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悪役領主はひれ伏さない
第60話 よくさされる
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これまで、遺跡の開拓は極秘裏に行ってきた。
勇者とか国に気取られるとまずいからな。
だけど、遺跡に直接物資を送ると、輸送ルートを見ただけで大規模な開発やってるってバレる。
かつてエレン・ヴァルトナーが化粧水の材料を見抜いたようにな。
商人の行き来が激しいこの場所に村があれば、物資を積んだ商人が来ても自然だし、この村で積載物資の中身が変わったとしても、誰も確かめる手段がない。
つまり、遺跡への資材搬入を誤魔化すために、この村は作られたんだ。
そして今も中継地点として活躍中と。
村の商店に並んだ、あの異様な数の食料や日用品は、いずれファンケルベルクの街に行くはずだ。
腐った食料は廃棄したとかなんとか理由を付けて、な。
さらに、それだけじゃここにいる人間は暮らせないから、宿とか色で稼いでると。
考えられてるなあ。
まさか、遺跡を開発したいって言っただけで、ここまで大がかりな仕掛けが生まれるとは思わなかった。
「そ、その他、新人キョウイクや商人からの諜報など、すべて順調でございます」
「わー黒いなー、真っ黒だぁ」
ニーナの視線が冷たい。
なんか、どっと疲れが……。
もう帰りたい。
俺が打ちひしがれている時、扉が音を立てて開かれた。
「チョリーッス、そんちょ、よんだ?」
耳にピアスを付けた無精髭の青年が現われた。
すげぇ、この下品な挨拶久しぶりに聞いた。
チョリーッスって言う奴、この世に存在するんだな。
挨拶は下品なのに、顔はすごいイケメンだ。
それに、大人の色香がすごい。
若いのに渋いというか、すべてを許してくれそうというか。
こいつ、きっと片手じゃ収まらないくらいの女性を泣かせてるぞ。
「ジェイ、陛下の御前だぞ。少し慎んでくれ!」
「陛下? おお、エルヴィン様、ハジァーシテ。おれ、ジェイっス。宜しくっス」
「……う、うむ」
はじぁーして?
ああ、初めましてか。
一瞬なに言ってるのかわからんかった。
っていうか村長、陛下っていうのやめて。
背中がぞわぞわするから……。
「エルヴィン様、こやつをお供に付けていただけませんか」
「……は?」
嫌だけど?
「お気持ちは十分理解出来ますが、先ほどユルゲン様から伝書鳩が届きまして……」
おいユルゲン、なんでこんな奴付けようと思ったんだよ……。
「こう見えて盾役としては非常に優秀でございます!」
「ほう……」
「ですので、何卒……」
盾役なら普通にほしい。
ただし、その盾役が裏切り者でなければ、だ。
俺は込めた魔力に命令を飛ばす。
足の下の影がもぞもぞ動いて、ジェイに伸びる。
「うへっ、なんだこれ気持ちわるっ」
ジェイは避けるが、影からは逃れられない。
俺の影がもぞもぞ動く。
だが、そこまでだった。
影は盛り上がらず、元の形に戻った。
ほう。
こんな軽薄な挨拶しか出来ないから、中身もスカスカかと思いきや、忠誠心はちゃんと備わっているみたいだな。
これなら裏切られることはなさそうだ。
絶体絶命のピンチに逃走するパターンはあるかもしれないけど。
でも、足手まといになるよりかは、どこぞに消えてくれたほうがまだマシだ。
「たしかに、ジェイは受け取った」
「あ、ありがたき幸せ。どうかジェイめを、使い潰してやってください」
「いやそんちょ、勝手に潰そうとするなッス」
悪いなジェイ。
丁度(トモエ用の)盾が欲しかったところなんだ。
潰れないよう、頑張ってくれ。
心の中では応援してるぞ。
さて、ジェイを連れていくのはいいが、性能がまったくわからんな。
こいつ、プロデニ本編には出てこなかったからなあ。
「ねえ、本当に連れていくの?」
「遠慮したいが、まあ使い道もあるからな。あの女にぶつけるとか――」
「鬼ね」
「冗談だぞ?」
「嘘おっしゃい。今本気だったでしょ」
バレたか。
いや、冗談だぞ。
だってトモエにぶつけて秒で切り刻まれる未来しか見えないもん。
それはさすがに可哀想だ。
一応、念のために盾としての性能だけは聞いておくか。
「ジェイ。正直なところ、お前はどの程度盾として使えるのだ?」
「んー、結構使えると思うっス」
「……具体的に頼む」
「ユルゲン様の攻撃くらいなら無傷っスね」
えっ、普通に凄いな。
びっくりだわ。
ユルゲンが戦ってるところを一度も見たことないけど、雰囲気バリバリ強キャラだからな。
そもそも、ファンケルベルク使用人のトップ3の一人が、弱いはずがない。
その攻撃を食らっても『耐えられる』じゃなくて『無傷』って言い切ったところが、なお凄い。
「あの男の攻撃を無傷って、凄いわね」
「む、ニーナはユルゲンに会ったことがあるのか?」
「ええ。教会に物資を届けに、何度かね。戦ってるところは見たことないけど、強さはわかるわよ」
「なるほど」
それなら聖女の驚きも納得だ。
アイツ、顔といい雰囲気といい、殺戮兵器としか思えないからな。
「ならばジェイは相当強いのだな」
「いやいや、全然強くないっスよ? 自分、攻撃はからっきしっス」
ほう、防御特化型なのか。
プロデニのメインキャラにはいなかったタイプだ。
「何故そこまで硬くなったのだ?」
「毎回、付き合う女にサされまくるからっスかねぇ」
なに『授業中先生によく当てられる』みたいなノリで、さらっと怖いこと言ってんの?
