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悪役領主はひれ伏さない
第61話 誰にでも優しいぞ?
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「なんでそんなに刺されるのよ」
「あー、自分、一人とだけ付き合えないんスよ。それで、別の女と会ってる時、後ろからプスッと。自分、愛が多いタイプなんで!」
「最低《クズ》だな」
「最低《クズ》ね」
「酷いっス!」
盾じゃなくてクズだった。
くそっ。
俺なんて日本でも恋人出来たことないってのにッ!!
やっぱ、トモエにぶつけてサクッと消すか……。
「そんで、刺されまくってるうちに、少しずつ硬くなっていったっス」
刺された時にスキルに覚醒たんだろうな。
若い頃から遊んでそうだし、命をかけて基礎値が上がって、スキルも獲得して、どんどん硬くなっていったと。
これなら心置きなく盾に出来るし、結果消えても心がちっとも痛まない。
こいつをスカウトしたユルゲンはさすがだな。
帰ったらボーナスを上げよう。
村を出て南下すると、遠くに国境の砦が見えた。
あそこを越えると、イングラム王国だ。
……あっ、そういえば、
「国境を越える時は身分証って必要なのか?」
「もちろん。……まさか、忘れたわけじゃないでしょうね?」
「…………」
やっべぇ!
プロデニだと国境越えるのに身分証いらないから、すっかり忘れてた!
国を超えるんだから当然身分証くらい必要だよな。
リアルでもそうだったし。
くっそ、なんで忘れてたんだよ俺……。
無いとは思いつつも、俺は鞄の中に手を入れる。
――おっ? なんかカードがある。
「……これ、でいいのか?」
「あら、持ってるんじゃない」
身分証があった。
初めて見るアイテムだな。
鉄の板に必要事項がいろいろ刻まれてる。
名前:エルヴィン
出身国:アドレア王国
出身地:名もなき村
父:ラーファ 母:ミレド
――偽造かよ!!
これ作ったのユルゲンか?
なんで両親が音階なんだよ!
適当にも程があるだろ。
……まあいいわ。
ユルゲンが作った身分証なら、名前が雑でも国境を通れるだろ。
裏社会じゃ偽造技術が発展してそうだしな。
もうすぐ砦に着くという時だった。
後ろから、強い殺気を感じた。
「――くそっ、追いつかれたか!」
素早くこちらに近づいてくるトモエの姿を発見した。
まだ一キロは離れてそうなのに殺気を感じるって、どんだけ殺る気満々なんだよ……。
それにしても、かなり足早いな。
ここから走っても、入国審査に間に合わないか……?
ちょっとギリギリだな。
「あの女、めっちゃ美人っスね!」
「……お前、あいつと踊ってみるか?」
「おっ、いいんスか!?」
許可を出すと同時にジェイがトモエに突っ込んだ。
ジェイを見捨ててすぐに砦に向かいたい……が、妙な胸騒ぎを覚えた。
飛び出していったジェイからは、気迫めいたものが一切ない。
『踊る』は『戦う』って意味で使ったんだが、まさかあいつ、本当に踊りに誘うつもりじゃないよな?
