでの生活を続けていくことになった。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

神聖国 ―竜の名を冠する者―

あらかわ
ファンタジー
アステラ公国、そこは貴族が治める竜の伝説が残る世界。 無作為に村や街を襲撃し、虐殺を繰り返す《アノニマス》と呼ばれる魔法を扱う集団に家族と左目を奪われた少年は、戦う道を選ぶ。 対抗組織《クエレブレ》の新リーダーを務めることとなった心優しい少年テイトは、自分と同じく魔法強化の刺青を入れた 《竜の子》であり記憶喪失の美しい少女、レンリ 元研究者であり強力な魔道士、シン 二人と出会い、《アノニマス》との戦いを終わらせるべく奔走する。 新たな出会いと別れを繰り返し、それぞれの想いは交錯して、成長していく。 これは、守るために戦うことを選んだ者達の物語。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

ストロベリーファンド ~はずれスキルの空間魔法で建国!? それ、なんて無理ゲー?~

Red
ファンタジー
綿貫真司、16歳。養護施設出身という事を覗けば、何処にでもいるごく普通の高校生だ。 ある日、いつもと変わらない日常を送っていたはずの真司だが、目覚めたら異世界にいた。 一般的な高校生の真司としては、ラノベなどで良くある、異世界に転移されたという事を理解するが、異世界転移ものにありがちな「チートスキル」らしきものがない事に項垂れる。  しかし、ない物ねだりをしても仕方がないという事で、前向きに生きていこうと思った矢先、|金銀虹彩《ヘテロクロミア》を持つ少女、エルに出会い、望んでもいないのにトラブルに巻き込まれていく。 その後、自分が1000万人に1人いるかいないか、といわれる全属性持ちだという事を知るが、この世界では、属性が多ければ良いという事ではないらしいと告げられる。 その言葉を裏付けるかのように、実際に真司が使えたのは各種初級魔法程度だった。 折角チートっぽい能力が……と項垂れる真司に追い打ちをかけるかの様に、目覚めたチート能力が空間魔法。 人族で使えたのは伝説の大魔導師のみと言うこの魔法。 期待に胸を躍らせる真司だが、魔力消費量が半端ないくせに、転移は1M程度、斬り裂く力は10㎝程度の傷をつけるだけ……何とか実用に耐えそうなのは収納のみと言うショボさ。 平和ボケした日本で育った一介の高校生が国家規模の陰謀に巻き込まれる。  このしょぼい空間魔法で乗り越えることが出来るのか?

金髪エルフ騎士(♀)の受難曲(パッション)

ももちく
ファンタジー
 ここはエイコー大陸の西:ポメラニア帝国。賢帝と名高い 第14代 シヴァ帝が治めていた。 しかし、かの|帝《みかど》は政変に巻き込まれ、命を落としてしまう。  シヴァ帝亡き後、次に|帝《みかど》の玉座に座ったのは、第1皇女であったメアリー=フランダール。  彼女もまた、政変に巻き込まれ、命の危機にあったのだが、始祖神:S.N.O.Jがこの世に再降臨を果たし、彼女を危機から救うのであった。  ポメラニア帝国はこの政変で、先代のシヴァ帝だけでなく、宰相:ツナ=ヨッシー、大将軍:ドーベル=マンベルまでもが儚く命を散らす。 これはポメラニア帝国にとって痛手であった。ポメラニア帝国は代々、周辺国をまとめ上げる役目を担ってきた。 そのポメラニア帝国の弱体は、すなわち、エイコー大陸の平和が後退したことでもあった。  そんな情勢もあってか、本編のヒロインであるアキヅキ=シュレインが東国のショウド国との国境線近くの砦に配置転換される辞令が宮廷から下されることになる。  渋々ながら辞令を承諾したアキヅキ=シュレインはゼーガン砦に向かう。だがその砦に到着したこの日から、彼女にとっての『受難』の始まりであった……。  彼女は【運命】と言う言葉が嫌いだ。 【運命】の一言で片づけられるのを良しとしない。  彼女は唇を血が滲むほどに噛みしめて、恥辱に耐えようとしている時、彼女の前に見慣れぬ甲冑姿の男が現れる……。  のちにポメラニア帝国が属するエイコー大陸で『|愛と勝利の女神《アフロディーテ》』として多くの人々に讃えられる女性:アキヅキ=シュレインの物語が今始まる!

プロクラトル

たくち
ファンタジー
1つの世界が作られた、「最後に残った物にこの世界を任せよう」 選ばれた7人の神は互いに使徒を生み出し、争いを始めた。 100年にも及ぶ戦争は決着がつかず、大規模な戦争により世界は崩壊の危機にあった。 「仕方ない世界を7つに分けようか」 神の1人が言った。長い戦いに疲弊していた7人の神は最後の力を使い世界を7つに分けルールを作った。 一、神本人同士では争わない 二、証を作り、7つの証を集めたものが勝者となる 三、証を集めるのは代行者が行い、7つ集めた者の願いを叶える 世界は崩壊を免れ、争いの火種は鎮火した。 しかし、1人の神だけは唯一の支配者となる事を諦めていなかった。 これは、願いを叶えるため代行者なり、神々への挑戦者となった1人の少年の物語。 【ご注意】 初めてのものになるので、読みづらかったり、変な所が出てきてしまうと思います。ご了承下さい。 感想や評価などしていただけたら嬉しいです それではよろしくお願いします。

処理中です...