勇者とか国に気取られるとまずいからな。
だけど、遺跡に直接物資を送ると、輸送ルートを見ただけで大規模な開発やってるってバレる。
かつてエレン・ヴァルトナーが化粧水の材料を見抜いたようにな。
商人の行き来が激しいこの場所に村があれば、物資を積んだ商人が来ても自然だし、この村で積載物資の中身が変わったとしても、誰も確かめる手段がない。
つまり、遺跡への資材搬入を誤魔化すために、この村は作られたんだ。
そして今も中継地点として活躍中と。
村の商店に並んだ、あの異様な数の食料や日用品は、いずれファンケルベルクの街に行くはずだ。
腐った食料は廃棄したとかなんとか理由を付けて、な。
さらに、それだけじゃここにいる人間は暮らせないから、宿とか色で稼いでると。
考えられてるなあ。
まさか、遺跡を開発したいって言っただけで、ここまで大がかりな仕掛けが生まれるとは思わなかった。
「そ、その他、新人キョウイクや商人からの諜報など、すべて順調でございます」
「わー黒いなー、真っ黒だぁ」
ニーナの視線が冷たい。
なんか、どっと疲れが……。
もう帰りたい。
俺が打ちひしがれている時、扉が音を立てて開かれた。
「チョリーッス、そんちょ、よんだ?」
耳にピアスを付けた無精髭の青年が現われた。
すげぇ、この下品な挨拶久しぶりに聞いた。
チョリーッスって言う奴、この世に存在するんだな。
挨拶は下品なのに、顔はすごいイケメンだ。
それに、大人の色香がすごい。
若いのに渋いというか、すべてを許してくれそうというか。
こいつ、きっと片手じゃ収まらないくらいの女性を泣かせてるぞ。
「ジェイ、陛下の御前だぞ。少し慎んでくれ!」
「陛下? おお、エルヴィン様、ハジァーシテ。おれ、ジェイっス。宜しくっス」
「……う、うむ」
はじぁーして?
ああ、初めましてか。
一瞬なに言ってるのかわからんかった。
っていうか村長、陛下っていうのやめて。
背中がぞわぞわするから……。
「エルヴィン様、こやつをお供に付けていただけませんか」
「……は?」
嫌だけど?
「お気持ちは十分理解出来ますが、先ほどユルゲン様から伝書鳩が届きまして……」
おいユルゲン、なんでこんな奴付けようと思ったんだよ……。
「こう見えて盾役としては非常に優秀でございます!」
「ほう……」
「ですので、何卒……」
盾役なら普通にほしい。
ただし、その盾役が裏切り者でなければ、だ。
俺は込めた魔力に命令を飛ばす。
足の下の影がもぞもぞ動いて、ジェイに伸びる。
「うへっ、なんだこれ気持ちわるっ」
ジェイは避けるが、影からは逃れられない。
俺の影がもぞもぞ動く。
だが、そこまでだった。
影は盛り上がらず、元の形に戻った。
ほう。
こんな軽薄な挨拶しか出来ないから、中身もスカスカかと思いきや、忠誠心はちゃんと備わっているみたいだな。
これなら裏切られることはなさそうだ。
絶体絶命のピンチに逃走するパターンはあるかもしれないけど。
でも、足手まといになるよりかは、どこぞに消えてくれたほうがまだマシだ。
「たしかに、ジェイは受け取った」
「あ、ありがたき幸せ。どうかジェイめを、使い潰してやってください」
「いやそんちょ、勝手に潰そうとするなッス」
悪いなジェイ。
丁度(トモエ用の)盾が欲しかったところなんだ。
潰れないよう、頑張ってくれ。
心の中では応援してるぞ。
さて、ジェイを連れていくのはいいが、性能がまったくわからんな。
こいつ、プロデニ本編には出てこなかったからなあ。
「ねえ、本当に連れていくの?」
「遠慮したいが、まあ使い道もあるからな。あの女にぶつけるとか――」
「鬼ね」
「冗談だぞ?」
「嘘おっしゃい。今本気だったでしょ」
バレたか。
いや、冗談だぞ。
だってトモエにぶつけて秒で切り刻まれる未来しか見えないもん。
それはさすがに可哀想だ。
一応、念のために盾としての性能だけは聞いておくか。
「ジェイ。正直なところ、お前はどの程度盾として使えるのだ?」
「んー、結構使えると思うっス」
「……具体的に頼む」
「ユルゲン様の攻撃くらいなら無傷っスね」
えっ、普通に凄いな。
びっくりだわ。
ユルゲンが戦ってるところを一度も見たことないけど、雰囲気バリバリ強キャラだからな。
そもそも、ファンケルベルク使用人のトップ3の一人が、弱いはずがない。
その攻撃を食らっても『耐えられる』じゃなくて『無傷』って言い切ったところが、なお凄い。
「あの男の攻撃を無傷って、凄いわね」
「む、ニーナはユルゲンに会ったことがあるのか?」
「ええ。教会に物資を届けに、何度かね。戦ってるところは見たことないけど、強さはわかるわよ」
「なるほど」
それなら聖女の驚きも納得だ。
アイツ、顔といい雰囲気といい、殺戮兵器としか思えないからな。
「ならばジェイは相当強いのだな」
「いやいや、全然強くないっスよ? 自分、攻撃はからっきしっス」
ほう、防御特化型なのか。
プロデニのメインキャラにはいなかったタイプだ。
「何故そこまで硬くなったのだ?」
「毎回、付き合う女にサされまくるからっスかねぇ」
なに『授業中先生によく当てられる』みたいなノリで、さらっと怖いこと言ってんの?
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