視線の先で、ジェイとトモエがいよいよ接敵する。
「へいへい、そこの美人さん。俺と一緒に踊らない?」
「…………」
ガクッと崩れ落ちそうになる俺を、大貴族の呪縛ががっちり支えた。
バカだ。
ものすごいバカがいる。
「なんでアイツを連れて来たの?」
「……知らん」
今となってはちっとも思い出せない。
進路を遮られたトモエが、刀を抜いて問答無用でジェイを切りつけた。
「――ウェイッ!?」
あっ、すっ飛んだ。
まるでダンプカーに跳ねられたみたいに飛んだな。
「よし、逃げるか」
「アレはいいの? 一応仲間なんでしょ?」
「ん? 知らない奴だな」
「……鬼ね」
「冗談だぞ?」
だからそう睨むなよ。
「だったら助けに行ったほうがいいんじゃないの?」
「アイツはたぶん無傷だぞ」
「えっ、そうなの?」
「考えてもみろ、刀で斬られたのにすっ飛ぶ奴があるか」
「……あっ、それもそうね」
トモエは間違いなく、刃のある方でジェイを斬った。
それなのに飛んだのは、ジェイの体が刃による切断をガードしたから。
殺しきれなかった衝撃によりすっ飛んだのだ。
脳筋ルートのヒロインは伊達じゃない。
レベル99のトモエなんて、いくら刃が通じなくても、ゴリラのフルスイングを受けるようなもんだからな。
「それじゃあ――」
「ああ。囮が役目を果たした今がチャンス。逃げるぞ」
互いに頷き回れ右。
素早く国境に向けて走り出した。
後ろからは「待て、待つのだ! フヒヒ!」と聞こえるが、誰が待つもんか。
いくら追いかけてくるのが絶世の美女でも、斬殺の未来が待っているなら足を止めるバカなんてこの世にいな――あっ、いたな、バカ。
すっ飛んだけど。
「ねえ、エルヴィン」
「なんだ?」
「あのトモエって女の人、倒したほうが安全なんじゃない?」
「それは、そうなんだがな」
確かに、トモエルートは何度もクリアした。
いくら同じレベルだとはいっても、全く負ける気はしない。
だがそれはあくまでゲームの中で、だ。
あれだけ殺意をむき出しにして、イった目で斬りかかられたらヒュンってなるんだよ。
どこが、とは言わないが……。
ゲームとリアルは違う。
いくら倒す術があっても、〝圧〟がある相手は怖い。
対人なら特に、だ。
(※ただし勇者は除く)
それに、トモエは倒したら倒したで、また面倒なんだよ……。
「あら、珍しく優しいのね」
「俺はいつも、誰にでも優しいぞ?」
「誰にでも? へぇ、ふぅん……」
おい、なんで不機嫌になってんだよ。
わけわからん。
「あー、自分、一人とだけ付き合えないんスよ。それで、別の女と会ってる時、後ろからプスッと。自分、愛が多いタイプなんで!」
「最低《クズ》だな」
「最低《クズ》ね」
「酷いっス!」
盾じゃなくてクズだった。
くそっ。
俺なんて日本でも恋人出来たことないってのにッ!!
やっぱ、トモエにぶつけてサクッと消すか……。
「そんで、刺されまくってるうちに、少しずつ硬くなっていったっス」
刺された時にスキルに覚醒たんだろうな。
若い頃から遊んでそうだし、命をかけて基礎値が上がって、スキルも獲得して、どんどん硬くなっていったと。
これなら心置きなく盾に出来るし、結果消えても心がちっとも痛まない。
こいつをスカウトしたユルゲンはさすがだな。
帰ったらボーナスを上げよう。
村を出て南下すると、遠くに国境の砦が見えた。
あそこを越えると、イングラム王国だ。
……あっ、そういえば、
「国境を越える時は身分証って必要なのか?」
「もちろん。……まさか、忘れたわけじゃないでしょうね?」
「…………」
やっべぇ!
プロデニだと国境越えるのに身分証いらないから、すっかり忘れてた!
国を超えるんだから当然身分証くらい必要だよな。
リアルでもそうだったし。
くっそ、なんで忘れてたんだよ俺……。
無いとは思いつつも、俺は鞄の中に手を入れる。
――おっ? なんかカードがある。
「……これ、でいいのか?」
「あら、持ってるんじゃない」
身分証があった。
初めて見るアイテムだな。
鉄の板に必要事項がいろいろ刻まれてる。
名前:エルヴィン
出身国:アドレア王国
出身地:名もなき村
父:ラーファ 母:ミレド
――偽造かよ!!
これ作ったのユルゲンか?
なんで両親が音階なんだよ!
適当にも程があるだろ。
……まあいいわ。
ユルゲンが作った身分証なら、名前が雑でも国境を通れるだろ。
裏社会じゃ偽造技術が発展してそうだしな。
もうすぐ砦に着くという時だった。
後ろから、強い殺気を感じた。
「――くそっ、追いつかれたか!」
素早くこちらに近づいてくるトモエの姿を発見した。
まだ一キロは離れてそうなのに殺気を感じるって、どんだけ殺る気満々なんだよ……。
それにしても、かなり足早いな。
ここから走っても、入国審査に間に合わないか……?
ちょっとギリギリだな。
「あの女、めっちゃ美人っスね!」
「……お前、あいつと踊ってみるか?」
「おっ、いいんスか!?」
許可を出すと同時にジェイがトモエに突っ込んだ。
ジェイを見捨ててすぐに砦に向かいたい……が、妙な胸騒ぎを覚えた。
飛び出していったジェイからは、気迫めいたものが一切ない。
『踊る』は『戦う』って意味で使ったんだが、まさかあいつ、本当に踊りに誘うつもりじゃないよな?
視線の先で、ジェイとトモエがいよいよ接敵する。
「へいへい、そこの美人さん。俺と一緒に踊らない?」
「…………」
ガクッと崩れ落ちそうになる俺を、大貴族の呪縛ががっちり支えた。
バカだ。
ものすごいバカがいる。
「なんでアイツを連れて来たの?」
「……知らん」
今となってはちっとも思い出せない。
進路を遮られたトモエが、刀を抜いて問答無用でジェイを切りつけた。
「――ウェイッ!?」
あっ、すっ飛んだ。
まるでダンプカーに跳ねられたみたいに飛んだな。
「よし、逃げるか」
「アレはいいの? 一応仲間なんでしょ?」
「ん? 知らない奴だな」
「……鬼ね」
「冗談だぞ?」
だからそう睨むなよ。
「だったら助けに行ったほうがいいんじゃないの?」
「アイツはたぶん無傷だぞ」
「えっ、そうなの?」
「考えてもみろ、刀で斬られたのにすっ飛ぶ奴があるか」
「……あっ、それもそうね」
トモエは間違いなく、刃のある方でジェイを斬った。
それなのに飛んだのは、ジェイの体が刃による切断をガードしたから。
殺しきれなかった衝撃によりすっ飛んだのだ。
脳筋ルートのヒロインは伊達じゃない。
レベル99のトモエなんて、いくら刃が通じなくても、ゴリラのフルスイングを受けるようなもんだからな。
「それじゃあ――」
「ああ。囮が役目を果たした今がチャンス。逃げるぞ」
互いに頷き回れ右。
素早く国境に向けて走り出した。
後ろからは「待て、待つのだ! フヒヒ!」と聞こえるが、誰が待つもんか。
いくら追いかけてくるのが絶世の美女でも、斬殺の未来が待っているなら足を止めるバカなんてこの世にいな――あっ、いたな、バカ。
すっ飛んだけど。
「ねえ、エルヴィン」
「なんだ?」
「あのトモエって女の人、倒したほうが安全なんじゃない?」
「それは、そうなんだがな」
確かに、トモエルートは何度もクリアした。
いくら同じレベルだとはいっても、全く負ける気はしない。
だがそれはあくまでゲームの中で、だ。
あれだけ殺意をむき出しにして、イった目で斬りかかられたらヒュンってなるんだよ。
どこが、とは言わないが……。
ゲームとリアルは違う。
いくら倒す術があっても、〝圧〟がある相手は怖い。
対人なら特に、だ。
(※ただし勇者は除く)
それに、トモエは倒したら倒したで、また面倒なんだよ……。
「あら、珍しく優しいのね」
「俺はいつも、誰にでも優しいぞ?」
「誰にでも? へぇ、ふぅん……」
おい、なんで不機嫌になってんだよ。
わけわからん。
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